散らかった部屋から息子の優しさを拾うことができた日
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ4月コース)
その日は、とてもいい一日だった。充実した気持ちで空を見上げると、雨上がりの気持ちの良い風が顔を撫でていった。
自分が企画したイベントが大成功したのでテンションも上がり気味だった。参加者もとても満足してくれたし、講師の方も沢山の方に話を伝えられたととても喜んでくれた。私自身も今一度家族の大切さを実感することができ、今日くらいは家族と争うことなく夜を過ごしたいな、そんな風に思いながらホクホクと帰途についた。
家に戻ると玄関に水たまりができていた。そこで止まって少し眉が寄る。
廊下にはタオルが横に敷かれ、新聞の束が置いてある。朝、自分が出発するときにはこんなものはなかったはず。さっきまでのハイテンションに少し影が差した。
家に上がり込むと息子のカバンが投げ出され、散らかっていた。テーブルの上には水筒が乗っている。濡れた学生服が椅子にかかっていて、バスタオルが無造作に置かれていた。
家の中に一歩一歩足を踏み入れる度に、気持ちがしぼみ、それに反比例するようにいつもの小うるさいモードのスイッチが入りそうになっていた。
今日は、穏やかに家族と過ごしたいなと思って帰ってきたのに、あいつめ。
部屋の扉のところに立って息子とどのように話を進めようか思いを巡らす。
片付けていないことを指摘するか、
玄関にできた水たまりについて追及するか……。
いずれにしても今日は極力穏やかに伝えたい。
それでも気持ちの良い一日だったから、まだ心に余裕があった。私は息子の部屋のドアをノックした。
ドアが開くと、息子がニコニコと上機嫌に出迎えてくれた。
「おかえり。あれ、2人は?」
息子は、2人の妹たちも私と一緒に帰って来ると思っていたようだ。
「まだだよ、電車で帰って来るから」
ところでさ、廊下の新聞とタオルは何よ? そう言おうと口を開きかけた時に、息子はますます嬉しそうに「すごくない?」という。
「何が?」
辛うじて気持ちをなだめて彼が何を言おうとしているのか先を促した。いつもだったら、ここで文句の一つも言っているところだったけれど、今日はいい気分があったから、自分の気持ちを抑えることができた。
「いやね、さっきの雨、すごい大変だったんだよ。雨に合わなかった?」
「雨はもう上がっていたから濡れなかったよ」
「そうなんだ。俺はびしょぬれで帰って来たからさ、次に帰って来る人が家に帰ってきた時に困らないように必要なもの置いといたんだよ」
私は、ハッとした。
確かに、玄関の水たまりは息子が汚した物だろう。でも、タオルが広げられていて、新聞紙が置いてあった。家族が濡れて帰ってきたら、タオルで足を拭き、靴を乾かすために新聞紙を詰め込めるようにあらかじめ準備しておいたのだという。
自分が濡れた分をほったらかしにしているわけではなかったんだ……。
それだけではなく、リビングのテーブルの上の水筒には、寒いからあたためたお茶をいれリビングのバスタオルでカバンなどを拭けるように配置しておいたらしい。
「風邪ひいたら大変だから、お茶飲んで、すぐお風呂にも入れるようにしておいたよ」
説明されてみれば、雑然とはしていたけれど、息子は先回りして色んなものを用意しておいてくれたのだ。
もちろん、息子のものが片付いてないとか、玄関の水たまりは掃除しておいてほしかったとか、ケチの付け所は沢山あるけど、いつの間にかこんなに気が回って準備をしておいてくれる優しい子に育っていたなんて。
感動して胸にせり上がって来るものがあった。と、同時に胸がチクチク痛んだ。
もしかすると子ども達は、いつもそういう優しさを持っているのかもしれない。完璧ではないにしても、自分達なりに家族のことを考え、良かれと思ってやってくれたことを、私は果たしてちゃんと受け取れていただろうか。いつもはまったく余裕がなくて、その小さな優しさを見落として、できていない部分ばかりを指摘しているのではないだろうか。
日々の生活の中で、家族のため、みんなのためと自分なりに頑張っているつもりだけど、そういう気持ちで余裕をなくしてギスギスした気持ちで家族と接していると、自分が想定していない家族の優しさや思いやりを見落としてしまうかもしれない。
それだったら、そんなに日々の生活で頑張りすぎなくてもいいから、少し余裕を持って子ども達がどんなことを考え、何をやっているのかというのをちゃんと見てあげる方がよっぽどいいんじゃないかな。
息子が水筒に入れておいてくれたお茶を口に含むと、じんわりと身体が暖かくなっていった。
このあたたかさが、幸せなのかも、しれない。
***
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