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元窃盗犯が、最強の警備員に変わる理由


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記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「24時間、鍵を開けているんですよね? 泥棒に入られませんか?」
私も疑問に思ったその質問に対して、講演会の演者である宮田さんの回答は、ぶっ飛んでいた。
 
 
「泥棒に入られませんか、って言うよりも。なんなら、ドロボウが住んでいますからねえ」
 
 
言葉にするととんでもないが、飄々とした宮田さんの口調に笑ってしまった。
それにしても、不登校の子を持つ母として参加した講演会で、まさか元泥棒の話を聞くことになるとは、思ってもみなかった。
 
 
だが、そもそもチラシで紹介されていた活動紹介が、すでにぶっ飛んでいたのだ。
 
 
富山県高岡市に、「ひとのま」という家がある。
なんと説明したらいいのか難しいが、言葉として言い表すなら、やはり「家」としか言いようがない。
ただ、その家がどんな家なのかが変わっている。
 
「ひとのま」は、24時間365日、鍵が空いているのだ。
そして、いつ誰が来ても良いそうだ。
私が過去に聞いた中で、サイコーにオープンな、「居場所」である。
 
始まりは、不登校の子供に向けた、塾だったらしい。それが、「昼間に行くところがない」という理由で、昼間にも開けておくことにした。昼間は塾ではなく、学校に行けない子供達の居場所として。
そうしたらある日、10年ほど引きこもりをしていた30代の男性が、やってきた。
次第に、引きこもりの大人もやってくるようになったため、塾の広さでは手狭になり、一軒家を借りることにした。
 
「人の噂ってのは、必ず捻じ曲がって伝わります」とは、宮田さんの言葉。
さらにある日、生活に困窮している人がやってきたそうだ。生活保護を申請したが、それが通るまで寝泊まりできるところがないと言う。
ここは、雨風を凌げる場所を、提供してくれるんでしょう? と言って。
そして今度は、鍵をかけるのをやめた。「ひとのま」は365日24時間開放している「居場所」となり、不登校の子や引きこもりの人だけではなく、ホームレスや刑務所から出た人、DV被害者などのまさに多様な人たちがくる場所となった。
 
でも、24時間鍵をかけないなんて、泥棒は入らないんだろうか?
貴重品を置いていないのかもしれないけれど、それでも危なくないのだろうか?
 
 
その疑問への答えが、「そもそもドロボウがいますからねえ」だった。
さらに続けた言葉に、またも絶句した。
 
 
「彼らにも、時々聞かれるんですよ。よく俺みたいなドロボウを泊められるねって。でも、彼らにも彼らなりの事情がある。
家がなくて、食べ物がないから盗むんでしょ? でも今は、とりあえず泊まるところがある。食べるものもここにある。
だったら、盗む理由がないよね?
そう言った瞬間に、元窃盗犯が、勝手に最強の警備員に変わるんです」
 
そうだよねえ。なにしろ、元泥棒だもの。手口は知っているよねえ。
きっと、どう反応されたら嫌なのかも分かっているだろうし。
 
 
もちろん、犯罪はよくない。その向こうには、被害を受けた方がいるし、私だって犯罪に巻き込まれたくはない。
でも、人間誰しも、清く正しいだけでは生きてはいないのではないだろうか。
ちょっと急いでいるからという理由で、車が来ていない赤信号を走って渡ったことならあるもの。
家も家族も仕事もお金もなく、今日食べるものさえ困窮していたら。魔が刺さないと言い切れるだろうか。
 
 
 
頭では分かっていたけれど、心のどこかで、犯罪を犯した人と自分との間には、一線を引いていた。
でも宮田さんは、心の底から、「自分もいつ、なにかのきっかけで、あっち側に行くか分からない」と思っているんだろうなと感じた。
そして何よりも、相手を同じ人間として、尊重しているんだろうと。
 
 
 
「客観的に見れば、カオスな風景ですよ。刑務所から出てきたおじさんと、不登校の小学生が一緒にご飯を食べているわけ。そのうち子供達が、妙なことに詳しくなっちゃって。
出所してきた人に、どこの刑務所から来たんですか、ああ、あそこですか。あそこは、食事があまり美味しくないそうですね。こないだまでいた人が入ってたところは、結構ご飯が美味しかったそうですよ、なんて言うんだよね」
 
 
いやいやいや、何度ぶったまげたらいいんだろう。
これこそまさに、生きた社会勉強……なのか?
そんなことを思いながらも、気がついたら涙が出るくらい爆笑していた。
爆笑しながら、泣いていた。
 
 
ああ、人から信じてもらえることって、ものすごくパワーになるんだなあ。
 
 
不登校になった子供たちへの対応として、「子供を信じて、ありのまま受け止めること」が大事だと言われる。
ただ、本当に信じるだけでいいのかと、悩み続ける親もたくさんいる。
 
彼らに伝えたい。人を信じるって、本当にものすごいパワーになるんだよ。
だって、元ドロボウのおじさんが、最強の自宅警備員になるくらいなんだもん。
何度も窃盗を繰り返して、刑務所に出たり入ったりを繰り返していた人が、たった1人から信じられた経験をするだけで、刑務所に戻らなくなったんだよ。
 
元窃盗犯が、最強の自宅警備員に変わる可能性なんて、想像できないんじゃないかな。
だったら、今学校に行っていない子供達の未来って、もっともっと沢山の可能性があるんじゃないかな。
それが、ただ信じることで手に入るんだよ。
 
信じるということは、それくらい大きなエネルギーなんだ。
だから、信じてみよう。私たちの子供のことを。
この世界に自分のことを、心から信じてくれる人がいる。
そう思うだけで、きっと自分の道を歩いて行くんだと、信じて。
 
 
 
 
***

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2024-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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