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内なる裁判官を追い払うため、私は装う


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記事:XV(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
私は見栄っ張りである。
そして、自分が着ている服や靴について、人にどう見られるかが非常に気になる。
学校、職場、個人的な集まりに参加するとき、周りの様子を見てひとたび「自分だけ〇〇で浮いている。今日の装いは大失敗だ。」と思い始めるとテンションがグッと下がり人との会話に集中できなくなる。
誰かに何かを指摘されることがきっかけになることはめったにない。ただただ勝手に自分でそう思い出すのだ。
 
この現象はその空間に一緒にいる人と自分を比べ、自分1人だけ雰囲気が違う(と自分が感じた)時や、いまいちコーディネートが良くない(と自分が感じている)のに周りに綺麗な服装をしている人を見た時に多く発生する傾向にある。
 
例えば季節の変わり目に友人たちと集まった時、自分1人だけ薄着で他は厚着だと1人だけドレスコードを守っていないような気になり、周囲の人間に非難されているような気までしてきて落ち着かない。
 
他人に対しても批判的で切り捨てるような目で見ているからこそ、自分にも返ってきているのだと思う。
実際、非難の矛先は自分だけではない。
例えばスーツ姿の男性がつま先が禿げた革靴履いているのを街中で見かけると、「お客様は靴を見て営業マンのことを判断する、ってビジネス書に書いてあったよな。この人は営業成績悪いんだろうな。」とか考えてしまう(口にはもちろん出さないが)。
まるで、テレビのワイドショーで著名人の服装をこき下ろすコメンテーターのようだ。
 
自分でも疲れてきてしまう。考えなければ良い話なのだが、体の中からネガティブな感情が湧き上がってくるとしばらくその感情に心が支配されて身動きが取れなくなるのだ。
 
子供の頃は、母親がスーパーで買い与えてくれる服を着る他なく、世の中が今ほど子供の服に力を入れる風潮もなかったため、1人でジャッジして1人で苦しんでいた。
中高生の頃は制服があり、休日も友人と会う機会は少なかったので少し落ち着いていたかもしれない。
 
そんな内なる裁判官を宿している私も大人になり、服を買い、試行錯誤を繰り返した。
服だけではなく、靴、時計、髪型もだ。
その結果、20代も後半になる頃には自分なりの妥協点を見出した。 
 
自分の中の裁判官が従う法律は、どうやら価格とシンプルさが基準らしい。
 
休日の装いはユニクロに代表されるファストファッションよりも少し高い、でもヴィトンのような高級ブランドではないカジュアルなもの。
(自分の美的センスではファストファッションでも見分けはつかないはずだが、そこよりも高いものを買っていることに裁判官の好印象が得られるらしい。)
柄は、あってせいぜいボーダー柄かチェック柄。文字がデカデカと書いてあったりすると落ち着かない。
 
会社に来ていくワイシャツは、昔からあるスーツチェーン店ではなく、ビジネス雑誌に取り上げられるようなワイシャツ専門店で合格点が得られる様子。
その店は形状記憶素材のものを扱っていないため洗濯は面倒だが、色合いやデザインは私でもおしゃれだと感じるのと、取引先の偉い人と会うときも自分の中の裁判官が大人しくしているのでその店のものを買い続けている。
 
スーツについては法律が未整備のようで、他人のものを見ても全く何も感じないのだが、知人が格安のオーダーメイドスーツを紹介してくれたので買う時はそこにしている。
父親が私のスーツ姿を見て「仕立てはいいがやっすい生地だな」とポロっとこぼしたので、その時着ていたスーツより一段階上の生地を選ぶようにしたが。
 
自分の中で基準を満たす服装をすることは、自分の中で勝手に開かれそうになる裁判の開催を阻止することなのだ。
 
 
この服装で大丈夫だ、と思いながら人前に出ると、そこには内なる裁判官の気配はすでにない。
 
 コイツ服装に気を使ってないな、と思われているぞ
 ブランド品を見せびらかしやがって、と思われているぞ
 みんな綺麗な格好をしているのには自分だけみすぼらしい格好をしてみっともないぞ
 
といった声から逃れられるのだ。
 
ごくたまに服装について雑談をする機会もある。どのあたりでどんな買い物をしているのかなどを伝えると、オシャレに気を遣っていますね、と言われることがある。
確かにエネルギーは注いでいると思うし、服を見て「これいいな」と思ったり、気分が良くなったりするほどには慣れてきた。
でも私は着飾りたいわけではない。
自分の内なる裁判官を追い払い、目の前の会話やイベントに集中するためにこうするしかなかったのだ。
 
こんなことを考えながら服を選ぶことについて少し寂しく感じることもある。
エネルギーを使うならもっと前向きな使い方をしても良いのではないか、と自問する。
一方で、裁判官が見張っていたからこそ、服装について自分なりの考えを持てるようになった、という見方もできる。
私のこの思考の癖は良いのか悪いのか、判決が出るのはまだ先になりそうだ。
 
 
 
 
***

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2024-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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