世界を見る、眼鏡を集める。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まつもとみう(ライティング・ゼミ2月コース)
「ネガティブだった時は、イヤなもんばかり目につくねん。この道路汚いなあ、とか、最寄駅にホームレス増えたなあ、とか」
最近出会ったある人が言っていた言葉に、なぜかとても引っかかった。
数日経ってモヤモヤは晴れず、気づけばその言葉がリフレインする。
「ポジティブになってから、なんにでも感謝を感じるようになるんよ。空が美しくてありがとう〜とか」
確かに、自然と感謝が湧き出る毎日は素敵かもしれない。
でも、ネガティブな時に見えていた景色が見えなくなってしまうのは、果たして100パーセントいいことなのだろうか……?
「ネガティブな時は、イヤなことばかり目につく」というのはとてもわかる。
一度深く悩みこんでしまうと、なんだか全てがだめになる気がする。
就活中にいつまでたっても内定が取れない時、面接官が笑顔で褒めてくれていても、
「こんなこと言っていても、どうせ落とされるんだろうな。」と思ってしまう。
そう思うと、自分の履歴書の一言一句に自信がないし、なんなら最近切った前髪も変だったような気がしてくる。
面接の帰り道に聞こえてくるカラスの鳴き声も、心なしか、煩わしい。
「見る私」の状態によって、見えるものは変わる。
世界は変わらなくても、「見る」主体である私は、常に変わり続けている。
不確実なものだ。
「見る私」が変化することによって、見えなくなってしまうものが、多々ある。
赤ちゃんのころ、私たちはきっと全てが不思議で、色々なものに興味を持って、「なぜ? どうして?」と世界を見ていた。
大人になっていくうちに、当たり前に受け入れて、疑問を感じずに通り過ぎることが多くなる。
でも、「見る私」が変わったことで見えなくなったものは、消えて無くなったわけではない。汚い道路も、ホームレスも、相変わらず存在する。
「見ないふり」ができるようになっただけだ。
少し前にフジテレビでやっていた『ミステリと言う勿れ』というドラマがある。
このドラマは漫画が原作なのだが、漫画も面白くドラマも大好きで、毎週楽しみに見ていた。
ドラマの3話、主人公の久能整が、生き埋め連続殺人事件の犯人を、バス運転手の煙草森誠だと突き止める。
煙草森は、残した食べ物や鶏肉の骨をカーペットの下に押し込んで隠していたり、小さい頃に親が飼っていた金魚を死なせてしまい、隠してしまったと言う話をしたりする。
そのような挙動から、久能は、「人を殺したんじゃなくて、片づけただけなんですね?」と、煙草森が犯人だと突き止めたのだ。
久能は言う。
「子供はそういうことがあるんです。その物が視界から消えて見えなくなった時、存在自体がなくなったと思う」
犯人だった煙草森の言葉を思い出す。
「埋めたらなくなります。見えなくなればOKです」
警察に捕まった後、煙草森は精神鑑定を受けることになる。
「見えなくなればOKです」
この言葉が、ふと頭に浮かんできた。
このドラマを見て、私たち視聴者は煙草森さんを、怖いと思う。
私たちは人を殺して隠さないし、隠して見えなくしても、なかったことにならないことを知っている。
でも、無意識でなかったことにしていることは、たくさんある。
全て見て考えている暇なんてないから。考えたところでどうにもならないから。
見ないふりをして、見えなくなれば、OK。
見ないふりをして日々を過ごすことになれた私たちにとって、改めて世界を「見る」ことは難しい。
どうすれば、より「見る」ことができるようになるのだろうか。
そのためには、なるべく多くの「視点」を獲得することが大事なのではないかと思う。
ある日、アマプラでミッションインポッシブルを見終えて、街へ出る。
電柱は身を隠すのに最適な物陰に見える。もしあのビルの上から狙撃されたら、あそこに隠れよう、などと妄想しながら歩く。
街をスパイの視点で見ながら歩くのは楽しいかもしれない。
他人の視点を借りて、世界を「見る」こと。
自分ひとりの人生経験だけを頼りにものを「見る」ことはできない。
私たちは、無意識に、誰かの視点を取り入れながら生きている。
世の中には、面白い視点を持って生きている人で溢れている。
視点を借りる方法はたくさんある。
映画や小説を読んで、想像して視点を身につけるのも楽しいし、ノンフィクションを見たり、人に出会って話をするのもいい。
自覚的に得た視点は、眼鏡みたいに自分でつけたり外したりできるようになる。
私たちは、完璧ではないにしろ、眼鏡をかけて、誰かの視点を想像することができる。
ポジティブなまま、ネガティブなものも見ることはできる。
会社員のまま、スパイの景色を見ることができる。
私にとって、視点を増やして、眼鏡を集めて、世界を何重にも見ることが、生きる上でのひとつの楽しみでもあるのだ。
***
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