メディアグランプリ

「それを奪うなんて私にはできない」と強めに指摘されて気づいたこと


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記事:山口(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「やりたいのに。なんで取るの!」
息子が玄関で声を震わせた。泣きそうな顔で……。
「えっなんで?」
きっと喜んでくれるだろう。「ありがとう」と言われるだろうとニコニコと待っていたら、全く逆の言葉が飛んできたのだ。
 
それは、中学3年生になる長男が2歳か3歳の時のこと。
中々靴が履けずに時間がかかっていた。早く外に出て公園に行きたいだろうしと「履かせてあげるね」と軽い気持ちで靴を手に取りサクッと履かせてあげた時のことだった。
 
まだまだ色んな事が上手くできない年齢。ヨタヨタしている。それもまた可愛い。しかし、何でもやりたい時期だろうし「まあそんな時もあるかな」くらいに軽く考えていた。
 
ただ、私は「やりたいのに!」と怒られたことを一応反省して、次からは何をするにしても、息子にばれないように気を付けながらコソっとお手伝いをしていた。何ならばれずに手伝えていることを誇らしく思っているぐらいだった。
 
しかし、妻は違った。ずっと見守っているのだ。どんなに時間がかかっても。あと「こうすると上手くいくかもよ」と声掛けをしたりもしていた。
 
「何で手伝わないの。やってあげた方がはやくない?」不思議に思って何気なく聞くと
 
「だって、頭も体も使って一生懸命やっているんだよ。成長のチャンスじゃん。こうやって成長していくんじゃないの? それを奪うなんて私にはできない」
 
「えっ……」
 
返す言葉が何も出てこなかった。だってそれが良いことだと思っていたのだから……。
それに、まあまあ強めに言われたことにも面食らってしまった。きっと普段から私が何でも手伝っているのを見ていて気になっていたのだろう……。
 
思い返してみると、靴を履かせてあげる以外にも、ご飯を食べる時は汚れないように、こぼさないようにと手伝っている。公園に遊びに行って遊具に登るのも手伝ってあげたりしている。それ以外にもあれもこれもと。良かれと思って。
 
妻の考えからいくと、どうやら私は息子が一生懸命考える、体を使うという成長のチャンスを何から何まで奪いに奪いまくっているということになるようだ。それに比べて、私は喜んでくれるだろうとか、ストレスを感じさせたくないとか目先のことだけを考えていた。なんと浅はかなのだろう……。
 
飛躍し過ぎなのかもしれないが、このまま何も考えずに手伝い続けていたら、自分では何もできない何も考えられない子になっていたかもしれない。将来、社会の荒波にのまれてしまうような対応できない大人になっていたかもしれない。と、息子の将来が心配になり、そして申し訳ない気持ちでいっぱいになり猛烈に反省した。まじで。
 
そして今考えると、過剰にサポートしている自分はChatGPTのようなものだなとも思った。問題があればすぐにぱっと答えを出してサポートをしている。自分で情報を集め、検討し、判断し、決める過程をかわりにサクッとやってあげている。便利だけど自分であれこれと考え思考を深めていくことを極端に少なくしてしまい、成長を阻んでしまっている。完全に使い方を間違ってしまっているのだ。
 
また、自分で解決策を見つけた時の喜びや達成感も、過剰なサポートによって奪っている。問題に直面し、それを乗り越えた時の経験が自信につながり、自己基盤を築くというのに。
 
ChatGPTを含むAIツールの利用は、その便利さと学びのバランスを考慮する必要がある。何でもかんでも使えば良いってもんでもない。それと同じように、息子のためにも私をどこでどう使うか、私自身が考えなければならなかったのだ。
 
妻からの指摘を受けてからは、手伝いたい気持ちをぐっと抑え、我慢強く見守ることにした。すると、なんといじらしく最後まで頑張ることか。最後まであきらめずに頑張る姿がまた可愛いではないか。
 
そして、時間はかかるが「できた!」と顔を上げ、キラキラとした目をこちらに向けてくるのだ。もうこの瞬間がたまらない。完全に親ばかではあるが、うちの子が本当に世界で一番可愛いとさえ思った。
 
それに、最後まで頑張る息子が誇らしかった。そしてそれを褒めると息子も嬉しそうにして、ちょっと自慢気な感じが本当に嬉しかった。きっとこの積み重ねが10年後、20年後、もっと先にとてもとても大きな違いになってくるはずだ。
 
これはもちろん息子の性格もあるのだろうけど、この頑張りは妻の力が大きいように思う。いつも見守り、そして最後にこれでもかと褒めてあげているのを何度も目にしてきたからだ。それなのに今まで気づけていなかったなんて全く私は何をやっていたのだ。
 
しかし、今の私はもう違う。
もう「なんで取るの!」と怒られた時とは違い、ちゃんと待つことを覚えたのだ!
 
 
 
 
***
 
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2024-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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