能の稽古は、コミュニケーションに効く
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ2月コース)
僕は、口下手です。
人前で話をすることはもちろん、知人との何気ないコミュニケーションですら、「意味が通じるかなぁ?」とか考えたりして、なるべく話さないでいいなら、話さないでいいシチュエーションになるよう持っていくような人でした。だからでしょうか、自分の声に自信が持てず声自体が嫌いでした。
そんな僕が、とあることを切っ掛けにコミュニケーションが楽になり、自分の声に自信が持て、自分の声が好きになっていったんです。
その変化は、卵から芋虫が孵りサナギとなり、蝶となる成長譚とでも言っても、僕にとっては過言ではないです。
そんな物語を読んでいただきたくて書いてみました。
「だまされたかも?」
何度か、そう思ったことがあります。
それは、40歳を過ぎて「能」の稽古に通い始めて1年くらい経ったときのことです。
「能」とは、簡単に言うと「和製ミュージカル」です。超静かに、超おごそかに、舞い踊り唄う伝統芸能のことです。
僕は、とある本に「能で古の日本人の身体の使い方がモノにできる!」という意味のことが書いてあったのをみて、「やっちゃろ!」と決めたのですが、実際に稽古しても「なにもわからない、なにも変わらなかった」からです。
ここで辞めなかったのは、ただただ僕の持つ惰性力が強かったからだと思います。
能の稽古は、先生宅に建てられた稽古場で行われます。その稽古場の端っこに能の教本がズラリと並んだ本棚があり、そこに先生と向かい会って正座し、あの独特の節回しで台本に書いてある唄やセリフを声を張って謡っていくわけです。
最初は、先生のマネをして、ただただ「がむしゃら」に大きな声を出していただけでした。
まずいことに、私は音痴でもあるので、節回しが無茶苦茶でした。高い声を出すところで出せなかったり、低い声に下げる時に調整が効かないから、一気に一番低い声を出して、「それでは低すぎます」と、先生にたしなめられていたものでした。だから最初の頃、気にしていたのは「いかに音程を合わせるか」です。先生からは「耳を鍛えて、聞き取れる音を増やすことが大切だから、稽古の時の声(先生と私の両方)を録音して、違いを聞き分けられるように聞くことを復習するよう」言われていました。
でも聴いてもわからないし、稽古ではダメ出しが多くて、大きかった声もだんだん声が小さくか細くなってきました。
見かねた先生から「元気よく!」とか言われましたっけ。
そういわれても、簡単ではないのです。でも、僕は「えぇい、どうにでもなれ!」と、吹っ切れました。吹っ切れて「元気よい声」を出すことを心がけたら、不思議なことにダメ出しが減っていきました。きっと先生も多めにみてくれていたんだと思います。
そうやって稽古をつけてもらって、2年が経ち3年が経った頃でしょうか? 僕の「声の出し方」が変わってきました。それはどういう事かというと、まさに「お腹から声を出す」ことができるようになってきたんです。
「お腹から声を出す」と何がいいかと言ったら、よく通る声が少ないエネルギーで出せるようになるし、なにより爽快感があるんです。
いつしか爽快感は、「気持ちいい」感に変わっていき「早く稽古で、気持ちよくなりたい!」と想うようになってきました。少し変態っぽいですけど、気持ちよさにはかないません。
変化はまだ続きます。
次は「声で体が響いてくる」ようになったことです。最初は、喉がビリビリと響いてきて、それから口や鼻、胸や腹にも声の振動が伝わってビリビリして来るようになってきました。それは、身体の内側から電気マッサージを受けているような心地よさでもあります。
こういう心地よい状態になると、能の稽古の時だけじゃなく日常の発声でも、その心地よい振動が感じられるようになってきました。
つまり、日常的な発声方法が知らず知らず変わってきたというわけです。
そうなると大変です。
僕は、声が出したくて出したくて、ウズウズした状態になります。
だから、とにかく「しゃべる」ようになり、気づいたら自分ひとりが話している状況が続くようになり、このままだと、皆から「嫌われる。自重せねば」と思ったほどです。
この間、通算5年ちょっとでした。
5年ちょっとの能の稽古で、40歳を超した僕にも変化が訪れてくれました。
そうして僕は、コミュニケーションが以前ほど苦じゃなくなりました。仕事でも知人とのコミュニケーションでも、変なマイナス思考が働くことなく普通でいられます。
自分の声も嫌いじゃなくなりましたし、声もよく通ると思います。
能で、声が変わり、コミュニケーションが楽しくなるなんて、びっくりですよね。
***
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