これを的確に表現する丁度良い言葉が見つからない事
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:丸山俊生(ライティング・ゼミ2月コース)
「うわあ、鳥肌が立つほど美味しいですうう」
TVの向こうで元アイドルだった彼女は、出された食事を甘えた声でそうレポートしていた。
どうもこのレポーターの子は、もう一つレポートが上手くないようで、味のディテールを表現できずに、ただただ「美味しい」「すごく美味しい」「めちゃくちゃ美味しい」と形容詞がインフレーションしているだけで「どう美味しいのか?」が全く伝わってこない。
そして挙句の果てがこの「鳥肌が立つほど美味しい」という表現である。
自分はどうもこの「鳥肌が立つ」という言い回しに慣れないというか、今一つしっくりした表現じゃないなあと感じている。
とはいうものの、ちょっと前まで「全然美味しいです」という、本来なら否定的表現に使うはずの「全然」が、いつからか肯定的表現に使われるようになり、最初あった違和感も年月が経つうちに慣れてしまい、なんだったら普通に自分も使っているようになっている。
言葉とは、突然誰かが言い出し、使われているうちに慣れ、そして定着していくものなのだと思う。
ただ、そのレポートしているお店は、地元で何十年も愛されている中華店。いわゆる「町中華」のお店なのだが、そんなお店の出されるメニューは確かに美味しいけれど「鳥肌が立つ」ほどのインパクトのある味か? という違和感しか感じなかった。
インパクトのあるガツンとくる美味しさに対して「鳥肌が立つほど美味しい」という表現をするなら正しいと思う。
だが、こういうお店の出されるメニューが「インパクトのあるガツンとくる美味しさ」かというと、ちょっと違う気がするのだ。
例えば新しくできたラーメン屋があり、そこはその「インパクトのあるガツンとくる美味しさ」の店なんだが、そういう味も慣れてしまって飽きられてしまい、また新しい「インパクトのあるガツンとくる美味しさ」のラーメン屋ができたらそちらに興味が移って、いつの間にか行かなくなったいう話はよくある。
かと思えば、こういう町中華店のなんでもない普通の醬油ラーメンが何年経っても、いつ食べても美味しくて「ああ、これこれ。この味なんだよ」って毎回思ったりもする。
仕事上、飲食店の得意先があって長年お取引させていただいてる先も多いのだが、一時期TVや雑誌に取り上げられお客さんも殺到するような繁盛店だったのに、飽きられるのもあっという間で開店して数年で潰れるという現実もたくさん見てきた。
飲食店を何十年も続けるということは、いかに難しいか。
そのお店の味が何十年も飽きられずに、通常運転で美味しいと思われることがいかに難しいか。
飲食店の栄枯盛衰を見ていると本当に思うのだ。
例えば、地元にずっとある見た目は汚い、なんかちょっと入りにくいけど、常連客で常にいっぱいの定食屋。
いかにも「職人気質」っていう感じのする店主が作る、インスタ映えなど全くしない地味なパンしか並んでないパン屋。
子供の頃に親に連れて行ってもらった近所の洋食屋に、何十年後大人になってからまた訪れて食べた時に感じた、変わらないあの美味しさ。
期間限定の新商品が出ては消え出ては消えてを繰り返す中で、ずっと定番を維持してる発売開始から数十年経ってるようなお菓子。
そういう味を「うわあめちゃくちゃ美味しい」という簡単な言葉で表現するには、なんか薄っぺらいというか納得がいかない。
じゃあ、そういう「味」に対して、何か的確に表現する言葉はないだろうか?
時代の波に乗ってちやほやされた美味しさ……っていうのとは一線を画す、そこそこの美味しさだけど何年も何十年も長く長く愛されたような味。
一過性のものではない、流行り廃りを乗り越えた普遍性を感じる味。
そんな地味だけど歴史あるいぶし銀のような「美味しさ」を表現する、なにか丁度良い言葉。
自分でも色々考えてみたのだが、今のところ「いぶし銀美味い」とか「レジェンド美味い」というのしか思いつかなかった。
そして、どれも何かもう一つしっくりこない。
どこの町にもある昔からある地元の中華料理店を表現する「町中華」っていう言葉ができて、あっという間に定着した。
何でもない昔からある町の中華料理店が、その言葉一つでまるで魔法のように注目され、地元のお店を紹介するグルメ雑誌などでも積極的に特集されるのを見かけるようになった。
こんな感じで、丁度良い表現する言葉が見つかれば、きっと誰もが使いたくなり、あっという間に広がって定着するのだと思う。
世の中にたくさんある渋い美味しさのお店。また、そういうお店のご主人とか奥さんとか、長年地域で愛されてるだけあって、本当に良い人ばかりなのだ。
自分の力では良い言葉を作り出すことはできないが、あのおっちゃんおばちゃんの日々の頑張りにいつか陽の目が当たるように願うばかりである。
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