「人生で初めてのサードプレイス」
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記事:芙美(ライティング・ゼミ2月コース)
最近よく話題にあがる、サードプレイス。
お気に入りのサードプレイスと言えば、近所の美味しいコーヒーを出してくれる喫茶店やPC作業の出来る図書館、お酒も出してくれるカフェバーなどが多いかと思う。
私にとって人生で初めてのサードプレイスは、大学のサークルだった。
「あ~~~! 」
大学三年の春、私は花小金井の駅から自宅まで大声を出しながら自転車で走っていた。
大学で所属している山のサークルの幹事長になってしまったのだ。
しかも、そのサークルは潰れかかっている。
私で42期続く山岳サークルは、歴史はあるものの、ここ1~2年新入会員の勧誘はあまりうまくいっているとは言えず、うちの代には私のほかにもう一人しかいない。
大学1年の入学式の日、新入部員勧誘の出店で見せられた沢登りの写真に魅せられて入部を決めた。
入部してすぐに、サークルの伝統だという大学近くの激辛カレーの店に連れて行かれた。
何とか飲み下すことは出来たが、美味しいというような感想を抱くのはお門違いのように感じた。
しかしそのカレーはなぜかやみつきになってしまう魔力を持っており、サークルの先輩に連れられて週に2回は行くような常連になってしまった。
それからは教室にいる時間よりも大学の屋根裏にある部室にいる時間のほうが多いという大学生活を送った。
(これはすでにサードプレイスの範疇を超えているかも知れない…… )
毎週のように山に行き、沢を登った。
サークルにいる個性的な先輩方も大きな魅力だった。
2000年台前半には、大学を卒業しない先輩方がたくさんいたのだ。
7年生・8年生はごろごろいた。
それぞれキャラ立ちしている先輩方には「グルメ」「委員長」「菩薩」「リーダー」などというニックネームがあり、そのニックネーム通りのキャラクターとして振舞っていた。
たとえばグルメ先輩は、登山合宿の1週間の食事メニューを司ってくれて、ずっとおいしい食事を提供してくれる。
忘れられないのは食後のデザート。常温保存可能な牛乳で作る杏仁豆腐など。(毎晩デザート付きだった)山の上まで生卵を持ち運ぶスキルには感服した。
委員長は山には登らないが、飲み会だけは皆勤賞。三角形の眼鏡をくいッと上げる仕草で、すいすいと日本酒を飲み干していた。
菩薩さんは常に穏やかな顔をして部員を見守っているが、突然何かに反応して豹変するところがあり、そのあたりも何となく菩薩っぽい。
リーダーに至っては、当初はえせ「リーダー」で、リーダーのように振舞っていたが、気付いたら大学を辞めて政治家に転身していた。
本当に楽しく、居心地のいいサークルで、大切な場所だった。
特にそのサークルで好きだったのは、来るもの拒まず去る者は追わずというドライな雰囲気で、さらに誰も誰かのことを攻撃することがないところだった。
誰もがメンバー全員を受け入れていて、裏で誰かの噂話をするようなことがないところも好きだった。
その大好きなサークルが、私の代で潰れかかっている。
私が入部した時には20人程度はいるサークルだったのに。
大好きな場所を後輩に受け継いでいきたかったのに……
原因はいろいろあるが、やはり7年生・8年生だった先輩方が一斉に卒業していったことが大きい。
サークルのカラーを作っていた大御所の先輩達がいなくなると、比較的普通で真面目だった一期上の先輩方は、三年になると当然のように就職活動や公務員試験の準備を始め、サークルには顔を出さなくなった。
というか、それが当たり前で、「当然のように」ではなくて、「当然」なのだが……
サークルのカラーを作っていた先輩方がいなくなると同時にサークルの求心力も急速に失われたように感じた。
サークルの先輩としての自分自身の魅力が足りないのかとも思い悩んだ。
やはり今まで何をするわけでもなくとも、当たり前にそこにいてくれること、場所を温めてくれていた先輩方の存在は本当に大きかった。
私はサークルを存続させるために、できる限りのことをしたと思う。
でも結局、サークルは私の卒業後に46期で終わりを迎えてしまった。
それを知ったときは本当に寂しかったし、責任を感じた。
自分のサークル運営がまずかったせいでそうなってしまったのではないかと。
それから20年ちかく経った今、私たちはまだよい仲間として年に数回会える関係で、会うと心から笑いあえる。
誰かが結婚すれば祝い、入院すれば見舞い、元顧問の家に集まり酒を酌み交わす。
誰もが心地よく過ごせる場所を作ってくれたメンバーは得難いものだったが、サークルがなくなってもそのこころが失われるものではなかった。
誰もが心地よく感じられる居場所を作るのは難しい。
その場所をずっと維持することももっと難しい。
今いる人たちの絶妙な人間関係のバランスによって作り出されている心地よさは、かけがえのないもので、そんな居場所に出会えて、その仲間になれた幸運を噛みしめる。
また、いつか、そんなサードプレイスと出会い、いや、創り出せる人になりたいと思う。
***
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