メディアグランプリ

お絵かきはスパイス


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:雨の日曜日(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

「私は絵が下手です。好きでもありません」
 

保育園に入園したとき、私はクレヨンをもらいました。じっとしているのが苦手だった私は、クレヨンをほとんど使うことなく、卒園を迎えました。絵を描くという行為に興味がなかったのです。
 

学生時代も、美術の授業は大嫌いでした。なぜなら、私は絵が下手だし、嫌いだったからです。「芸術に正解はない」と言われますが、私には絵に正解があるように感じられました。クラスには絵が上手と言われる子がいました。写生大会では賞をもらう子がいました。私は絵を褒められたことがありませんでした。
 

そんな私に転機が訪れたのは、中学校を卒業し、絵を描くことなどすっかり忘れてしまった10年後のことです。
 

ある日、偶然見かけた映像が私の心に変化をもたらしました。それは、子供が無心で絵を描く様子を映したものでした。子供は筆を迷いなく動かし、次々とキャンバスに色を載せていきました。何が描かれているのか私には分かりませんでしたが、その子供は「これは夕焼けの色」「これは海の色」と説明していました。その姿を見て、私は深く感動しました。その子供がただただ楽しそうだったのです。
「絵ってこんなに自由でいいんだ」
「自由な絵にこんなにも心をつかまれるんだ」
 

さらに、現代美術をテーマにした美術館を同時期に訪れたことも大きな影響を与えました。それまでも美術館には足を運んでいましたが、現代美術は理解しづらいという先入観がありました。しかし、展示を見ながら「これは何に見えるだろう?」と自分に問いかけるうちに、想像力が刺激され始めました。友人も私に「これ、どう見える?」と尋ねてくれて、その質問がきっかけで一層楽しめるようになりました。美術作品は見る角度やタイミングで感じ方が変わり、私の回答も作者の意図とは異なるかもしれません。それでも、そこにある自由な解釈の可能性に魅了されました。
 

「絵には正解があると思うのは間違っていたのかもしれない!」
そう思うと、急に絵を描きたくなりました。美術館からの帰り道、文房具店に寄り、クレヨンとスケッチブックを購入しました。
 

絵を描くために喫茶店に入り、さっそくクレヨンを取り出しました。最初は何を描けばいいのか分かりませんでした。「もしここで描いた絵が下手だったら、また絵を嫌いになるかもしれない」そんな不安が頭をよぎります。
 

しかし、私は「何も考えるな!」と好きな色、たしか水色を手に取りました。手を動かしていると、自然と最近よく聴いていた曲を口ずさんでいました。その曲を歌う女性の声がとても好きだったのです。私はイヤホンを取り出し、その曲を再生しました。
 

「歌声を色に変えてみたい」と思ったのです。
 

「絵を描く」のではなく、「色を塗る」。そう考えると、上手い下手の呪縛から解放されたような気がしました。色を塗り進めるうちに、何かモチーフが欲しくなり、周りを見渡しました。目に留まったのは、喫茶店の片隅にあった馬にまたがる熊の置物でした。その奇妙さと、どこか哀愁を帯びた表情が、歌声と重なったように感じました。その熊を描き加えると、私の絵は一つの作品として完成したように思えました。
 

あの日から、絵を描くことが私の趣味になりました。描く時のルールは「好きなものを、好きな色で描く」ただそれだけです。
 

もともと私の趣味は音楽鑑賞と読書でした。どちらも今でも大好きです。しかし、絵を描くことはこれまでの趣味とはまったく異なると感じました。なぜなら、読書や動画鑑賞は受動的な趣味ですが、絵を描くことは能動的な行為だからです。絵を描くことで、それまでインプットした情報を自分の中で再構築し、新しい形に表現する楽しさを見つけたのです。
 

実際、今描く絵のほとんどが曲や物語を題材にしています。描いているうちに、今まで気づかなかった音楽の新しい一面や、物語の深い解釈が見えてくるようになったのです。また、絵を描くために新しい音楽や物語を探すようにもなりました。能動的な趣味を持つことで、受動的な趣味の価値が一層深まることを実感しました。
 

以前読んだ『アウトプット大全』という本には、「良質なインプットは、良質なアウトプットから生まれる」というようなことが書かれていました。こちらの本はビジネス書ですが、趣味にも当てはまると思います。
 

絵を描くことは、読書や音楽鑑賞の楽しみを増幅させてくれる、スパイスのような存在です。アウトプットには時間や労力、お金もかかりますが、その分、読書と音楽の趣味の深みが増し、豊かな時間を過ごせるようになりました。
 

私は絵が上手いのか下手なのか、今でもよく分かりません。ですが、絵を描くことが好きになりました。今後も好きなものを好きな色で描きながら、趣味を楽しんでいきます。

 
 
 
 

***

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2024-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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