人生最大のイベントで、パニックになった僕は、母へと電話をした
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記事:大和田光太(ライティング・ゼミ6月コース)
もう、間に合わないかもしれない。
そう思いながら、僕は新宿駅のホームへと向かって、走っていた。
しかし、止まるわけにもいかない。
間に合わなったら、きっと後悔する。
だから、とにかく走っていた。
でも、どの電車に乗れば、目的地へと辿り着くのかが、わからない。
僕の頭は、ややパニック状態で、頭がちゃんと働いていなかったのだ。
さきほど、会社を早退するまでは、どうすればいいのかがわかっていたけれど、
いざ、その時が近づいてくると、電車の乗り換えも分からなくなってしまう。
僕は、あと数時間の内に、はじめて「父親」になるのだった。
「お母さん、乗り換えって、どの電車に乗ればいいんだっけ?」
パニックになって、どうしようもなくなった僕は、
事情を知っている母へ、電話で聞くことにした。
iPhoneで、乗り換え案内を検索しようと思っても、何度も自宅を目指そうとしてしまう。
違う。僕が目指しているのは、妻が初産のために待機している産婦人科だった。
「多分、中央線に乗ればいいと思うよ」
「わかった。ありがとう」僕は一言だけ言うと、すぐに電話を切って、改札口にSuicaをタッチして入場した。
すぐに電車に乗り込むことが出来たので、あとは近くの駅まで乗っていき、タクシーを拾うことが出来れば間に合うと思う。と、僕は少しだけ安心をした。
あとは座席に座っていればいいんだということがわかると、母へメッセージを送り、電車に乗れたことを伝えた。そうして、気持ちに余裕が出てくると、今朝のことを思い出すことが出来た。
思えば、今朝の妻の様子は変だった。「ちょっとお腹が痛い気がする」と言っていたので、そのまま会社を休んでしまえば良かった。でも、妻に大丈夫かという聞くと、まだ平気そうというので、午後は休暇を取る予定にしていたので、午前中だけでも仕事をしておこうと思ったのだ。
それが間違っていたのではないかと、冷静になると思ってしまう。過去のことを悔やんだり、あの時、ああしていれば、そうしていればと思ってしまうクセがあったので、変えることの出来ない過ぎた時間のことを、考えてしまっていた。
一般化するのはどうかとも思うけれど、男はこういうときに無力な気がする。自分が出産をすることが出来ないから、せめて立会いだけでもしようと思っていた。けれど、それすら間に合わないかもしれないと思うと、どうすることも出来ない無力感に強烈に襲われることになるのだった。
「そんな風に思っても仕方ない」と、自分に言い聞かせるようにして、僕は妻と未来の子供が待っている産婦人科へと急いだ。
そして、数十分が過ぎたころ、最寄り駅へと到着した。僕は、周りの迷惑も考えずに、すぐにタクシー乗り場へと急いだ。今日だけは許してほしいと、心の中で叫びながら、タクシーへと乗り込んだ。
「◯◯産婦人科へお願いします!」
僕が、行き先を指定すると、タクシーの運転手は了解してくれたのか、急ぎ目で運転をしてくれた。
「もしかして、パパになるのかい?」
「え?
「いやぁ、◯◯産婦人科へ行くんだろう? うちも孫がこの前、そこで生まれたばかりでねぇ」
タクシーの運転手は慣れているのか、急ぎならも、僕に話しかける余裕があるみたいだった。
「そ、そうなんです! もうすぐ、生まれるんです!」
「そうか、そうか。頑張ってな」
タクシーの運転手とは、短い会話だったけれど、孫を持つ父性愛を感じさせてくれた。僕も数十年後になったら、同じようなことを言うことが出来るのだろうか。
タクシーに乗ること10分。すぐに、産婦人科へと到着した。
僕は受付を手早く済ませると、すぐに分娩室へと案内された。
そこでは、すでに苦しそうな姿の妻がいて、もう間もなく産まれるだろうとおいうことで、僕はガウンを着させられて、妻の背中をさすることになった。
「間に合って、良かった」
「うん、ありがと……」
苦しそうな妻だったけれど、間に合って良かったと思ってくれていた。
本当に僕には、ほとんど何もすることなく、産婦人科へ到着してから30分もしない内に、僕のはじめての息子が産まれることになった。
タクシーの運転手さん、間に合ったよ。と、数分しか会話を交わさなかったタクシーの運転手さんへとお礼を言いつつ、頑張ってくれた妻へと労いの言葉をかけ、各方面へと電話連絡をした。
僕の母や、妻の実家や、他の兄弟姉妹へと全てに連絡をし終えると、階段を降りながら嬉しくて涙が自然とこぼれおちた。
間に合ったことが嬉しかったのか、タクシーの運転手への感謝なのか、妻に対しての感謝なのか、自分の子供が産まれたことの喜びなのかはよく分からなかったけれど、涙が頬を伝って落ちた。感極まるとか、感動した涙というのは、いろんなものへの感謝の気持ちや、愛の気持ちっていうけれど、まさに、その通りなんだろうと思った日だった。
これを読んでいるあなたも、同じような経験があるのだとしたら、その当時の気持ちを思い出してみて欲しい。きっと、胸がいっぱいで、感謝と愛の気持ちで満たされると思うから。
***
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