夫婦円満を遠ざける腹黒姉さん
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
コロナ禍で在宅勤務が増えたせいで、離婚の危機に陥った夫婦は多いと聞く。
私たちはというと、逆だ。
在宅勤務になっていなければ、今ごろは……と思う。
その危機を作った原因は、私の中にある。
結婚して以来、私は夫に対して「お姉さん」みたいな態度をとることが多かったように思う。
夫はやりたいことを優先する性格で、私はやるべきことを優先する性格だ。
自然と、私が夫をフォローすることが多くなる。
それに私たち夫婦は、私が先輩で夫が後輩という関係で出会ったから、私がお姉さんモードになりやすかった、というのもある。
夫が出しっ放しにした服を、私が「ちゃんと片付けてよー」と言いながら片付けたり。
夫が犬の散歩をさぼろうとしたときに、私が「犬がかわいそうでしょ」とボヤきながら代わりに散歩へ行ったり。
弟の不手際をフォローする姉みたいな気分だった。
夫も、少なくとも新婚の頃は、それに甘んじていたと思う。
それでも徐々に違和感をおぼえていたんじゃないだろうか。
気づけば夫は、仕事にかける思いとか、そういった真剣な話を私にしなくなっていた。
友達や親戚が話に加わった途端、夫が熱い思いを語り出したりする。
そういうことは私と話したくないんだなと分かり、さびしいなと思った。
とはいえ、当時の私には、その理由が分からなかったのだが。
その風向きを変えたのが、コロナ禍で始まった在宅勤務だった。
お互いに守秘義務があるから仕事の話を事細かにはしないけれど、それでも仕事ぶりは目にするようになった。
そして、ほどなくして気づいたのだ。
この人はスゴイぞ、と。
夫の仕事は、IT関係のプロジェクトマネジャー、いわゆるプロマネだ。
プロジェクトのメンバーに働いてもらってそれを管理するのがプロマネの仕事なのだけれど、その業務は多岐にわたる。スケジュールや予算の管理、仕事の割り振り、社内および外部との折衝、リスクへの備え。メンバーのメンタルケアまですることもある。
そして、気苦労も多い仕事である。プロジェクトに問題が発生したら、その火消しに追われるのもプロマネだからだ。
なぜ私が業務内容を知っているかというと、私もかつてはプロマネだったからだ。
ただ、超絶に出来の悪いプロマネだった。実際、会社に損失を与えるほどだったし、無理をかけたメンバーが体調を崩して入院してしまったときは本当にこたえた。
「私には無理だ……。人には向き不向きがある」
そんな挫折を味わって、収入減に甘んじて職を変えた過去がある。
大変さや難しさを知っているからこそ、プロマネとして力を発揮している夫を目の当たりにして、まぶしかった。
私が努力してもはじき返されたハードルを、夫は小石をまたぐように次々と越えていく。
身内ながら、心から尊敬した。
そうなってくると、日常生活で夫をフォローするときに、お姉さん風を吹かせることに違和感をおぼえるようになった。
2人とも得意・不得意があるのだ。
私たちは、自分のできることをして、助け合って暮らしているだけ。
お互い様という感覚へ自然に移行し、夫のフォローをするときにも、ただ「やっておいたよー」と言ったりすることが増えた。
その後、しばらくした頃から、夫が仕事について考えていることをポツポツと語ってくれるようになった。
うれしかった。
同時に、私の振る舞いが与えていた悪影響をようやく実感できたのだ。
お姉さんのように面倒見良く夫をフォローすること自体は、問題なかったのだろう。
問題は、私がその立ち位置に心の安定を見いだしていたことだ。
友達に愚痴れば、「えー、旦那さん、ひどくない? すごい大変じゃん!」なんて言ってもらえる。
義実家では、いつもやさしい義母が気を遣って、「あの子、いつもあなたに迷惑かけちゃって、ごめんなさいね」なんて言ってくれる。
夫が悪者で、私が正義。
責められるのは夫で、ほめられるのは私。
そういう絶対的な位置関係には安心感があった。
でも、そこには、夫をサゲて自分をアゲるという腹黒さが見え隠れする。
私は、ただの「お姉さん」じゃなく、「腹黒姉さん」だったのだ。
その正体は言葉の端々に現れ、夫にバレていたに違いない。
もう「腹黒姉さん」とは、サヨナラすることにした!
……なんて言えたら格好いいが、そう簡単にはいかない。
今でも、自分に自信がなくなってきたり、ストレスがたまってきたりすると、ひょっこり現れる。
夫婦円満のためにも、うまく折り合いを付けていこうと思う。
「お姉さん」という立ち位置の安心感は、とても魅力的だ。
うっかり取り込まれそうになる。皆様もご用心を!
***
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