週刊READING LIFE vol.206

令和時代のテレビっ子《週刊READING LIFE Vol.206》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/2/27/公開
記事:黒﨑良英(天狼院公認ライター)
 
 
 最近、とみにテレビっ子である。
いや、もはや「テレビっ子」という言葉も通用しなくなってきたかもしれない。
要するに、テレビが大好きな人種を、昭和〜平成時代はそう呼んでいたのだ。
 
もちろん、他のスケジュールがあるゆえ、朝から晩までとはいかないが、仕事から帰って食事を取って夜の8時、そこから日付が変わるまでほぼぶっ通しで見ている。
休日なんぞは下手すれば昼間から見ている場合もある。明るいお天道様をよそに、こたつに入ってミカンを剥きながらぼーっとテレビ画面を眺めている時間は、まさに至福である。
 
と言って、その実、そんなにおもしろいか、と問われると、実はそうでもない。
ご存知の方もおられるかと思うが、昼間にやっている番組といえば、ワイドショーとか2時間刑事ドラマとか韓流ドラマくらいなものである。我が家は特に、ケーブルテレビに入っていないので、NHKの2局と民放の2局しか入らない。田舎はそんなもんである。
あとはなぜか衛星放送が映るのであるが、これもまた大半がテレビショッピングの時間である。
 
まあ、このテレビショッピングも、それはそれでおもしろいのだが、とにかく際立って面白みのある番組があるわけではない。(もちろん個人の感想であり、それらの番組を否定しているわけではないので悪しからず。)
 
じゃあ、なぜ? と問われると、いささか困ってしまうのだが、おそらく、テレビというものを中心に据えた、環境と時間の流れに安心感を抱くのではないか、と考える。
 
テレビを見ていると、不思議なことに、時間の流れが緩慢になる気がするのだ。
逆に早く過ぎ去ってしまうのではないか、という声も聞こえてきそうだが、さにあらず。
テレビ番組は、大体30分〜50分ほどで組まれており、その合間合間に5分ほどのニュースが入る構成がほとんどだ。したがって、1番組が終わると、大体1時間経っている。そこであっという間と感じるのは、やはり「とてもおもしろい」番組があった時で、そうでもなければ、内容と経過時間の釣り合いが取れているように感じるのだ。
つまり、1時間番組を見たら、「1時間経ったな」と感じるだけの相応の時間を過ごせるのである。
生放送だと尚更だ。時間を、テレビの中と共有することによって、テレビの時間が自分の周りの時間とリンクする。そして経過時間をよりリアルなものとするのである。
 
これが、例えば昨今話題のサブスクリプションで映画なりドラマなりを見ていると、おそらく、あっという間に時間が過ぎ去ってしまう。次の話数があれば、どんどんどんどん、続きに見入ってしまう。そして終わったところで、もうこんな時間か、と気づくのである。
 
その点、テレビは秀逸である。良い意味で、集中を途切れさせる。
そう、CM、コマーシャルである。
テレビで映画でもやっていようものなら、何かと悪者になってしまうあのCMが、実は、大事な意味を持つ。
もちろん、本来テレビ番組とは、CMを見せるための番組でもある。CMを見せるために、魅力ある番組を流し、見てもらおうというのが、まあ、本来の意味合いなのであろう。
しかし、私が思うCMの魅力とは、いわゆる「たい焼きのしっぽ」であり、「アイスクリームのコーン」である。
ずうっと同じ味を、夢中になって食べている時に、さっと舌を爽やかに戻してくれる、そんなオブジェクトだ。
 
テレビを見ていると、どうしても夢中になってしまう。
そんな中、フッと番組が切れて、CMが流れる。そこで気持ちをリセットするのである。時計を見て時間の流れを確認するのも良いし、お茶を入れに行ってもいい。もちろん、CM自体を楽しむのも良い。CMというものは、昔から秀逸なものばかりだ。
とにかく、テレビ漬けの中にテレビから切り離される時間、すなわち余白の時間をくれるのが、CMである。ひたすらテレビを見続ける生活において、このCMというのはとても大事な時間なのである。
 
