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夏祭りが、久しぶりの夏を運んできた


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記事:庭田涼平(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
いつからだろうか、毎年やってくる夏にワクワクしなくなったのは。
 
今年もとうとうこの季節がやってきてしまった。
夏という季節は、とにかく暑くて仕方が無い。
暑さによって、外に出て活動する意欲を削がれ、冷房の効いた室内に籠りがちになる人も一定数居るだろう。
それどころか、あまりに気温が高くなると屋外に出ることすら危険となる。
重い腰を上げてどこかに出掛けたとしても、夏の暑さからは逃れられないし、出掛けた先に人が多ければ暑さと人混みのダブルパンチでさらに疲れる。
夏という季節は、どうしてこうも私を疲れさせてしまうのだろうか。
 
気がつけば、子供の頃よりも夏が辛くなった。
特に、夏の暑さは年々厳しくなりつつある。
私の地元の北海道ですら36℃を超える暑い日があるくらいなのだから、間違いなく子供の頃よりも暑くなっている。
私は大学進学を機にその地元を離れて以来、地元よりもずっと暑い地域に住み続けている。
そりゃ、夏が辛くて当たり前だ。
夏という季節を楽しむ前に、夏の暑さに悩まされる。
夏に対してワクワクするよりも、夏によってグッタリとさせられる。
 
そんな中、先日私が住む場所から目と鼻の先の場所で夏祭りが開催された。
以前から、すぐ近くで毎年夏祭りが開催されるのは知っていたが、夏祭りが開催される日に限って私は家を空けていたので、その夏祭りの様子を全然知らなかった。
今年は運良く、夏祭りが開催される日に家に居た。
夏が始まったばかりだと言うのに、既に夏の暑さに意欲を削がれていたためか、折角の連休なのに予定を入れず家でゆっくり過ごしていた。
とはいえ、貴重な連休なのにどこにも出掛けず、家の中でだらだらと過ごすのはいかがなものか。
そう思った私は重い腰を上げて、夏祭りが開催される方へふらっと足を運んでみた。
 
夏祭りは、駅前の広場と周囲の道路を全面通行止めにして開催されていた。
どれどれ、祭りの全景はどんなものか。そう思ってまずは駅のエスカレータを上がって祭りを上から眺めてみた。
すると驚いた。普段はさほど人の多くないこの駅前に、人がみっちり集まっていた。
駅前通りの電柱には赤提灯が垂れ下がっており、その下には焼きそばやたこ焼き、かき氷などの定番の屋台が並んでいた。
この光景を見ているうちに、忘れかけていたワクワクした気持ちが不意に湧いてくるのが分かった。
夏祭りの様子だけ見て家に戻ろうと思っていたのだが、すっかりこの夏祭りを少し味わってみたい気持ちになった。
時間も夕方に差し掛かる頃で、暑さも和らいできた頃合いだったのも、私の背中を夏祭りへと押し込んでくれたようだ。
 
夏祭り会場へと入っていくと、辺りは家族連れやカップルでごった返していた。
そんな中を男一人で歩くのは少し気が引けたが、これだけ人が多ければ誰も気にしないだろうと思い直し、そのまま歩いていくことにした。
会場の中を歩いていると、焼きそばやお好み焼きといった定番の屋台に、会場となる町のお店による出店も多く混ざっていることに気付いた。
夏祭り会場の沿道にある居酒屋が店の前に机を並べて、ビールや手軽に楽しめるおつまみを売っていた。
居酒屋だけでなく、不動産屋や美容院が店先でドリンクや子供向けのおもちゃを販売していたし、さらには駅前の牛丼チェーン店までもがここぞとばかりに飲み物や軽食を売り歩いていた。
1年前に開店したばかりのラーメン屋も、駅前でいつもやる気無さそうに客引きをしているガールズバーも、みんな店先に出店してこの夏祭りに参加していた。
 
地域が一丸となって盛り上げるこの夏祭りは、この町のコミュニティを象徴する祭りなのだと感じた。
会場のあちこちで、子供の親同士の挨拶が聞こえてきたし、屋台の周りでは子供たちがはしゃぎ回っていたり時折店の手伝いをしたりしていた。
そんな様子を眺めながら、私は屋台で買ったビールや焼きそば、居酒屋オリジナルの冷汁そうめんを味わった。
 
のんびりと祭りの雰囲気を味わいながら飲み食いするうちに、若干ながら酔いが回ってきた。
考えが少しぼんやりとしてきた中で、私は子供の頃に行った地元のお祭りのことを頭に思い浮かべた。
暑さの中に適度な涼しさも感じられる地元北海道の夏。
近所の大きな公園の広場に、グルっと屋台が立ち並んでいて、中央にはやぐら。
やぐらの周りで盆踊りを踊ったり、同じ小学校の友達を見つけて嬉しくなったり。
あの頃は、今よりもっと夏にワクワクしていたなぁ、と当時の気持ちが蘇ってきた。
 
一通り夏祭りの会場を巡った後、私は屋台で焼き鳥と唐揚げを買い、家に夏祭りの雰囲気を持ち帰った。
唐揚げと焼き鳥を、家にあった缶ビールで流し込んだ。
子供の頃の自分からすると、こんな夏祭りの楽しみ方は想像できなかっただろうなと、大人になった今ならではの優越感に浸った。
そうするうちに、自分の中でやっと夏が来たという実感が湧いてきた。
酷暑で疲弊する夏も、エアコンの効いた部屋でぼーっと過ごす夏も、子供の頃から親しんできた夏とはかけ離れていた。
私にとって、ここしばらくの夏は夏ではなかったのだ。
 
夏祭りが、懐かしい子供の頃の地元の記憶と一緒に久しぶりの夏を運んできた。
今年こそは夏を満喫したい。
地元のような涼しさは期待できないが、今年はせめて少しくらいは暑さの和らいだ夏になってほしいものだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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