別れを「じゃあ、ね」で見送った後、寂しくないですか? と聞かれました。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:香月佑水(ライティング・ゼミ2月コース)
「寂しくないですか?」
たった一言。
そう聞かれた瞬間、写真で切り取ったかのように周りが止まって見えました。
ど直球な言葉で聞かれたから驚いているんだよ、心の中の私がそっと教えてくれました。
閉塾が決まった学習塾で、これまで応援してくださった方々とお別れ会の日。
11年前に塾を立ち上げる際、支援をいただいたり、長いこと見守ってくださってきた方をお呼びしていました。
わずかに目線を動かすと、集まってくれた大人たちの視線と静かさが、塾長であった私の答えを待っているのが分かりました。
お別れ会もそろそろお開きにしようか、という最後の時間だったからかもしれません。
脳裏に浮かんできたのは、ここに来る道の途中で見た満開の桜でした。
今年はどれくらい咲いているのだろうと思ったその儚さは、この瞬間と似ている気がする、そう思いながら言葉が出ていました。
「そうですね……」
言いながら、桜の花が頭に浮かんでいたのは、今年の桜は入学式や始業式の時期にやっと満開になった、遅咲きだったからでした。
私が普段、桜と聞くと、3月の卒業式や終業式を思い浮かべる様になっていたのは、きっと塾講師という仕事柄でした。
ただ、私にとっては、今年の桜も卒業の桜になったのでした。
桜咲くこの日を限りに閉塾し、私自身も塾講師を辞めるため、私とっては講師の卒業であり、通ってくれた塾生達にとっては、この塾を卒業する日でした。
あっという間に満開なった桜は、今年もすぐに散っていくのでしょう。
それは、あっという間に過ぎた塾の11年間も、最後の時間は早く過ぎていくことと重なる様でした。
「充実した時間だったと思います」
寂しいとは反対の言葉が滑り出ていました。
私以外の時が止まっているかのような静かな空間は、寂しいと逆の言葉の意味を測り、続きを促している様でもありました。
だからもう一度、言葉を重ねました。
「寂しいと感じるのは、充実した楽しい時間があったからだと思います」
今朝、見上げた満開の桜は、数日後には一気に、そして一斉に散るのでしょう。
そこには寂しさしかないのか、悲しさしかないのか、と自分の中を探りながら、言葉の続きを探りました。
桜が儚く散るものだと知っていて、人々が桜の木の下でお花見を楽しむように、今日の日中は、この場で塾の子ども達が自由にご飯を食べ、みんな全力で遊んでいた光景を思い出しました。
一度散った桜が元には戻らないように、今後もう会うことがない塾生が100%とまではいかないけれど、ほぼ全員になるだろう、そう思いながら塾生達の様子を見ていました。
面と向かって寂しさを表現しない代わりのように、なかなか帰りたがらない塾生に言いました。
「これが今生の別れじゃないよ」
新生活の始まる時期だから尚更、今後そう会うことはないだろうと分かっているのに、こんな言い方をするなんて……私はずるいなと思う気持ちがよぎりました。
「青い空の下のどこかに、これからもお互いいるから」
いつ会えるかは分からない、けれどそれだけは事実でした。
そして、「じゃあ、ね」と塾生達に別れを告げたのが数時間前。
普段、塾で塾生達の帰りを見送る時と変わらない言葉でした。
塾生達には面と向かって言われることがなかった「寂しいですか?」という言葉を、最後の最後に聞かれるとは思ってもいなくて、塾生達の様子を思い浮かべながら答えていました。
「11年を振り返って、過ごした時間がどうでもよかったとか、辞めれたことでせいせいしたとかだったら、確かに寂しくはないんでしょうね」
あえて少し冗談っぽく言うと、周りの空気が少し柔らかくなるのを感じました。
「これが、充実した時間や楽しい思い出があることで感じる寂しさであるのなら、寂しさよりも11年を過ごせて良かったと思うんです」
塾といえど、日々の勉強だけでなく、子ども達の視野を広げたり、居場所づくりをするために、毎月様々なお出かけやイベントを企画し、思い出をたくさん作ってきたことが思い出されました。
寂しさよりも、心の中を大きく占めるのはたくさんの思い出なのだと、はっきり気がつきました。
「子ども達と過ごした素敵な時間を覚えておこうと思います。寂しいは楽しいの裏返しだと思うので」
これまで応援してくださってありがとうございます、そう言うと、静寂が拍手に包まれました。
拍手を聞きながら、出会いと別れは桜の花に似ているなと思いました。
咲いた桜が散ることに感じるのが、寂しさや悲しさだけでないのは、来年もまた咲くことが分かっているからだろうと思います。
散る桜を見ながらまた来年を思い、様々なことが起こるうちに一年が経ち、忘れた頃にまた花が咲きます。
咲いて散る桜と同じように、別れた塾生達とまたどこかで会うこともあるでしょう。
毎年同じ時期に咲く桜のように、いつ会えるかの約束はないけれど、またどこかで大きくなったみんなに会えたらいいなと思うのでした。
***
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