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白馬の王子様は現れない

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Keita Hosoya(ライティング・ゼミ 12月コース)
 
 
ちびまる子ちゃんのアニメの中で、何度かこんなシーンに出くわしたことを覚えている。キラキラと霞がかったお花畑の中で、白馬に跨ったスタイリッシュな王子様が、まるちゃんに手を差し伸べている光景だ。一体どんな流れでそんなシーンが挿入されていたのか今となっては定かではないが、“まるちゃんの何らかの憧れ”を表現していたシーンだったことは確かなように思う。
 
そう、まるちゃんに限らず、人はそれぞれの“白馬の王子様”を待望しがちだ。
 
かくいう私も、その例に漏れない。
思春期だった高校生の頃は、繰り返される日常に辟易し、日本の中心“東京”に行けば退屈さを払拭できるに違いないと信じていた。金銭面で不自由さを感じていた大学生の頃は、“社会”に出て社会人になれば自由になれると信じていた。
 
しかし、実際は違った。
東京も社会も、確かに変化をもたらしてはくれたが、私が感じていた人生の退屈さや不自由さを、綺麗サッパリ払拭してくれた訳ではなかった。そう、”白馬の王子様はいなかった”のである。
 
人生をそれなりに生きると、現実はいつも憧れを上回ることがない、ということを悟るようになる。胸に抱く期待や幻想はいつも過剰で、現実はいつもそのハードルの下だ。
そう考えると、すっかり自分は社会に染まり切って、「白馬の王子様は現れない。現実にいるのは、公園に現れるしなびた中年男性くらいだ」というリアリストな大人になったような気もしなくもないが、必ずしもそうでもない。
 
いやむしろ、この現実世界でどうすれば白馬の王子様に出会えるのか、その方法が感覚的に分かったという気すらする。ある経験を通じて、私はそう思えるようになった。
 
 
弘前の農学系大学院に進学することが決まった時、結婚式で永遠の愛を誓いあうカップルさながら、私は残された学生時代の全精力を、研究課題に傾けることを誓った。と同時に、もう一つ心に決めたことがあった。それは、“農村に住む”ということである。
 
なぜなら、農業を学ぶ身として、農業が実際に行われる農村のリアルを知らないのはダメだと考えたからだ。
私の、そんな考えは周囲の仲の良い人達には賞賛された。
「それはとてもいいことだ」
「農学部の学生として筋が通った考えだね」
「必ずやった方がいいよ。研究に血が通うよ」
などなど。
 
私も自分の考えに、自信をもっていたから、実現に向けて心を躍らせた。
 
しかし、現実はそう甘くはない。
第一、インターネットに出るような賃貸物件には、農村のものなど一つもない。あってもだだっ広い家が数軒売買に出されている程度で、学生がどうこう出来る代物でもなかった。
 
一方不動産屋に直接相談しても、一学生の願望のような話には当然取り付く島もなかった。
居住先が決まらず、計画が頓挫しそうになった私は、違う手段に出ることにする。
 
弘前で有名な農家の講演会にもぐりこんで、自らの考えと状況を説明することにしたのである。こういう理由で農村に住みたいが、現実問題借りられる家がないと。すると、その農家の方は「その志はいいことだ」と大層喜んでくれ、「あてがあるから任せてくれ」と言った。
 
良かった!これで私の農村移住計画は実現する!と私は確信した。
早速その農家と連絡先を交換して、大船に乗ったつもりでいた。
 
ところが、である。
待てど暮らせど、連絡はこない。
急かすようだし、有名な方だし、そんな連絡する訳にもいかないなという遠慮の気持ちもあり、ただ私は待っていたのだが、一向に連絡がこないのである。
 
直接話したあの空気感であれば、数日で決まりそうな熱量だったのだが、2週間を過ぎても連絡はなかった。一度、ショートメールで連絡も入れたのだが、どうも既読したようすもない。大学の入学式も迫っていた。
 
参ったな……
と頭を抱えた私は、苦肉の策として、同じ青森県内に住む親戚の家に身を預けるという選択をする。大学まで片道車で1時間半、通学の距離圏内ではなかったが、私はまだ”農村に住む”ことを諦めないでいた。
 
親戚の家も、数年ぶりに会う甥っ子を当初は歓待してくれた。
しかし1週間、2週間経つにつれ、なんとなく空気感も変わってくる。
私は焦り始めた。そして思い始めた。「あの、あてがあるから任せてくれ、という言葉はなんだったのか?」と。「全然話が違うではないか?」と。少々ふてくされながら、私は思い始めた。
 
思い切って電話をかけてもその有名な農家とは連絡がまったく取れなかった。
忙しいのか、気づいていないのか。それすらも分からない。
ダメだ、もう待っているだけでは埒が明かない。自分で見つけるしかない。
痺れを切らした私は、そう覚悟して、自分でもう1度農村で住む場所を見つけようと心に決める。入学式は終わり、親戚の家から通う大学生活はもう既にスタートしていた。
 
「あの~すいません、このへんで、借りられる家を探しているんですが」
 
今思ってみても滑稽だが、「一人笑ってコラえて」さながらに、ボロボロの中古自動車で農村をゆっくり走りながら、私は村人がいれば車を停めて窓を開け、情報を集めた。まるで有益な情報が得られない日もあれば、「あそこの空き屋がどうか聞いてみてやるよ」と言ってくれる奇特な人に出会う日もあった。
 
しかし完全ヨソモノの「一人笑ってコラえて」の結果など知れたもので、結局1個も候補となる家すら見つけられることが出来なかった。私はいよいよ観念した。仕方ない、ここまでやって見つからなかったんだ、諦めて大学近くのアパートに住もう。それで研究に打ち込めばいいじゃないか。
 
と、そう自分に言い聞かせた時だった。私の電話が鳴った。画面に表示されたのは、ずっと連絡がとれなかった有名な農家の名前だった。
 
結局、私はその農家の紹介で、独身の中学校教員を紹介してもらい、その方の家に居候することで話がトントン拍子で決まることになる。その家はなんと薪ストーブを備えた新築の一軒家で、庭には季節を楽しめるくるみや柿の木が植えられており、私がイメージしていた以上の豊かな農村の暮らしを体現したような環境だった。
 
私はその新しい家に3年居座り、大家さんとも家族ぐるみの付き合いをすることになる。農村の人々と山にはいって薪用の木を伐ったり、山菜を採集したり、農作業を手伝いながら農村の季節の移ろいを感じたりした。その経験は、今の仕事にまさに活きる実のある経験だ。
 
こうして、農村移住計画は実現した。私が描いていた幻想よりもずっと素敵に、素晴らしく。
 
白馬の王子様など現れない。どうしたって、現れるはずもない。
それが、東京や社会に期待をして、彼を見つけられなかった私の結論である。
家を見つけてくれる農家からの電話をひたすら待っていた、私の結論である。
でも、待っていても現れないと本気で覚悟をして自ら動き出した時、白馬の王子様はひょこっとたまに現れたりするのではないか。
弘前での一経験を通じて、私は“白馬の王子様との出会い方”を、そんな風に捉えている。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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