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「この子は天才じゃないですよ」と言われて


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小野汐里(ライティング・ゼミ京都会場)
 
 
天才と秀才、あなたはどちらになりたい?
小学生の頃、担任の先生がクラスに問いかけた言葉の意味が、最近ようやくわかった。
 
30年程前、小学校の小さな机に座っていた低学年の私。算数の授業中だった。
「この問題、解ける人いるかな?」
先生がクラス全体に向かって言った。どちらかというと、引っ込み思案の私は、恐る恐る手を挙げた。周りを見渡すとクラスで手を挙げたのは、なんと私1人だった。
「前に出て、解いてみて!」
「……はい」
静かに席を立って、椅子を机の中にしまった。冷たくてツヤツヤした椅子の質感もいまだに覚えている。クラスメイトの机の間を縫うようにして進みながら、黒板の前に立った。チョークを手にしたら、緊張が増した。背中に、クラスメイトの視線を感じ、冷や汗が流れたのを感じた。あまりのある割り算の授業だったと思う。答えが割り切れない場合に、「こたえ△△ あまり○○」と書く、あの問題だ。
私が『△△』まで答えを書くと、背中からやじが飛んできた。
「それじゃ、割り切れないじゃん!!」という男子の声だ。一瞬怯んだが、ぐっとチョークを握り、「あ・ま・り ◯◯」と書ききった。心臓が飛び跳ねて、目も回った。ふらふらしながら自席に帰り着いて、座った。先生は「正解です」と丸をつけた。
小学生の私は心底ホッとした。できます、と言ってできなかったら、嘘つきになるみたいで嫌だったのだ。
「なにそれー」「そんなの、ならってないよ」
他のクラスメートは口々に言った。そこから、教室が妙なムードになった。
「『てんさい』なんじゃない?」「そうだ、てんさいだ」誰かが言い出して、クラスのあちこちで「てんさい」という言葉が聞こえた。
私は恐ろしくなってきた。なぜ、私が学校で習っていない単元の答えを知っていたか?親が買い与えた通信教材を、授業より早く進めていて、一度習っていることだったから、答えられただけのことだ。どうしよう、どうしよう……
先生は、みんなの声を遮って、落ち着いた声で私に聞いた。
「どうして答えられたのかな?」
「あの……家で勉強したことがあったんです」声を絞り出した。
先生は、満足そうに頷いて、クラス全体に向けて言った。
 
「みなさん、この子は『てんさい』ではありませんよ」
 
またクラスが騒然となった。「せんせいは『てんさいじゃない』って言うなんて、ひどいね」と言う女子の声が遠くから聞こえた。
私は、思いもよらず自分が話の中心になってしまって、どうしたらいいのかわからず、目を伏せた。大好きな先生からの「天才じゃない」と言う言葉にも傷ついた。
 
それから、先生はゆっくりと続けた。
「てんさいは、なにも勉強しなくても、答えがわかってしまう人のことです。でも彼女は、みんなより先に学んでいたから、答えられたと言っています。つまり、多く頑張っていた、ということですね。だから天才ではなく、『しゅうさい』です」
それから、天才と秀才の違いを、クラス全員にわかるように丁寧に教えてくれた。もちろん私も秀才という言葉を知らなかったから、その時に初めて意味を知った。クラスはいつもの雰囲気に戻り、授業は続いていったが、私はずっとドキドキして、その後の授業が耳に入らなかった。
 
「天才と秀才」 この言葉は、ずっと心の中に止まった。
なぜ、先生はあんなことを言ったのだろう。子どもの頃は、ネガティブな意味に捉えていた。自分が天才ではないということは、子ども心にもわかっていたけれど、「あなたには天から与えられた才能がない」と真正面から言われたように捉えた。
 
でも、大人になって、子育てをしてみて、その意味合いがようやくわかったような気がする。実は先生が言いたかったのは、全く逆の意味だったのではないかと思う。「あなたには、人より努力する才能がある」と伝えてくれたのではないだろうか。
 
人は多かれ少なかれ、挫折を味わう。私も、自分に期待して、がっかりした経験はたくさんある。その時に、もし自分には才能があると信じていたら「やはり才能がない人間なのだ」と解釈する。才能がないと理由をつけて、挑戦を諦めてしまうかもしれない。でも、「自分は人より多く努力し、結果を出せた経験がある」と捉えていたとしたら、「今回は少し努力が足りなかったのだ」と捉えることができる。努力を続けることができる。この差は、とても大きい。
 
「あなたは、才能があるね」と言われれば、やっぱりちょっと嬉しい。でも、先生は挫折も乗り越えられる「秀才」という言葉を選んでくれた。大好きな先生に心から感謝している。
 
 
 
 
***
 
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