春は山菜
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記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ2月コース)
「春は、あけぼの」
と、かの清少納言は詠んだらしいが、私に言わせれば「春は、山菜」である。
ようよう白くなりゆく山に分け入っては、そこに少しずつ成長するワラビ、ゼンマイに始まり、ウド、タラの芽、コシアブラ……と雲がたなびくように、春の山菜をいただく。
それらを主に天ぷら、場合によっては、湯がいて食べる。
何が美味しいかというと、口に含んだ時の香りと、春の苦みを感じることができる点だ。
そんな春の恒例行事は私にとって、林間学校でもあり、怖いお化け屋敷でもある。
どういう事かというと、山に分け入るといっても私が入るのは、いわゆる「里山」といわれる人が手入れを「していた」山で、道もある。そして何より、毎年、入っているので、山の中でのだいたいの位置感覚などもあり、迷うことはない。だから、林間学校の山にあるアスレチックスをやるような感覚で山菜をあさっていることがほとんどだ。
だけど、山は山であり、先ほど山の手入れを「していた」と書いたが、今は昔と違い山を手入れする人もいない。私が入る山も我が家とご近所が所有している山だけど、私を含め誰も手入れらしい手入れができていない。だから、山は荒れていて、道はあってもそこに倒木があったり、道にも灌木が生い茂っていたりする。そうした山に早朝や夕暮れ時に分け入ると、少々というか、かなり怖い。
何かが出てきそうな雰囲気を持っているのも山だ。昔の人は、こういう山で寝泊まりしたらしいが、私にはそんなことはできそうにない。昔の人は根性の作りが違うのじゃないだろうか。
そんな恐がりな私が、今年は、雨の日に山に入った。それも風が轟々と木々を揺らしている風雨の中だ。
私はカッパを着込み、片方には木を切る鉈を持ち、もう片方の手には山菜を入れる袋を持って、雨に打たれ風の音を聞きながら目を皿のようにして山菜を探していた。その時、山の上の方から獣らしき鳴き声が聞こえてきた。
それは強烈に怖い。
距離は相当遠くだから襲われることはないと理性で判断したとしても、怖い。感情が揺り動かされ、即座に回れ右して山を下りたくなる。
ただしそこで、回れ右をしようものなら、大変なことになる。
回れ右をすることは、「後ろから襲ってこられるかも!」という恐怖感情に支配されることになり、鼓動は早まり、いてもたってもいられなくなって敗走兵のように走り逃げることに発展する。
皆さんも、過去にちょっと鄙びた宿泊施設に泊まられたことはないだろうか。そいう施設では、たいがいトイレが薄暗い廊下のはるか先にあったりする。そんな長い廊下を歩いて夜中にトイレに行かなければならなくなった時……みなさんは、どう感じるだろうか。たいていの人は、嫌だなぁと思いながらも、行かねばならず、行ったら行ったで帰らねばならず、帰る時には何故か……恐怖にかられ、図らずも猛ダッシュになってしまった経験はないだろうか。
山で回れ右をすると、まさにそのトイレからの猛ダッシュ状態になってしまう。ただし山の場合は、宿泊施設の廊下と違い、倒木などの障害物が各所に配置されているから、一歩間違えば大けがをする可能性も出てくる。
だから、そんな恐さを感じたとしても、即座に回れ右をしてはいけない。
では、どうするかというと、恐怖を感じる自分の心を落ち着かせることが、こういう時にまずやるべきこととなる。じっとその場に踏みとどまり、現実を見据える。現実とは、目の前に広がる木々を眺めることで、そこに直接的な危害を加えるものは存在しないと、自分で確認することだ。そうすると、鼓動は落ち着き不思議と怖さはスーッと消えていく。そうやって自分の心を落ち着かせる技術を知らず知らず身に着けることができるようになるのも、ひょっとしたら山、山菜を取りに行く私にとっての魅力なのかもしれない。
さて、そんな思いもしながら採ってきた山菜を食べる時のことである。
山菜を口にするとき、ほぼ決まって話題にでるのが、「どの山菜が一番おいしいか」問題だ。
ある人は、ウドといい、ある人は、タラの芽と言う。そう、好きなアイドルグループや芸能人を「推す」のと同じことを、山菜でやってのけながら、食べている。毎年毎年、きっと同じ話題を繰り返しているんだけど、みんな飽きずにいる。
「おれはこの、ウドを口に入れたときに広がるさわやかな香りがいいんだ」とか「いやいや、香りならタラの芽の方がいいでしょう」などと言いながら、結局、ウドもタラの芽も全種類食べるのだ。
そう、私にとって春の山菜は、採るところから始まり食べ終えるまでの生々しい総合エンターテイメントなのだ。
だから、やめられない。
***
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