この大切な時間であるCMは、やはりリアルタイムでしか「利用する」ことができない。
だからこそ、テレビはリアルタイムで見るのが良いのだ。
しかし、そんな特別面白くない番組を、これまたそこまで面白いわけでもないCMと共に見るのは苦痛だ、と思う人もいるかもしれない。
確かに「特別面白いわけではない」とは言ったが、矛盾するようではあるが、実際、面白い番組も多いのだ。
 
特にドキュメンタリーやバラエティなどは秀逸なものが多い。その中でも旅番組は、いつ見ても、いや、同じ旅先の番組を何度見ても面白い。
取り上げる店や観光地、知らない街をただ歩くという番組なんか、もう最高である。初めての風景が私を和ませる。知らない町並み、知らない食材、愉快な住人、などなど。旅番組がいまだに無くならない所以であろう。
 
個人的には歴史系の番組も大好物である。大河ドラマもさることながら、歴史系ドキュメントや歴史バライエティも面白い。
我が故郷はかの武将、武田信玄公(「公」をつけないと怒るお年寄りがいるぞ)が収めた甲斐国、山梨県である。戦国時代の特集でもあれば地元の映像が出てきて、それもニヤニヤしてしまう。
そういえば、地元の昔の映像が出てきて、懐かしくて涙したことがあった。そういう効果もある。
 
地元といえば、地元のテレビ局、いわゆる地方局の、どローカル番組もなかなか捨ておけない。
地元民ですら知らない店の情報だとか、よく知っているが滅多に行かない公園の様子など、バラエティにあふれる映像が流れる。どこぞの誰々さんのペットがどうだとか、動物園の鹿が逃げたとか(実話である)、そんな結構どうでもいい話題も、テレビ効果なのかどうか、興味深く感じる……こともある。
 
おそらく、いい意味でも、悪い意味でも、テレビの魔法というものがある。何が見たいわけでもなく、ボケーっとテレビ番組を眺めていると、なんでも面白く映ってしまう。
コタツというアクセントもいけないのかもしれない。ずうっとその場にいられる。そこにテレビだ。
 
これはもう、仕方ありませんよね!
 
あのテレビショッピングですら面白く感じてしまうのだから仕方がない。
特に、海外のショッピング番組の吹き替え版は、時として腹がよじ切れるほどの面白さである。
くだらないことでものすごく困っていたり、隣人がなぜか朝ごはんをタカリに来たり、どうしてそうなった? と疑問を呈さずにはいられない。
色々な魅力ある番組に溢れているのが、昨今のテレビ番組である。
 
テレビが「オワコン」と呼ばれて久しい。オワコン、すなわち「終わったコンテンツ」である。
しかし、本当にそうであろうか? 例えば、メディアという面を見ても、テレビの力は強い。
「雑誌に載った」「新聞に載った」「ユーチューブで配信された」というより、「テレビに出た」という事実の方が、インパクトが大きい。実際の効果は問題ではない。「テレビに出た」という言葉自体が大きな力を持つ。それだけ、テレビの力は絶大である。
 
今、若者のテレビ離れが指摘されている。しかし、その実、テレビの番組自体を、スマホなりパソコンなり、テレビ本体とは異なるデバイスで見ていることも多い。
となると、テレビの独自性は、やはり、環境を演出するところにある。
コタツのある居間で、家族揃って一つの番組を共有する。その風景こそが、テレビが構成する魅力であり、唯一無二の効能であると考える。
そしてリアルタイムで流れ、かつ、毎週シリーズものの番組が時間通りに流れる、というのも大事だ。現実の時間と共に流れ、毎週番組を楽しみに待つ、というのも、テレビの醍醐味であるのだ。
 
テレビを侮るなかれ。
テレビはまだまだ最前線で活躍する一級のメディアである。
面白い、実に面白い。特別面白くなくても面白さを探すのも面白い。
テレビの可能性は無限だ。だから、その楽しみ方も無限だ。だから無限に見続けることができる。
 
さあ、あなたも今日はテレビを見よう。意外にも新たな発見があるかもしれない。そして、あなたもテレビの魅力に釘付けになることであろう。
これであなたもテレビっ子。
 
でも一日中見続けると、お母さんに怒られるぞ! ほどほどにね!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒﨑良英(天狼院公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。持病の腎臓病と向き合い、人生無理したらいかんと悟る今日この頃。好きな言葉は「大丈夫だ、問題ない」。

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2023-02-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.206

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