祖父が残してくれた、今生きられていることのお守り
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記事:鈴木 洋子(ライティング・ゼミ4月コース)
「昭和二十年一月十一日
ビルマ國サガイン縣ワッチエニ於テ
爆撃ニテ戦死ス
陸軍衛生曹長〇〇 〇〇
行年 三十才」
「昭和二十六年三月建立
〇〇 〇〇」
これは、私の大叔父、祖父の弟の墓に刻まれている文字である。
この墓は、祖父が建立した。
私の子どものころの遊び場は近所のお寺だった。お寺の片隅にあるブランコや鉄棒などの遊具で遊んだり、鬼ごっこをしたりした。放課後は毎日のように、近所の友達とこのお寺に集まって遊んでいた。
このお寺には、私の家の先祖代々のお墓がある。
毎年、お盆とお正月は、その寺は遊び場ではなく、家族、親戚とお墓参りに行く場所になる。
家から徒歩5分の所に祖父母の家があり、仏壇には軍服姿の大叔父の写真がある。
毎年、このお墓の文字を見ながら、親戚の誰からともなく、
「大おじいさんは戦争で亡くなったんだよ」
という話題になる。
幼少期のころは、
「へー、そうなんだぁ」
とあまり実感がなく相槌を打っていた。
高校2年生のころ、修学旅行で広島の原爆資料館に行った。そのころから、戦争のこと、大叔父が戦死したことを実感をもって考えるようになった。
私は、戦争体験の本、テレビ、映画などに目が留まって観ることが多い。
私の部屋には、戦争体験の本が20冊ぐらいある。水木しげるさんをはじめとする戦争体験の漫画や手記、新聞に毎年終戦記念日前後に投稿される市民の戦争体験集などである。2015年に日本漫画家協会の大賞を受賞した記事を見て知った、「シベリア抑留記」「あとかたの街」は、気になってすぐに本屋に探しに行った。愛知県名古屋市出身の著者おざわゆきさんが、両親の戦争体験を描いた漫画である。同じ愛知県出身の私の祖父母も同じような体験をしたのだろうかと想像して読んでいる。
自分が30歳を経たとき、大叔父の墓に刻まれた文字を見て、改めてこの言葉の意味を深く感じるようになった。この文字は、今自分が生きていること、今を大切に生きることを教えてくれる祖父からのお守りである。
ビルマ國とは、現在のミャンマーのことである。私は20代後半に、ミャンマーの隣のインドとタイに旅行に行ったことがある。
私は観光で、飛行機で行ったが、当時、大叔父たちはどんな交通手段で向かったのだろうか。どんなルートで、何日間かけて行ったのだろうか。遠く離れた異国の地に、どんな思いで向かったのだろうか。
30歳で生涯を閉じられてしまった大叔父、そして30歳を超えて今生きている、生かされている自分のことに思いを致す。今を大切に生きるということ、平和がどれだけ尊いかということに気づかせてくれる。
20代後半から30代にかけて、私は、人生がより楽しくなった。社会人になり、人生経験を積んで、興味の幅が広がった。時間とお金をある程度自分の思うままに使うことができるようになった。出会いが広がり、世界が広がった。
大切な弟が亡くなったことを知ったときの、祖父の無念さ。弟が生きていた証、亡くなった経緯を記そうと、墓にこの文字を刻むことを決めた祖父にも思いをはせる。
祖父は私が5歳の時に病気で亡くなったため、当時の祖父の思いを聞くことはもうできない。祖父はどんな気持ちでこの文字を刻もうと決めたのだろうか。
時を経て、令和2年、コロナウイルスが世界中で猛威を振るった。たくさんの人が命を落とした。3年経った今も猛威は継続しているが、人々の努力と工夫によって、日常生活を維持して立ち向かっている最中である。
コロナ禍で、遠出がはばかられたとき、私は自転車に乗って、近所の探索をした。自転車で1時間圏内を東西南北に走ると、5分おきぐらいに木が生い茂っているところがある。
その緑を目指して自転車を漕ぐと、寺にたどり着く。その寺の中を一周してみると、地域の戦争の慰霊碑があった。
愛知県は、寺の数が全国1位で、4558寺ある。
大叔父の墓がある寺から1㎞離れた別の寺の横にも大きな慰霊碑があることに気がついた。
「〇〇町、第〇師団慰霊碑」
20名ほど書かれた戦没者の中に、大叔父の名前も刻まれていた。今までは大叔父のことしか考えていなかったが、おそらく町内の何人かでまとまって戦争に向かい、一緒に行った団員も命を落としたことを初めて知った。
隣町の公園で普段足を踏み入れない奥の方に行ってみると、そこにも戦没者の慰霊碑があった。今まで無邪気に遊んでいた公園にも、この地域の人たちが戦争に向かい命を落としたこと、その事実を後世に伝えようとしてくれた残された地域の人の存在があったことに気づかされた。
コロナ禍は、地元の身近な人たちが戦争に向かったこと、戦争のある世の中と戦っていたことを教えてくれる機会になった。
戦争、災害、伝染病、理不尽な世の中を乗り越えて、今の自分の命、周りの大切な人たちの命、生活があるということに感謝をする日々である。
そして、今後また理不尽なことが起こった時に、この祖父からのお守りや慰霊碑の文字は、困難に立ち向かい、乗り越える勇気をくれるだろう。
***
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