家族の看病から逃げたくなった私の、優しさを取り戻す1時間
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記事:izmy(ライティング・ゼミ9月コース)
「探さないでください」と書置きして、家から飛び出す。自由になりたい私の逃避行。
大切な家族が病気と闘っているのにもかかわらず、自分本位な妄想をしているくらいに気持ちに限界が来ているのを感じる。
今回、家族が発症したのは、一般的なウイルス性の感染症だ。2週間経過すれば、治癒する見込みがあり、ゴールが見える看病。それでも、発症してからの3日間が重く長い時間だった。何も食べたくない、飲みたくない、暑い・寒い、首が痛い、眠れない、頭が痛い……と辛そうに訴え続けられた。処方された薬で解熱はしたものの、他の症状は残ったままのようだった。
職場はテレワークが可能だった。上司の理解もあり在宅での仕事に切り替えた。仕事をしながらの看病は正直、どちらにも身が入らない。毎晩のように入っていたプライベートの予定も、もちろんキャンセル。
ベッドで苦しそうにする家族を目の前に、どうすることもできないもどかしさや、予定調整を余儀なくされるストレスなどで、気持ちのゆとりが無くなり、私の中から優しさが消えてしまった。氷枕を変えたり、洗濯したり、マッサージをしてあげるけれど、行動だけで精一杯。優しい言葉の代わりに「私もごはんもまだ食べてないし、予定も全部キャンセルしたし、いろんなことを犠牲にしてるんだからね!」と言ってしまった。
一通り家事を終えて、お風呂に浸かりながら1日を振り返った。
どうして、優しくなれない?
それは、完全に私の家族への甘えだ。
ずっと家族に寄り添って在宅介護で見守ったりサポートをしながら、この地球に暮らす人々に、敬意を持つとともに、同じようにやるせない思いをどこにも持って行けず、叫びたくなったりしないだろうか? と思いを寄せる。
でも、結局は、どこにも逃げることはできない……と思うと苦しくなった。
「わーーーー!!!!!」と何度も叫ぶ声をかき消すように、浴槽の中で足を思いっきりばたつかせた。
次の日、朝起きて、家族の部屋に行くと、顔を背けられた。
「体調、どう? 何か飲む?」と聞くと「何もいらない。全部自分でやる」と強めに拒否された。何かある。
ベッドの横に腰かけて「まだ動けなさそうだから、やれることやるよ」と言うと
「昨日全然眠れなかった。あんたにいろんなことを犠牲にしてもらって、看病してくれてるけど、イライラしているのも伝わるし、もうそんなの嫌だから、もう何もしなくていい! どこにでも出かけてくればいい。私だって好きで病気になったわけじゃない!」と泣いている。
私の優しさの無い対応が、ブーメランのように自分に返ってきた。身から出た錆だ。と冷めた頭で認識した。
「出かけてくればいい」はきっと本心ではないと分かっていたけれど、看病と家事を一通りして、私は3日ぶりに外に出た。
駅までのいつも景色が、とても新鮮だった。
この日は1か月以上前から友人と会う約束をしていた。朝から夕方まで遠方で遊ぶ予定だったが、友人に事情を話したところ、私の地元まで会いに来てくれた。
洋菓子店でクリスマスケーキを買い、持ち込みOKのカラオケボックスに行って、おしゃべりしながらプチクリスマス会をした。
家を空けて平気? 早く帰ったほうがいいんじゃない? と、一言も言われなかった。
他愛のない話をして、一緒に笑い合う。ただそれだけの、ほんの一時間。
私の中に明るさと優しさが戻ったような気がした。
家に帰ると、家族はベッドから抜け出して、リビングでテレビを見ていた。
私はリビングに隣接したキッチンで1週間分の作り置き用の料理を始めた。
「いい匂いがする」とほっとした表情で話しかけてくれた。
誰かが普段通り隣にいる、というだけで安心なんだよね。私も不眠で悩まされた時に、家族がテレビを見ている横でうとうと眠りに誘われたことがあったな、と思い出した。
夕方になると「お風呂に入ってみようかな」と家族が言う。
先に私が洗いを済ませ、身体を少し温めてから、洗髪を手伝った。
この日は冬至。ゆず湯の香りで少し癒され、ほぼ1週間ぶりに体を洗ってさっぱりした顔をしている。
昨夜、浴槽で叫んでいたことが遠い昔のように、和やかな空気が流れていた。
徒歩15分圏内の、1時間の逃避行。ここで、私は優しさを取り戻した。
もちろん容体や状況によるけれど、遊ぶ予定を「完全に辞める」のではなく、短時間で、万一何かあってもすぐに帰れる距離で、少しでも息抜きになればと気遣って会いに来てくれた友人の柔軟さにとても救われた。
1時間でも、30分でも、自分のための自由な時間があれば、自己犠牲の思考が限りなく薄まる。その後は、気持ちを切り替えて再びがんばれたし、「遊びに行ってしまった」と少し罪悪感もあって、更に優しくなれた気がする。
出口が見えないような苦しいときこそ、0か100でもなく、「べき論」でもなく、自分に甘めの予定や時間をほんの少しでも持てると、抜け出す光を見つけられるかもしれない。誰かに会っても、お気に入りのお店に行っても、推しの作品を見ても、運動しても、いい。すぐに帰れる距離での、ひとときの逃避行だもの。私も、誰かのためにがんばり続けている人に出会ったら、「自分を取り戻す」ための1時間づくりに協力をしたい。
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