突然生まれたビジョンの威力
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:白峰優梨子(ライティング・ゼミ11月コース)
それは1本の電話から始まった。
「来年の英語劇、演出してくれない?」
それはある団体の総監督からの依頼だった。
その団体(東京学生英語劇連盟、総称MP)は、毎年春休みに関東の大学生の希望者が集まって5月の連休に英語劇の上演をする。制作もスタッフもキャストも全て学生の手で行いプロがサポートをするのが慣習だった。
私も大学生の時、キャスト、制作、演出助手をやり3年間お世話になった。そしてそれがきっかけで演劇の世界に本格的に足を踏み入れたのだった。大変お世話になった団体だったから、何か力になりたいと思ったがしかし……。
「演出は大丈夫だと思うけど、リハーサル全部英語なんですよね? 私、英語、もう10年以上喋って無いけど、できるかな〜……」
弱気でいる私に「大丈夫、大丈夫、出来るよ〜」と軽いノリの総監督。
正直、演出をもっとやりたいな〜と思っていた時期でもあり、個人的な興味があったからやろうかなという方に心は傾いていた。
「わかりました。やります。で、オーディションはいつですか?」
「4日後なのよ〜」
「え?!」
なんでも演出に決まっていたアメリカ人の女性と制作のメンバーの意見が合わず、決別してしまったとのこと。そして作品はウィリアム・サローヤンの『君が人生の時』だと言う。私がその作品で演出するもよし、他に何かあればそれでお願いしたいとのことだった。
私がすぐに演出できるのは以前日本語で演出した『THE WIZ』というミュージカルで、幸いなことにカラオケも作ってあった。
制作の子達とのミーティングで、その事を告げると「ミュージカルなんて出来るんですか? オーディションの参加者は皆んな『君が人生の時』だと思って来ますけど……」と難色を示した。
「まぁとりあえず、その場でちょっと踊ってもらって、ちょっと歌ってもらうのはどうかしら?」と、もうすっかりミュージカルをやる気になっていた私だった。まだ何も始まってないのに、本番の志木市民会館のステージでキラキラ輝いている学生たちの姿が浮かんでしまっていた。
そして、オーディション当日になった。
参加者たちは何故踊るのか歌うのかも分からず、やらされる。
そうしたらなんと、びっくりする事が起きたのだ。
「わ! この子はブリキ役にピッタリ、この子はライオン役!」
次から次へとメインにピッタリの学生が来たのだ! なんじゃこりゃ??? と思っていたら、最後の参加者が部屋に入ってきた途端、びっくり仰天。
なんと日本語でこのミュージカルを演出した時に主役をやった女の子だったのだ! 向こうも私を見るなり目を丸くして「え! なんでそこに居るの?」と訳が分からない様子だった。
こうして無事にリハーサルが始まった。
とはいえ、昔取った杵柄の英語、中学英語を駆使してリハーサルをやる私。そう、この団体は日本語ご法度。英語を使って英語劇を作り上げて、英語を使えるようになる事も一つの目的なのだ。ましてや演出の私が日本語を喋ってしまったらまずい。あ〜、もっと英語続けてやっておくんだったと後悔先に立たず。
そして、始まってから知った事だが、前回の公演でお金を使いすぎて予算が無いから私以外、プロの力は借りられないとのこと。
「ひぇ〜、そうなんだ〜。でももう走り始めちゃったからやるしか無いもんね。まぁ、なんとかなるでしょ」私の中で最初に見えたキラキラした学生たちの姿がまた浮かんできた。
そうやってリハが進み、合宿になった。それまで制作、スタッフは別々に公演に向けて準備をしていたが、初めてキャストが通してやるのを観ることになった。
終わった途端、見てた皆んなが感動して拍手してるのが分かった。そしてプロデューサーの学生が私のところに走ってきて言った。
「これ、素晴らしいです! 沢山宣伝して色んな人たちに観てもらいたいです!」
「ミュージカルなんか出来るんですかぁ?」って渋ってた彼の考えがひっくり返った瞬間だった。
そして志木市民会館に入ってセットや照明の準備が始まった。788名の中型ホールだ。ここでプロのサポートが無いことで、スムーズに準備ができない事を思い知らされた。
学生たち、頑張って準備してきたけど、特に照明は当日実際に明かりを出してみないと分からないという状態。それぞれ英語で頑張ってきたメンバーも本番まで時間が無いし英語でなんかやってらんない! と日本語で喋り始めた。演出助手のメンバーまでもが日本語を話し始めたが、私は演出、皆んなが日本語になっても私が英語で話すのだ、と固く決心し直した。
第1回目の公演、「もうお客さんがロビーに入って開演を待ってます!!!」
そんな事言われたって、まだ明かりが決まらない。焦るな、全部決まるまでやるしかないんだから。
ようやくなんとか開演ギリギリに全部の照明が決まって、お待たせしていたお客さんがホールに入った。
そして公演は、大成功! その後の公演にまた観に来てくれる人たちもいた。
最終公演、満席のお客様。第1部が終わっての休憩時間にプロデューサーが、実は入れないお客さんたちが大勢居て、彼らはロビーの大型テレビで第1部を観てましたとの報告。
「え〜、せっかく来てくれたのに! そんな失礼なこと、ダメです!」と急遽、客席の後ろや通路に入ってもらうことにした。
それと同時に2部の演出で通路を使うのをやめる変更の指示をキャストにして、なんとか2部を開始して無事終了。
嬉しいことにキャストは最初から最後の公演までキラキラと輝いて、最初に描いたビジョン通りだった。
全公演終了後の拍手喝采。舞台に呼ばれた私は、通路にもいっぱいのお客様にこの舞台を観ていただけて、喜んでいただけた事でとにかく嬉しくて笑顔しか出なかった。
「これまでだったらこんなに大変なことだらけだったら、公演が上手くいって嬉しくても涙も出てしまってたのに。あれ? なんで? 笑顔しか出ない」と不思議な感覚だった。
後から振り返って気付いたことがある。最初に見えた舞台上でキラキラしてる学生たちの姿のビジョンに疑いや迷いが一切なかった。途中何か問題があっても何故か根拠の無い自信のようなものがあった。だから乗り越えなければならない問題が色々起きても、ただ出来ることをやっていっただけ。そしたら最後に思った通り、いやそれ以上になったのだった。それで嬉しさしか出てこなかったんだと思う。
疑いや迷いの無いビジョンの威力、恐るべし!
***
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