USBのオモテウラを間違えて差し込んでしまう、すべての方へ
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記事:桜井 祥子(2023年・年末集中コース)
「USBを、一発で差し込めたことがないんだ」
USBのオモテウラを間違えて差し込んでしまう、すべての方へ
彼が、ふとつぶやいた。
「なんの話?」
キーボードを打つ手を止めて、彼の方を見る。
椅子の背もたれにぐったり寄りかかりながら、
彼は横目でこちらを見ている。
気付けば時刻は19時過ぎ。
オフィスの窓の外は、いつの間にか真っ暗だ。
雑談でもして一息つきたい、
ちょうどそんなタイミングだった。
彼がよいしょと、こちらに体を向ける。
「あのさ、USBをね、パソコンに差すでしょ」
空想上のUSBケーブルを指でつまんで、
パソコンのポートに差し込む真似をする。
「うん」
「最初は表と裏を間違えるから、
うまく差し込めないんだ。
絶対、必ず、100パーセントの確率で」
「なるほど」
「逆だな、と思って、裏返して差す。
でも入らない」
「うん」
「じゃあやっぱり最初の向きが
正しかったんだと思って、
裏返して、もう一回差す。でも入らない」
「うん」
「そうやって何度か繰り返すうちに
やっと入るんだけど、入った時にはもう、
最初が正解だったか、二度目が正解だったのか、
全く分からなくなってるんだ」
「なるほどね」
ちなみに皆さんは、「USB」をご存知だろうか?
もし「USB」という名称をご存知でなくても、
モノをご覧になったことはあるはずだ。
パソコンを使っている際に、
マウス、キーボード、スピーカー、カメラなどなど、
外付けの機材を一緒に使おうとしたことがあると思う。
それらの機材から延びているケーブル。
ケーブルの先にある、銀色の四角い金属部。
その、パソコンに差し込む金属部のオモテウラについて、
今、我々は語っているのである。
オモテウラを一回ずつ試せば
必ず正解にたどり着くはずなのに、
なぜかそうならないんだ、と彼は主張する。
私は否定せず、うんうんと頷く。
面倒だからではない。
私にも、USBを何度もひっくり返しては
差し直した経験があるからだ。
そしてこれを読んでいるあなたにも、
きっと、同じ経験があると思う。
USBのオモテウラ問題は、
それくらい多くの人を悩ませる、
ミステリアスかつ深刻な問題なのである。
だが、私はある日を境に、
この問題から解放された。
そして心の平穏を得たのだ。
どういうことか、ぜひ聞いて欲しい。
私にそれを教えてくれたのは、
ある年に入社してきた新人だった。
柔らかい雰囲気で人当たりが良い、
私の半分の年齢の、若者。
「桜井さん、いいこと教えてあげます」
日々USBと格闘している私を見て、
若者がふんわりと微笑む。
「私も同期から教わったので、受け売りですけど……
USBの先にある、銀色の部分をよく見てください。
まず表。それから裏」
「うん」
「笑っている側がありませんか?」
「え?」
「ほら、銀色の差し口のところ。
並んだ2つの四角が目で、その下が口です。
かわいいでしょう?」
「え?」
□ □
▽
「え……? 本当だ! かわいい!」
「笑顔の側が、表です。
この笑顔を自分側に向けて差し込むと、
だいたい、一発で決まるんですよ」
かくして、私はこの日を境に、
USBをほぼ一発で差し込めるように
なったのだった。
冒頭の「彼」は、
「最初は必ず間違える」と話していた。
が、恐らく、一度で成功していた時もあっただろう。
(確率的には50パーセントなんだから)
でも人は、うまくいかなかった時のことを、
より強く記憶してしまうものだ。
そして、「どうせまた、うまくいかないに決まっている」、
そんなネガティブな気持ちを重ねていく。
今、私は、「うまくいく」と思って、USBを差し込む。
USBに笑いかけられ、私もつい笑顔になる。
成功すれば爽快で嬉しいし、
もし失敗したとしても、心持ちは穏やかだ。
またやり直せばいい。
ぜひあなたにも、この気持ちを味わってほしい。
そして笑顔になって欲しい。
お手元のUSBの笑顔を、見つけてみてください。
なお、無機質なUSBに笑顔を与えた
素晴らしい感性の新人は、
やがて、羽のような軽やかさで、
新天地を求めて旅立っていった。
旧人は、安定、とか、リスクマネジメント、
なんて言葉がよぎってしまって、
なかなかそんな軽やかさは持てないのだが、
せめてこの先、
「新人から教わったので、受け売りですけど……」
と、他の人にも、USBの笑顔の話を
広めていきたいと思っている。
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なお、今回の話で取り上げたUSBは、
「Type A(タイプエー)」と呼ばれる、
初期型のUSBである。
最近主流である「TypeC(タイプシー)」という
後継のUSBは、両面ともツルンとしていて、
オモテウラがない。
間違えることはないから、イライラすることはない。
ただ同時に、笑顔もない。
私の、USBを差す時の小さな楽しみ。
USBの笑顔と、あの新人の笑顔が重なる。
初期型がなくなりませんように、と思いながら、
今日もパソコンの電源を入れて、仕事に向かう。
***
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