冬の北海道はあったかい
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記事:Three Corners(ライティング・ゼミ12月コース)
札幌で4年間、学生生活を送った。
入学試験前日に札幌に着いたときは既に雪解けを迎えていたが、昼過ぎでも気温は氷点下だった。「北海道だから寒い」と身構えてやって来たものの、予想に反し、試験を終えるまで寒さを感じることはなく、むしろその数日前の京都の方がずっと寒かった。
もっとも、所詮3月、暦の上では春だ。本格的な冬の寒さには程遠い。高校を卒業するまで冬は「コタツムリ」だったので、北の大地の冬には相当の覚悟をもって臨んだ。しかし4年間の在学中、連日最高気温が-10℃以下の日が続いた時期もあったが、体が凍えるような思いをした記憶はない。
「寒さに慣れたからではないのか」という人はいるだろう。もちろん、寒さ慣れはあったかもしれない。でも、それ以外に大きな原因があったというのが私の結論だ。
どこかで「道産子(北海道出身者)は寒がり」という話を見聞きしたことはないだろうか。道外に移住した道産子は、冬になると厚着をしたり、地元民がそれほど寒く感じていなくても、暖房を使ったり設定温度を上げたりする等々、この手の話には枚挙にいとまがないほど。
本当に道産子が寒さに慣れているならばこんな話は出てこないだろう。つまり、道産子は必ずしも寒さ慣れしているわけではない。では、それは何故なのだろうか?
場所にもよるが、北海道では厳冬期の気温が-10℃や-20℃は当たり前。札幌に発つ前、親族から「冬は間違っても立ち小便なんかするなよ。ツララになっちまうぞ」など有難い助言をもらったものだ。
もちろん、これは昭和基地でもありえない話、いわゆる都市伝説だったが、経験したことのない人の持つ酷寒の世界のイメージとは、えてしてこんなものなのだろう。
実際問題として、普段目にし耳にする観測値としての気温と人間が感じる体感温度には違いがある。体感温度は気温のほか、湿度や着衣、そして風によっても左右される。そして、そこには生活空間の屋内環境が絡んでくる。私はプラスして、さらに潜在意識も働いていると考えている。
北海道では長年の苦難の歴史から、どんな年代物の物件でも、少なくとも二重窓などの防寒対策が充実しており、本州に比べて屋内は暖かい。建物だけでなく駅構内、地下街はもちろん、電車やバス車内も防寒で暖かい。北海道の冬の室温は19.8℃で、全国でダントツのトップなのだそうだ。
このためなのか、札幌では冬の暖かい部屋でアイスクリームを食べる習慣がある。主要都市の中で、札幌の年間のアイスクリームへの支出額は16位なのに、冬に限っては2位にハネ上がるという調査結果もある。最近は「札幌こたつでアイス市電(要予約)」まで走っているらしい。
私が住んでいた築古の賃貸マンションも、屋外が-10℃を下回る夜でも室内はカジュアルシャツ1枚で過ごせた。だから、外出時の防寒が十分であれば、酷寒でもそう寒さを感じることはなかった。
長時間屋外にいれば話は別だが、冬の北海道では大半の人が多くの時間を屋内か車内で過ごすはず。だから、仮に北海道に引っ越すことになったとしても、寒いからと言って身構える必要はないだろう。実は北海道に限らず、雪が降っていても風が吹かなければ意外な暖かさを覚える人は多いものだ。事実、雪の降りしきる真冬日、灯油の買い出しで汗だくになることは珍しくなかった。
こうした事情を踏まえると、「冬の北海道は寒い」という誰もが持っている潜在意識を覆す「想定外の暖かさ」を体感することで「冬の北海道はあったかい」というイメージを持ってしまうのは、ごく自然なことだといえる。
一方で、北海道より南にある本州、特に太平洋側は、冬はカラカラに乾燥した冷たい季節風が吹きすさぶ。乾燥しているので体感温度は低い。この冷たい風が建物の奥深くまで侵入してくる。湿気が原因となるカビ・害虫防止のために通気性を持たせている住宅事情が、冬季は仇となって寒さの一大要因となってしまうのだ。
そこに道産子の「北海道より南だからあったかいはず」という潜在意識が加われば、より一層寒さが募ることだろう。北海道とは反対に、屋外より滞在時間の長い室内が寒いのでは堪ったものではない。道産子なのに寒さにふるえるのは無理からぬことなのだ。
このように、「体感温度と潜在意識」が「冬の北海道はあったかい」を演出しているというのが私の結論だ。寒がりの道産子の謎は実は謎ではないのだ。
ただ、さすがに気温が-20℃を下回るようになると、「冬の北海道はあったかい」とはいえなくなる。その意味では「冬の札幌はあったかい」と言いかえる方が適切かと思う。
先週末、いきつけの定食屋で仲のよさそうな老夫婦が食事を摂っていた。
セルフサービスのお茶を取りに行って戻ってきたお婆さんに、お爺さんはやさしく声をかけた。
「あったかいお茶はあったかい?」
「……はいはい」
ダジャレは寒くても、ほのぼのとした二人の雰囲気はあったかい。
***
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