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アラフィフになり、未履修科目が山積みになっていることに気づいた

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
 
 
試練は急にやって来る。
 
一通のお誘いメールが私を緊張の極致にいざなった。
 
「お茶席に参加されませんか?」
 
お茶席。いや無理。
頭の中で断る理由を必死に検索し始めた。
 
誘ってくれた方は、長女が習っている編み物の講師で、私自身もその彼女のほがらかな人となり、身のこなしや生き方のしなやかさが大好きでとても尊敬している。あんなふうに年を重ねて行きたいなと思えるお手本になるような女性なのだ。
 
だから、誘ってもらえるのはとても嬉しい。
 
でも、でも……!
 
只今45歳。この年になって茶道全くわかりませんってドヤ顔で言えない見栄っ張りである。それに、茶道以前に、私は正座ができない。
 
昔、父が「正座をすると足が太くなるから、正座をするな」と言われて育ったので、ほとんど正座をしてこなかったのだ。ちなみに、正座をしていなくても足は細くならなかった残念な私である。
 
でも、そのお茶席の日取りは、なんと半年以上先の予定だった。しかも、その日に、娘の編み物の作品もお披露目する計画だという。彼女は、本気で私を招いているんだ、とわかった。
 
「私、茶道とかホントにわからないんですけど、大丈夫でしょうか」
 
もう、見栄を張っている場合じゃない。茶道はできないと白状した。
 
「大丈夫よ! みんなお茶席を知らない方たちばかりだから気楽に来てね。それに、今回はテーブルスタイル茶道というカジュアルなお茶席なのよ」
 
いつも優しくてウエルカムな彼女の返事に、不安は募るばかりだったけど、テーブルスタイルという言葉を見てテーブルに座るお茶会なら正座もしなくていいし行けるかなと思い直し、せっかくお誘いいただいたので、参加しますと伝えた。
 
あっという間に半年が経ち、お茶席当日になった。唯一アテにしていた茶道部所属の息子が登校日であることを知って朝から不安ばかりが募った。
 
「大丈夫だよ、茶菓子食べてからお茶飲むだけだって」
 
そう言ってから、いってきまーすと扉の外に消える息子にすがりたいくらいだった。
 
けど、もう、仕方ない。今日は恥を忍んでわかりません、教えて下さいと言おう。わからないんだから、知ったかぶりしても仕方がない。腹を括って、長女と次女を連れ、会場に向かった。
 
指定された場所は、彼女の義実家だった素敵な日本家屋で今は娘夫婦が住んでいるのだそうだ。窓の外から眺める庭が美しく、心が静まるのを感じた。
 
あれ、まずい……。
 
案内された部屋を見て焦った。広々とした畳の和室で、座卓に茶席の用意がしてあった。
 
あちゃー、これは、正座一択である。
 
半泣きになりながら、座布団に座る。娘たちも大丈夫だろうか、と思ったら、二人ともきちんと正座で座っていて衝撃を受けた。そう言えば、長女は習字に通っているし、次女は保育園で、正座で生活をしているからだ、ということに気づき、ますます情けなくなる。
 
正座ができないの、私だけかよ……。
 
粗相してもバレないように先生からなるべく遠い席を確保し、正座した。
 
床の間には、素敵に花が生けられていた。
 
この会を主催してくれた憧れの彼女は、聞けば、茶道も華道もお名取なのだそうだ。いつも気さくで朗らかな彼女の品の良さが深く本物なんだなと納得した。
 
不安だけが雪だるまのように膨らんでいく中で、お茶席がスタートした。
 
先生は、もっとおうちでカジュアルにお茶席を楽しんでほしいと、このテーブルスタイル茶道をやっているんです、と優しく微笑んだ。誘ってくれた彼女のつながりらしい、とても素敵な方だった。着物姿が凛としていて背筋が通り、所作の美しさにうっとりと見とれていると、
 
「息子さんが、茶道部でらっしゃると聞きましたよ」
 
と声をかけられた。遠くの席で絶望的な顔をした私に、先生は気づいただろうか。
 
その情報、伝わっていてほしくなかった……!
 
「確かに、息子は茶道部なんですけど、私は本当にわからないので、スミマセン」
 
か細い声で謝ると「大丈夫ですよ」と優しく返してくれた。
 
気を取り直して、テーブルの上を見てみると、お湯の入った鉄瓶、お盆の上にお茶碗、お抹茶が入った棗、お抹茶をすくうための茶杓、お茶をたてる茶筅、茶碗を拭く茶巾、お菓子が載っている。
 
どうやら、自分ひとりでお茶を立てるらしい。
 
まずは、お菓子を頂く。
 
緊張しきった心身に和菓子の優しい甘さが広がっていく。
 
そのあと、いよいよ、お点前の説明が始まる。先生は、流れるような説明をしながらも、無駄のない美しい動きで手順を説明する。
 
「茶道の動きは、洗練されていて、ひとつひとつに意味があって無駄がないんですよ」
 
言われるがままに手を動かすのに必死で、その意味は全く腑に落ちなかったけれど、確かに先生のお手本の動きはとてもきれいだった。
 
お茶碗をあたためて拭いたあと、いよいよ抹茶を立てる。お茶を立てたことがなかったから、ちょっと楽しくなってきた。ここまでしたらあとは飲むだけ。
 
茶碗を回すのもどうにかこうにかしてお抹茶に無事ありつくことができた。
 
その後もお茶碗の絵の話や季節を大切にする話など、沢山お話を聞いて満足して帰宅した。
 
今回、もてなす、ということにとても感動した。
さそってくれた尊敬する彼女も、お茶の楽しみ方を教えてくれた先生も、長い時間をかけて、客をもてなす気持ちで部屋を整え、着物を着て身なりを整え、花を生け、茶席を作って下さる。客人をもてなすために沢山のことを学び、当日に備えている。今の人達が無駄と思って切り捨てている部分を大切にしていることに気づかされた。
 
いつまでも、若いつもりでいたけど、この年になると着物も着れず、花も生けられず、お茶も立てられない45歳の女子のなんと薄っぺらいこと。なんだか情けないなあと思ってしまった。
 
薄っぺらいと嘆いていても仕方がないから、機会があったら、日本文化から逃げていたのを返上して、学んでみるのもいいのかもしれないな。そんな風に思えた。
 
帰宅して、息子に「テーブルの上に全部お茶の道具が置いてあってね、自分で飲んだんだよ」と自慢してみた。そうしたら、あっさり一言、
 
「それ、盆手前でしょ。部活でやってる」
 
と返ってきた。
 
くううう。十代にも見事に負けてるアラフィフの私、日本文化方面に未履修科目、満載です!
 
 
 
 
***
 
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2023-03-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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