「普通じゃない」そんな私は(発達障害)
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:北本 亮太(ライティング・ゼミ6月コース)
「別れましょう。もう、あなたと一緒に生活するのは無理なの」
3年前の冬。突然、離婚を突きつけられた時に放たれたセリフである。あぁ。これが離婚なのか。悲しみ、辛さ。いろいろな感情がうごめく中、私はなぜその決断に至ったのかを目の前の彼女に問い掛ける。すると彼女は呆れ顔でこう言った。
「電気を消さなかったり、ドアを開けっぱなしにしたり。何度言っても治らなかったわよね。そういう細かいところが私は我慢できなかった」
キッパリと言われてしまった。確かに昔から心当たりがあった。忘れ物、落とし物の多さはずば抜けていた。親や友人から「注意力が散漫すぎる」と言われてもなかなか治せなかった。そうして大人になり、離婚の原因にまでなってしまうなんて。これまでの自分を責めた。
数年ぶりに一人になった。嘘だと思いたいが、どうやら現実のようだ。まだ気持ちを切り替えられた訳じゃない。悶々と考える日々が続いた。
「私は普通じゃないのかもしれない」
生まれて初めて自分の人生に異常を感じた。よく考えたらこんなにも人と違うのによくここまで生きてくることができたよな……。ネットで具体的な症状を検索したところ、とある文字が目に止まった。
“注意欠如・多動症(通称:ADHD)”
大人の発達障害と呼ばれるものだった。不注意、多動性、衝動性が主な特徴で、物を忘れたり、一つのことを考えることが苦手だったり、好きなことには過度に熱中したりする。確かに物忘れは多いし、物事を考えている際に別のことを考えてしまうこともあった。好きなジャンルも限られていて、友人らと話が合わず、生きづらさを感じたことだって。細かい作業は苦手で、誤字脱字や見積書のミスなど数を挙げればキリがない。
「もしかして、私はこの病気かもしれない」
私は精神科で診てもらうことにした。
人生で精神科に行くのは初めてだった。緊張していた私を出迎えてくれたのは少し歳を重ねた女性の先生だった。先生は母と同じぐらいの年頃だろうか。穏やかな口ぶりがなんだか話していて心地よい。その先生にいろいろと身の上を語った。不注意やミスのせいで、自分に生きづらさを感じていること、離婚の原因にもなったこと。自分に起きた話を全てぶちまけた。すると先生はこう言った。
「大人になってから、気付く方もおられますから安心してくださいね。まずは診てみましょう。3〜4回来てもらうことになります。3か月ほどかかるけど、大丈夫ですか?」
病院の受診時間は平日なので有給を使う必要はあったが、迷いはなかった。そして検査を受けることとなった。
検査では性格診断に加え、幼少期からの自分についての振り返りや採血などを行い、ADHDかどうかを判断する。少々面倒だったが、病気かどうか白黒をつけたいという一心だった。時には母にも病院にも来てもらってどんな子どもだったかを話してもらった。
先生とはいろいろなことを話した。「忘れ物が直らないんです」「鍵を毎年のように無くします」。その度に、先生が「大変だったんだね」「それは苦しかったでしょう」と相槌を重ねてくれる。そうやって会話を続けるうちに気づいたことがあった。「あ、私は普通じゃないんだ」ということだった。自分の弱みを言葉として表現することで、「おいおい、それはやばいでしょ」と冷静に分析するもう一人の自分が出てきたのである。自分の弱いところを突かれるのは楽しいものではなかったが、客観的な評価をする私に、「そうだよな」と頷く自分もいた。
そうして通院最後の日がやってきた。そう、先生から診断が下る時がきたのである。ADHDという診断が下されれば、障害者として職場に伝え、場合によっては障害者手帳ももらうつもりだった。それは別にアピールする訳ではなく「一生涯、この病気と付き合っていく」という覚悟を示したかったのである。
先生がカルテを書き終え、私に向かう。
「普通じゃないけど、障害っていうほどでもない。強いて言うならば軽度な発達障害かしらね」
んむむむ……。結局どっちだ? 白でも黒でもない。グレーなゾーンだ。先生は迷ってキョトンとしている私に構わず続ける。
「もし、これ以上ひどくなるようだったら、またきてね。その時は診断書も出すからね」
つまり、ADHDの兆候はあるが、診断書を出すほどでもないということだ。強いて言うならば(発達障害)という感じだろう。はっきりとしない結果にもどかしさがあった一方、先生から「普通じゃないよ」という言葉を聞けて結構スッキリしている自分がいた。まるで魔法の言葉を聞いたようだった。先生はさらに続けた。
「ADHDの兆候があるのは、悪いことだけではないのよ。一つの物事に集中すると、恐るべき強さを発揮するし、好奇心は旺盛だし。発想力もある。それはあなたの長所でもあるんじゃないかしら」
確かに、プロ野球や漫画など、自分が好きなジャンルでは集中すると何時間でも見続けられた。昔から分からないことは何でも聞いていた。自分には人にはない強みだってあるじゃないか。
「自分を受け入れれば、新しい自分が見つかるかもしれない」
診断を受けてから、新しい自分を手に入れるため「ちょっとずつ改善活動」を進めていった。苦手な細かい作業で失敗しても「私には他に強みがある」と前を向く。エクセルで統計をまとめて分析することだったり、資料を使った発表だったり、営業のアイデアだったりをこなしていくことで仕事はうまくいく。プライベートでも予定を忘れないように細かくメモしたり、通知を出すように設定したりして、抜け漏れがないように工夫した。
障害と認定はされなかったが、「普通じゃない」という「診断」をもらったことが私に自信をもたらしてくれたのである。私は心のどこかでつっかえていたものが取れ、新しい自分を見つけることができた。
そうすることで気持ちに変化も生まれてきた。心が晴れやかになり、自然と笑えるようになってきた。元気な自分がパワーアップして帰ってきたようだった。
診断が出て少し経ってからたまたま元妻に電話する機会があった。近況を伝えた後、診断が出たことを言った。
「俺は(発達障害)みたいだ。完全に障害ではないけど、兆候があるみたい。なんと言うか、生きづらい生活をさせてごめん。そして気付かせてくれて、ありがとう」
「まあ、わかってよかったじゃない。お互いに良い人生を送れれば良いのだから。あなたはあなたらしく生きれば良いのよ」
嫌な思い出ではなく、感謝の言葉で彼女との関係を終えることができた。もう未練もない。だって結婚した数年間よりこれからの人生の方が長いのだ。新しい自分を知ることができた方が何倍もご利益があるじゃないか。
私は(発達障害)である。診断書があるわけではない。「普通じゃない」ことが原因でいろいろな苦しみを知った。どん底まで落ちてから自分の長所も知ることもできた。そうして、新しい自分の姿を確立できた。自分が「普通じゃない」ことが、きっとこの先の人生の糧になる。そう信じている。
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