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孤独死の現場


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記事:柏原健太郎(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

薄暗い部屋に足を踏み入れた瞬間、異様な臭いが鼻を突く。室内はまるで時間が止まったかのように荒れ果て、古びたエロ本やアダルトビデオが大量に散乱しているのが視界に入る。別の部屋には亡くなった両親の衣類が山積みになり、また別の部屋には散乱しているゴミの中に万年床の布団が無造作に放置されている。
 
特殊清掃が入った後で、台所のフローリングの床の一部は剥がされており、居住者がそこで亡くなり、体液が染み込んでしまったため、清掃できずに剥がしたものと思われる。発見までに1カ月以上が経過していたため、部屋全体に「孤独死」という現実が重くのしかかっていた。
 
私は不動産業者だ。孤独死を専門にしているわけではないが、ここ数年、こうした案件に頻繁に直面するようになってきた。相続人がいない場合、家庭裁判所が選任した弁護士が相続財産清算人として資産を整理し、不動産を売却する手続きを行う。私はその不動産売却の相談を受けている。以前は、孤独死に関連する案件に関わるのは年に1、2回程度だったが、今年はすでに5件以上の現場に立ち会った。
 
不動産業界においても、孤独死の事例が急増しているのを肌で感じる。
 
孤独死が増える背景には、少子高齢化や単身世帯の増加といった社会的な要因がある。特に高齢者の一人暮らしが増加する中で、周囲との接点を持たず、亡くなってもすぐには発見されないケースが多い。社会全体で「孤立」という問題が深刻化しており、それが孤独死という現象として表れているのだ。
 
孤独死の現場を繰り返し目の当たりにする中で、私自身も精神的な負担を感じるようになった。特に最近は、仕事の合間に気分が沈み、一度、体調を崩してしまった。
 
漠然とした不安感が常に頭をよぎる。何度も現場に足を運ぶうちに、「もしかして、祟りや呪いのようなものが関わっているのではないか」と非科学的な思いすら浮かぶようになった。
 
もちろん、私はそんなものを信じているわけではない。しかし、孤独死の現場は、私だけでなく、関わる全ての人にとって精神的に重い場所だ。不安感を抱えながら仕事を続けると、集中力を欠き、事故やミスが起きやすくなることもある。現場で働く清掃業者や遺品整理業者も同様の不安を感じているはずだ。こうした精神的な負担が積もると、仕事のパフォーマンスに影響が出てしまい、結果的に業務全体の質が低下してしまう。
 
このような不安を軽減するため、私は現場での作業前にお清めやお祓いを行うことにした。もちろん、科学的な根拠はない。しかし、この行為によって精神的な安心感が得られることは確かだ。
 
まだ、実際にお清めはやってはいないが、準備を進めている。きっと、清掃業者や遺品整理業者たちが、落ち着いて作業に取り組めるだろう。精神的なケアが現場で働く人々にとって重要だと考えている。来月には着手できる予定なので、一歩ずつ歩んでいく。
 
さらに、私は孤独死の予防策として、エンディングノートの普及にも取り組むべきだと考えている。孤独死の問題は、現場での対処だけではなく、そもそもその発生を減らす努力が不可欠だ。多くの高齢者が終活に対して抵抗感を持ち、後回しにしている。しかし、エンディングノートはその第一歩として非常に有効だ。エンディングノートを通じて自分の生活や死後の準備を整理することで、本人が周囲に適切なサポートを求めやすくなり、孤立を防ぐことができる。
 
特に重要なのは、エンディングノートを活用して、見守りサービスの存在に気付くことだ。見守りサービスは、定期的な確認を行い、異常があれば迅速に対応するシステムだ。例えば、LINEの既読確認や、家電の使用状況をモニタリングすることで、異常が発生した際に警備会社が確認に来てくれるサービスなどがすでに存在している。こうした技術を積極的に利用することで、孤独死を未然に防ぐことが可能になる。
 
しかし、孤独死を防ぐにはエンディングノートの普及だけでは不十分だ。地域社会全体での見守り体制や、高齢者が孤立しないためのサポートが不可欠である。特に、自治体や地域コミュニティが積極的に関わり、孤独死のリスクが高い人々をサポートする体制を整えることが重要だ。高齢者が自分の死後について考えるきっかけを作り、周囲に相談できる環境を提供することで、孤独死を減らすことができる。
 
これから私は、孤独死に関連する仕事に安心して取り組める環境を作り上げたいと考えている。不動産業者として、物件を単に売却するだけではなく、孤独死の予防や、孤独死物件に関わる全ての人々が安心して仕事に取り組めるシステムを提供したい。エンディングノートの普及や見守りサービスの導入を進めることで、孤独死の現場が減り、関わる全ての人々が少しでも安心できる環境を整えたいと思っている。
孤独死の現場は、社会全体が抱える大きな課題の一部だ。私たち一人一人が、この問題に向き合い、解決策を考え、実行していくことが求められている。孤独死を減らし、誰もが安心して生き、そして最期を迎えられる社会を目指して、これからも取り組んでいきたい。

 
 
 
 
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