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人生を楽しむお金と時間の遣い方


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小松 鈴(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
40を過ぎてバイオリンを始めた。レイトスターターもいいところだ。
レッスンに通い始めて1年半。はじめは「これはバイオリンの形をしたニセモノでは」と疑い、「先生、この楽器どっかおかしくないですか?」「まったくの正常です」とあっさり否定。録音した音に絶望しつつも何とか諦めずに練習を続けた。下手くそは今も変わらないけれど、始めた当初に比べればすこーし成長し、「あ、この楽器は一応バイオリンなんだ」と思えるくらいの音を奏でてくれるようになった。1年半でようやく、だ。まだまだ修行の日々は続く。家のこともしなければならないので、音階をさらうだけで終わる日もあるけれど、「1日5分でも」と目標を定め、毎日ネコに嫌そうな顔をされながらも練習に明け暮れている。将来はどこかの管弦楽団に所属すること、姪っ子の結婚披露宴で一曲披露するのが目標だ。
 
私のバイオリンは制作されて2年の新作なのだけれど、はじめは固かった音が次第に柔らかくなり、音量が大きくなり、音が伸びやかになった。「バイオリンは木でできているから、生きているんですよ」との先生の言葉に、ふーん、と思っていただけだったけれど、「本当だ!」とびっくりした出来事だった。バイオリンが成長したように、私の腕も成長している事を願う。しかしバイオリンは、弾くことももちろんだけれども、日常の管理も難しい。湿度や乾燥に弱いし、時期によっては弦を調整する糸巻きも固くて回らない、反対にゆるゆるになってしまってうまく止めることができないこともある。わがままな子どものようだ。バイオリンのような楽器は日本で使用するにはあまりにも厳しい環境なのだと痛感しつつも、可愛がりつつ弾いている。
 
レッスンは水曜日の18時30分から30分間。一週間のうちで、これほど時間が速いと思うことはない30分だ。調弦に時間を取られたくないので、家で音を合わせてから行くのだけれど、レッスン室で弾いてみると微妙に音がずれていることはしょっちゅうある。このときのイライラといったら。たった30分のレッスンで、調弦でモタモタしていたらどんどん教えてもらう時間が少なくなる。早くしないと、と焦れば焦るほど嫌がらせのように狂っていく音。先生に丸投げしたくなるが、私の先生は基本的に「大人の生徒は自分で調弦をしなさい」主義の方なので、手を出すことはない。やっと音が決まった、と思ったときには10分近く過ぎていると、時間を無駄にしたことが非常に悔しい。10分あれば1曲弾いてポイントを教えてもらえるくらいの時間だ。いつか先生やプロのバイオリニストのように、ちゃちゃっと調弦できるようになってやる、と燃えている。
 
ところで私がバイオリンをやっている、と言うと「なんで今さらそんなことを?」という人がいる。ただやってみたかったから、と答えると、「お金もったいなくない?」と。うーん。自分で稼いだお金をなにに遣おうとその人の自由なんだから放っといてよ、と言いたくなるけれど、その人曰く「今さらプロのバイオリニストになれる訳でもないのに」。ああ、なるほど、その人にとって、習いごとは、特に芸術関係の習いごとはプロになるために通うもの、と思っているのだな、と理解できた。
確かにその人の言うように、趣味を音楽にすると何かとお金がかかる。もちろんどんな趣味にもある程度の出費が必要だけれど、特にバイオリンは、楽器の中でもお金がかかる部類と言われている。レッスン料はもちろん、弦、弓の毛の張替えやバイオリン本体の調整など、折々にお金がつきまとう。今年の2月には発表会があったので、出演料、ドレスなどでかなり大きなお金が飛んでいった。その分を貯金に回せば数年でそこそこの金額になる、ということも分かっている。でも、お金を払うことによって得られる幸福や経験もある。発表会は死ぬかと思うほど緊張して、音も外しまくって恥ずかしい演奏だったけれど、「やり遂げた!」という大きな自信にもつながった。42にして人生初の発表会。これほど緊張して、これほどアドレナリンが出まくったことはない、というくらいの強烈な体験をさせてもらった。人に褒められるような人生を送っていないので、観客がたった十数人(大人の参加者はたった6人だったので……)でも、拍手を贈られたのは人生で初めてだった。「次の発表会までにもっと上手くなる!」と練習にも拍車がかかった。
 
前述の方のように、人によっては私がバイオリンに時間とお金をつぎ込むことを「無駄」と思うのかもしれない。その間に資格取得の勉強でもすれば、転職して給料アップにつながるかもしれないのに。楽器やレッスン料を貯金して、車や家など、大きな買いものにあてればいいのに。もちろん、それもアリだ。貯金は少ないし、愛猫は持病を抱えているので、高価なごはんや定期的な血液検査が欠かせない。私もバイオリンを始める前は、それも考えていた。
しかし、どこで読んだのか失念したのだが、90歳の女性が「60歳のとき、バイオリンを始めようかと考えた。けれど、この歳で何かを始めるのは、と踏み出すことができなかった。あのとき始めていれば、30年もバイオリンができたのに、と思うと後悔している」と言った内容の記事を読んだ。その後悔は死ぬまで続くのだろうな、と思うと同時に「私もそうなるかもしれない」と思いつき、思い切って一歩踏み出すことができた。
 
おそらく私の人生は、折り返しを迎えていると思う。人生80年、と言われているけれど、80年は意外とあっという間では、と思うようになった。
毎年「え、この間お正月じゃなかった?」と思いながら大掃除をしている気がするし、今年だって気分はまだ一月くらいなのに、気がついたらもう一年の半分も経とうとしている。
いつか私が旅立つとき、「ああ、楽しかったな」と思って眠れるように、毎日を過ごさなくては、と意識している。
 
死ぬときお金を持っていくことはできない。「あれをしたかった」と思いながら死ぬのはいやだな、と思う。
自分ができる範囲で目いっぱい人生を楽しむことができれば、これ程幸せなことはないんだな、とこの歳にしてようやく気づいた。
 
 
 
 
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2023-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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