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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:スターボード (ライティング・ゼミ名古屋会場)
 
 
2015年、夏。
 
四谷駅、丸の内線から中央線への乗り換え改札口。その脇にあるポケットコンビニで買ったストロングゼロを人目から隠れるように飲んでいる男がいる。僕だ。
 
これが休日ならまあ珍しくはないかもしれない。でも、これは平日の朝なのだ。通勤ラッシュで我先にと会社へ急ぐサラリーマンに混じって、ひとり電車にも乗らずストロングゼロをゴキュゴキュやってる。これは明らかに異常な光景である。
 
当時、僕はサラリーマンをしていた。ピカピカの新卒で入った会社は誰もが知っているグローバルカンパニー。「世界を股にかけて活躍したい君へ」という会社案内のパンフレットに惹かれて入社を決めた会社だ。入社後は希望の配属先にも恵まれ、20代後半では海外駐在も2度ほど経験した。そんなイケスカナイ経歴を持つ自分は、周りには順風満帆に見えていたかもしれない。
 
でも内実は全然違った。入社して10年も経つと、大抵の仕事はだいたい経験したことのあるものばかりになっていた。つまり変わらない日常の繰り返し。尊敬できない上司からの意味のない仕事のオーダー。
 
慣れは自分から仕事に対する興味と情熱を奪い取り、同時に退屈と焦燥を連れてきた。「自分は何のために仕事をしてるんだろう?本当にこのままでいいのか?」
 
人間は内的動機付けで仕事ができなくなると、外部にその理由を求めるようになる。自分もそうだった。「これは家族のためなんだ。子供ために仕事を頑張らなきゃ」と自分で自分に言い聞かせるようになっていた。
 
そんな休日のある日、家族で外を歩いていると後ろにいた妻が、「あなた、どうしたの頭!?」と言う。アタマどうしたの?と言われてちょっとムッととした僕は妻に指差された後頭部を触って愕然とした。
 
500円玉よりも一回り大きいハゲができていたのだ。円形脱毛症。聞いたことはあったが、まさか自分がなろうとは夢にも思わなかった。直感的に、心の無理が体に現れたのだと分かった。心も体も悲鳴を上げている。もう自分に嘘は付けない。逃げれば逃げるほど不安は追ってくる。そしていずれはそれに捕まって、本当じゃない自分がほんとうの自分に入れ替わってしまうという感覚。僕は会社を辞めることを決意した。
 
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1993年、秋。
 
埼玉の三省堂書店で『ホットドッグ・プレス』を夢中で立ち読みする高校生がいる。僕だ。
腰パンで今にもずり落ちそうな制服ズボンを履いた自分は、書店で周りの目も気にもせずにファッション誌を読み漁っている。『メンズノンノ』に『FINEBOYS』に『POPEYE』。オシャレになりたい一心で、精一杯の背伸びをしていたあの頃。
 
人並みに好きな子ができて、いつ告白するかドキドキしながら、「ないてぃないすり~♫恋をした~♪Oh~君にむちゅうぅ~♫」を歌ってたあの頃。
 
あの時、ファッション誌に混じって僕は一冊だけまったく違う雑誌を手にしていた。
 
『月刊アントレ』である。これは独立や起業を目指す人に向けたアントレプレナーに向けた雑誌だ。なぜこの雑誌を手に取ったのかは覚えていない。でも僕は確かにその雑誌を購入した。内容は忘れたが「雇われない生き方を選ぶあなたへ」みたいなタイトルだった気がする。きっと今も実家のどこかにその雑誌はあるはずだ。何の変哲もない普通の高校生だった僕は確かに起業家に憧れていた。
 
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2023年、冬。
 
名古屋の熱田神宮で「今年も社員みんなの健康と事業が大きく成長しますように」とお願いするオジサンがいる。僕だ。
 
2019年に創業した僕の会社は5期目に入った。高校生の時にアントレプレナーに憧れた時からちょうど30年。
 
少しカッコつけてサラッと書いたが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。なぜなら僕の創業した会社は外国人材業だから。
 
創業は2019年。そう、その翌年に世界的なパンデミックが起こったのだ。水際対策という名のもとに国境は閉鎖され、外国人材の入国は約3年間完全にストップした。当初立てていた事業計画は当然達成されず、運転資金として金融機関からマックスに借り入れた数千万単位のお金も完全に底をついた。
 
でも僕は諦めたくなかった。諦めたらまた高校生の頃の自分を裏切ることになるのが分かっていたから。それにもう四谷駅でストゼロを胃に流し込むような思いは二度としたくなかった。
 
だから毎日自分にこう言い聞かせてきた。「白旗上げるにはまだ早すぎる」、「もう立ち上げれないと思ってからが勝負だ」、「もう1日だけ。そうあともう1日だけ」
 
正直サラリーマンをやっていた時の方が10倍楽だったと思う。でも僕は今の自分の選択に満足している。
 
17年間サラリーマンをやってきた僕はこう考える。毎日同じことを繰り返すなんて味気のない人生だ、挑戦して、負けて、泣いて、また立ち上がって挑戦する。それが人材の味付けになるんだと。
 
だからこれからも僕は、誰よりも多くの失敗という名の経験を積んでいきたい。今から30年後の2053年。僕はやりきったおじいちゃんになれているだろうか。
 
 
 
 
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2023-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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