過去を捨てよ、前へ進め!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
「出場します! なんて言わなきゃよかった」
まだ夜が明けない駅までの道を、コートの袖を握りしめながら歩く。
しかもポツリと小雨まで降ってきた。
「うわ、最悪やん……」
前日までのやる気はどこへやら、テンションは下がる一方だ。
その日、私は「福岡マラソン2023・ファンランの部」に出場すべく会場に向かっていた。
2018年からエントリーして、今年が4回目となる。
2回目までは一緒に走るランニング仲間のサークルに入っていたおかげで、ややきついながらも、楽しいほうが勝っていた。
「ファンランって最高! 楽しいやん!!」
という気持ちしかなかった。
ところがコロナ禍を経た3回目の昨年のこと。
練習はおろか、走りたいという気持ちが薄れて臨んだ大会はボロボロだった。
一人ぼっちで出る大会はこんなに心細いのかと思った。
当日まで3キロ走るのが精いっぱいで、予定していた時間に起きることができなかった。
焦りのあまり、毎日飲んでいる薬を飲み忘れ、思わぬ腹痛に襲われた。またスタート当初は暑かったものの、ラスト1キロ付近で雷雨に見舞われ、びしょぬれでゴールするはめになった。
「もう3回も走ったし、来年はもういいかな」
そんな気持ちすらあった。
ファンランはフルマラソンとは違い、5.2キロの距離である。
福岡市役所前からスタートして、ゴールは早良区百道(ももち)にある福岡市博物館までの道のりをゆるゆると走る。
地元の方であればおわかりだろうが、地下鉄に乗ればおよそ7分で260円。
そこを制限時間65分以内に走って4,100円という、なんともコスパの悪いことをするのである。
内容を知った会社の同僚や友人からは
「はぁ? 何のために走るのよ?」
「朝っぱらから、きつい思いしてご苦労なこと」
「まったく、物好きねぇ……」
と散々な言われようだった。
しかし唯一、応援してくれたのは私が秘書として仕えている、ある役員(Sさん)だった。
Sさんは毎週のように各地の大会に出ては完走し、ついには県外でも100キロを超えるウルトラマラソンにもチャレンジする、すらりとしてしなやかな方である。当初は
「5キロなんて歩いてでも着くじゃない!」
と笑いとばされたが、あまりにも私が走れていないこと、テンションが低い様子を心配したのか、一冊の本を貸してくださった。マラソン初心者のための本だった。
それを見て私は、おっ!? と目を見張った。
「まずはいきなり走るのではなく、2週間、30分続けて歩ける体を作ろう」とある。
これなら、バスに乗らずに最寄り駅まで行くことや昼休みに実践できそう!
早速実践した。
「次に昔の自分を忘れること」とあった。人間はどうしても若い時の運動ができた頃のイメージで走ってしまう人が多いらしい。
それゆえ、自分の若い頃の記憶に体がついて行かず、転倒したり、途中で諦めてしまうことがあると書いてあった。
なるほど。たしかに最初の2回目までは、今までより5歳も若かった。
その時の自分より体力は落ちている。昔の自分と比較するのではなく、今の自分ときちんと向き合って、焦らずにやればいいじゃない!
30分続けて歩くことは苦にならなかったが、いざ走るとなると足が思うように進まない。
「Sさん、週末走ってみたんですけど、足が思うように上がらないんですよ……」
すると、即答された。
「なんで足上げる必要があると? 高跳びじゃあるまいし。こけない程度に前に進めばいいんやけん」
「あっ、そうか。そうですね!」
「テレビで見る選手たちは、普段からめちゃくちゃトレーニングしよるから、あんなに上がってるように見えるだけなんよ。大丈夫、大丈夫! がんばって!」
会場への道すがら、Sさんの言葉を思い出して「大丈夫、大丈夫!」と自分に言い聞かせた。
4回目の今年、ささやかな目標を自分だけに課していた。
「きつくても、ビリでもいい。最後まで歩かないこと」
そして8時20分。スタートの合図が鳴った。
パァァーーーーン!!
一斉にランナーが天神のメインストリートを駆けていく。その光景はなんとも圧巻だ。
「そうそう!! この景色が見たかったんだ、私!」
と一気にテンションが爆上がりした。
しかも、途中で野口みずきさんと設楽悠太さんというテレビでしか見たことないランナーにも遭遇し、さらに気分が高揚する。
「うわー、すごい人たちと走ってる! 感激!!」
自然と笑顔になる。ファンランは、ランナーとサポーターが一体となり「がんばってー!」という歓声が道を埋め尽くす。沿道から応援する人たちが元気をくれる。
ランニングは孤独な挑戦だけではなく、たくさんの人の共感と協力のもとに成り立っているのだと感じた。
途中、何度か歩こうかという気持ちが頭をかすめたが、自分との約束は守りたかった。
決して速いペースではなかったものの、最終的には45分でゴールすることができた。
昨年のしんどい思い出や、家を出た直後のどんよりした気持ちはどこへやら。
ただただ、やり切ったという充実感が私の体を満たしていた。
「出場します! と言ってみてよかった」
そう思いながら、私はゴール地点でのガッツポーズ写真をSさんにLINEで送った。
***
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