得意なことが山ほどあると気付いた日のこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:mumi(ライティング・ゼミ12月コース)
「得意なことはなんですか?」
この手の質問は未だに苦手だ。そもそも就活の場を除いた場合、胸を張って「私は○○が得意だ!」と言える人はどれだけいるのだろう。
就活で自分の強みを「一歩先を読んで行動できるところ」なんて声高らかに発言していたことを思い出すと途端に恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。でも嘘ではない。さらに言うとネガティブな想像においては1歩どころか100歩くらい先に想像を進められる。そのスピードたるや、100手先を読めるとも言われている将棋の羽生善治さんに匹敵するかもしれない。けれども私は、新卒で入社した会社の課題で出された「決意表明」の冒頭に「私には苦手なことがたくさんある」と書いてしまうような人間だ。強みだの得意なことだのなんて本当はまるで思いつかないのが正直なところだ。
そんな話を周りにすると「えー、得意なこといっぱいあるでしょ! 周りのこと良く見てるし、ボキャブラリー豊富だし、なんでもちゃちゃっとこなしちゃうし」と優しく返してくれるのはありがたいのだが、周りを見ているのは心配性が故の癖だし、ボキャブラリーが豊富なのは好きな表現に出会ったときに「次これ誰かと話すときに使おう」と心に決めているからで、とっさのものではない。上手くこなしているように見えるのは何度も何度もシミュレーションを繰り返し、人の何倍も準備に時間をかけているからだ。そんなわけで、何気ない日常を送るために私は、あれやこれやと日々試行錯誤している。自分のことを鳥に例えたとき、白鳥だと思ったことは一度もない。むしろ、すずめくらいかなと思っているくらいだが、必死に水面下でもがいている点においてのみは白鳥に通ずるものがあるかもしれない。
数ヶ月前にうつ状態と診断されてから、自分の今後についてじっくりと考える時間ができた。主治医からは「やりたいこと、したいことをどんどんしてください」と言われたもののそれまで毎日タスクに追われていた私には「やりたいこと……なんだっけ?」状態だった。仕事をしていた頃は「やりたい」と思っていたことがあってもできないまま時間だけが経ち、いつのまにかやりたかったはずのことを「やらなきゃ」と思うようになっている自分が嫌だった。この先どうしよう。好きなこと、得意なことを仕事にできたらいいんだろうけど、人よりできることなんてなんにもない私に何ができるんだろう。ぼんやりと考えていたとき1冊の本に出会った。気分転換に出かけた本屋さんでなんの気なしに手に取ったのだが、気がつけばものすごいスピードでページをめくっている自分がいた。ハッと我に返ったとき、すでに半分くらいまでは読み進めていたことに驚きながらも、そこまで立ち読みしてしまった申し訳なさと残り半分への興味から買って帰ることにした。
その本によると「やりたいこと」を見つけるには、その前に「好きなこと」と「得意なこと」を洗い出す必要があるのだと言う。その一文を見つけた瞬間、買ったことを後悔した。その「得意なこと」が分からないからこんなに苦労しているのに、と。もやもやとした気持ちを抱えたまま、とりあえず続きを読むことにした。すると今度は「この本はバイブルになるかもしれない」と思い始めている自分に笑ってしまうことになった。どうやら「得意なこと」というのは「意識せずにあたりまえにやっていること」なのだという。ははーん、どうりで自分の得意なことなんて自分で気が付かないわけだ。私が毎日あたりまえにやっていることを挙げていけば良い、となれば簡単だ。いくつか思い出してみることにした。
同僚が以前「私、取り扱い説明書とかレシピと見るの苦手なんだよね」と言っていて驚いたことがある。苦手とかあるの? 私なら我先にと手にとって忠実に従うのに、と耳を疑った。つまり彼女からすれば私は「取り扱い説明書やレシピを見るのが得意な人」ということになる。
「ここだけは間違えないでくださいね」と念押ししたのに見事にそこを間違えた人をフォローすることになったとき、「mumiさんはなんでそんなにミスしないんですか?」と聞かれた。腰を抜かしそうになるのをなんとかこらえながら、「1に確認、2に確認、3・4に確認しているからですよ」と貼り付いた笑顔で返したこともあった。なるほど、彼女からすれば私は「抜かりなく確認するのが得意な人」となるのか。
え、じゃあ大学時代、サークル合宿の集合時間に到着していたのが私だけだったのは、私が「時間を守るのが得意な人」だったから?考えていく内にそれほんとに得意って言えるの?ってことになってきたが、だんだん楽しくなってきたので良しとする。
自分にとってあたりまえのことであっても、あたりまえにこなしているのは誇らしいことだ。朝もっと寝ていたいのに起きて偉い、遅刻せずに会社に行って偉い、1日3食食べて偉い。なんてことない日常を送るために私達は「あたりまえ」の努力をしている。特別なことじゃなくてもあたりまえのことであっても、ちゃんとこなせているのなら「得意なこと」なんだと胸を張っていいじゃないか。「得意なこと」へのハードルが一気に下がった瞬間だった。かつて苦手なことばかり探しては落ち込んでいた私は、自分のことが嫌いだった。得意なこと探しをした今はどうだろう?なんだか自分という人間が、味のある面白いものに思えてきた。積み重ねてきた「あたりまえ」を全部「得意なこと」に変換するのもそう遠くない未来にできそうだ。
今の私が得意なこと?
提出期限を守ること、かな。
***
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