メディアグランプリ

お弁当アイドル


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:コオリヤマ(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「すいません!」
 
お弁当屋さんを出たあと、店員に呼び止められた。
え? なにかやってしまった?
 
私はここの唐揚げ弁当が大好きだ。たった50円でごはん大盛りになるところもポイントが高い。
 
旬ごとにメニューも変わる。春には海鮮丼。夏にはうなぎ。秋には牡蠣。冬にはカニクリームコロッケ。日本の四季がお弁当で味わえるのである。
先日の11月4日は推しの日であったが、私はこのお弁当屋さんを迷わず、推したい。
そう、このお弁当屋さんは私のアイドルなのだ。
 
そんな推しのお弁当屋さんで、なにかやらかしてしまったのか。
 
私には夢があった。
以前住んでいたマンションは、オフィス街の一角にあり、周囲にお店のない立地だった。
 
外食に行く事はまれ。スーパーで食材を買い込んでは自分でご飯を作るのが習慣。
だが、仕事で帰ってくると、くたくたの日もある。こういう時は弁当屋さんが近くにあったらな、と強く思うことがあった。
 
そう、私の夢は「お弁当屋さんが、近くにあるところに住みたい」なのだ。
 
自分が作るご飯は、レパートリーが少なく、ハンバーグ→ステーキ→カレー→麻婆豆腐→ラーメンなど、キッズメニューよろしく、ぐるぐると同じもの作っては食べていた。
別にそれが嫌と言うわけではないのだが、だめな気がしてくる。だめな大人になってしまったなぁ私は、と思ってしまう。
 
そして、自炊は実質食べ放題なのである。
ここ1年で10キロほど太ってしまったのは、外食やお弁当屋さんでの、制限のあるご飯を買い求めることができなかったからに違いない。
体重計を見てそう思う。気のせいかもしれないが、膝も痛くなってきた気がするし。だめやん。
 
由々しき問題である。去年も服も入らなくなってきた。服の買い換えで散財してしまうじゃないか。
 
そんな悩みを抱えていた私は、今年の夏に引っ越した。
 
たまたまではあるが、新居の近くには商店街があり結構賑わっている。
ククク……お弁当屋さん、ありそう!
 
オフィス街の一角にくらべると、天国のような立地! これでも疲れ果てて、くたくたになっても、おいしいご飯が食べられそうだ。ニッコリ。
そう、私は、人生を盛り上げてくれるお弁当アイドルに会いにいくのだ。
 
夢はいつか叶う。
その夢を現実とするべく家の周辺を散策し、見つけてしまった。
なんと、福岡に本社を持つ、チェーンの最強お弁当屋さんを!
 
引っ越してからというもの、このお弁当屋さんには日ごろお世話になっていた。推し活といっても過言じゃない。
 
しかし、ある日、それはおこった、
 
「すいません!」と、呼び止められてしまったのだ。
 
事件当日の状況はこうだ。
仕事の帰り、やはりくたくたの私は、まっすぐそのお弁当屋さんに入った。
 
「4個入り唐揚げ弁当ご飯大盛りを1つ下さい」
 
流れるような注文。完璧だ。唐揚げ弁当には4個入りと6個入りがある。私の好みとしてはおかずに対してご飯が多めの方が好き。LOVE。
なので、いつも揚げの最小単位弁当をご飯大盛りで頼む。
 
「4(よん)カラ一丁!」
 
高校生だろうか、元気な声がマイク越しにこだました。
唐揚げ弁当を待っている間の私は幸せ者だ。
唐揚げをほおばってご飯もほおばる。料理と言う手間をかけず、私の胃袋に入るのだ。想像するだけで最高である。QOL爆上がり。
家ではインスタント味噌汁も待っている。さらに完璧な夜ご飯の出来上がりだ。
ククク……。お腹減ってきた。
 
「お待たせしました!」
 
高校生が出来上がりを告げる。
 
ありがとうございます、と私は感謝し、唐揚げ弁当大盛りをGET 。
さっそうと身をひるがえし、お店を後にする。
ニコニコである。
 
しかし、
 
「すいません!」
 
少し歩いたところで、呼び止められた。
 
さっきの高校生店員だ。
何かやらかしてしまったのかと一瞬思った。
 
手間なし最強夜ご飯が確定して、順風満帆だったのに。
 
たった50円でのごはん大盛り。
旬ごとに変わるメニュー。
走馬燈のように駆け巡る。
 
高校生は私の目を真正面に見ながらこういった。
 
「大盛りにしていたかどうか確認させてください」
 
誠実。なんと誠実なセリフなのであろう。
 
仕事帰りのくたくたで、思考能力も鈍っている。
私に大盛りか大盛りじゃないかきっと区別がつかない。
そんな1人のお客さんのために走ってきてくれたのだ。
 
結果、ちゃんと大盛りだった。
お店は真摯な仕事をしていた。
 
この件で、もともと好きだったお弁当屋さんを、さらに好きになってしまった。
アイドルのおちゃめなミスがファンとの距離を近くさせる。
 
「大盛りにしていたかどうか確認させてください」
 
こんな一生記憶に残る誠実な確認作業は初めてだった。
 
自分の推しを近くに感じるだけで、生活は華やかになる。
それが、本当のアイドルか、お弁当アイドルかは、あなた次第だ。
 
お腹減ってきたな。
あのお弁当屋さんって、何時までだっけ?

 
 
 
 
***

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2024-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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