曾我蕭白と伊藤若冲にハマってしまった
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記事:田辺 哲(ライティング・ゼミ9月コース)
「うおおーっ!! 何なんだこれは!?」
目の前に広がる巨大な竜の姿に、私はただただ圧倒されていた。
より正確には大きな襖いっぱいに描かれた巨大な墨絵の雲龍図に、である。
闇夜のような漆黒の背景に巨大な竜。
威厳を放つ姿の中にも、どこか抜けたような親しみも感じる表情。
しかし巨大な竜の脚と、鋭い牙とかぎ爪、そして全身に隙間無く張り付いた無数の鱗とが。さらに、その竜が起こす風によって荒波のように激しく雲が、この竜の強大さを表している。
こんな凄い竜の絵を見たのは。そして一枚の絵にこんなにも驚き、圧倒されたのも初めてであった。
10年ほど前、大阪市立博物館で開催された『ボストン美術館』展での展示作品、曽我蕭白(そが・しょうはく)という江戸時代の絵師がある寺院の襖に描いたという『雲龍図』を間近で目にした時のことであった。
この時から私は、それまでに名前すら知らなかった曽我蕭白という絵師のファンとなってしまった。
以後、曽我蕭白の作品が展示されていると聞けば、遠く兵庫や東京までにも飛んでいくようになってしまった。
さらにその中で、伊藤若冲という、わが京都が誇る江戸時代の天才絵師の作品と存在も知り、若冲ファンにもなってしまった。
蕭白と若冲。
ほぼ同時代らしい二人の天才絵師だが、幾つか共通点らしきものも見られると思う。
どちらも、鳥の羽や動物の毛ひとつひとつに至るまでの緻密で写実的な描写もする一方で。
まるで現在の漫画絵のようなデフォルメ画も描いたりする。中には、いわゆるゆるキャラのようなかわいらしい子犬の絵もある。
蕭白の作品には、非常に個性というかあくが強いものも多い。見る人によっては、「ケバい」という印象を受けそうな原色の強い色使い。ごく普通の娘や母親を艶っぽく描くとか。聖人とされている人物を内面の欲望がにじみ出ただらしない人物のように描くとか。
まるで見る者や世間を挑発しているかのように受け取られる表現もしばしば観られる。その為、人によっては好き嫌いが分かれるかもしれない。
また二人とも、作品だけでなく、その人物や生き方も非常に個性的であった。
若冲は元々、錦市場商家の跡取りだったにも関わらず、家督を弟に譲って自らは結婚もせず生涯絵を描き続けたという、当時としては変わり者であったという。
蕭白には、議論中に激高して相手に刀で斬りかかるとか、名を呼び捨てにした大寺院の僧からの仕事を皮肉込めた返事で断わるとか、ある種の反骨精神を感じさせるようなエピソードが幾つもあるという。
だが、作品だけでなく、その人物や生き方すらも個性的なところも含めて、私はこの二人の熱心なファンとなっている。
それにしても比較的近年のことだろうか。
曽我蕭白だけでなく、伊藤若冲、円山応挙などといった江戸時代に活躍した天才絵師たちが発掘され、その価値が日本国内で見直されはじめたのは。
明治時代、近代化と称して、西欧の文化・文明が至上のものとされ、それまでの日本の文化や伝統が劣るもののように考えられ、扱われるようになってしまった。後者の価値を見いだしたのが、日本人よりも、フェノロサなど外国の知識人だったという。
その為、江戸時代以前の貴重な芸術作品や文化遺産などが、二束三文で数多く海外へと流出してしまったことは痛恨の極みだが。
それでも。
わが国が誇る芸術文化の良さと、それを生み出した天才とが再評価され、注目を浴びることは、うれしく、誇らしくもある。
また、こんなにも個性の強い天才を生み出し、育んだことは。
江戸時代以前の先人たちは、というより日本人とは元々、もっと寛容でおおらかな民族だったのかもしれない。
そのように思えてくるのも、またうれしく、わくわくすることである。
なお最後に。
わが京都で、若冲や蕭白の作品に身近に触れることのできる場所を幾つか紹介する。
そのひとつは、若冲にゆかりの深い古刹、臨済宗相国寺の美術館である。代表的作品をはじめ、若冲が奉納した作品も幾つもあり、それらが展示されていることもある。
ふたつ目は、京都・岡崎の細見美術館である。その収蔵品の中には結構多くの若冲作品があり、展示されていることも多い。また、美術館の売店には若冲にちなんだグッズもある。
そして私のおすすめは、嵐山にある福田美術館と嵐山文華館である。この2館も、蕭白や若冲の作品が展示されていることも多いが、何と(ごく一部を除いて)展示作品を撮影することが認められているのだ。
普通、こうした美術館は展示作品の撮影を原則禁止しているのがほとんどなのだが。
そんな中で貴重な作品の撮影を原則許可してくれるなど、愛好家からすれば、本当に夢のような話である。
是非とも機会があれば。
お気が向いたのならば。
この文章を読んだ方も、是非ともわが国の天才たちが生み出した作品と、その世界や生き方などにも触れてみてほしい。
***
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