「風」に非ず、「旗」に非ず それは心だ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森下 昌英(ライティング・ゼミ年末集中コース)
「非風非幡」という言葉がある。禅の公案だ。
中国のあるお城。城壁の上では、風に吹かれて旗がたなびいている。
それを見た二人の禅僧が、「これは、風が動いているのか? それとも旗が動いているのか?」と問答したそうな。
その二人の師匠である六祖慧能というお坊さんが一部始終を見ていて、やがて「それは『風』や『旗』が動いているのではない。あなたたちの心が動いているのだ」と言ったという。
分かったような、分からないような、という話だが、要は自分の外で発生した現象は、すべて自分の五感で受けとって心が判断や解釈を下す。外で何があったか、よりも自分がそれをどのように受け取ったかが大切。ということだそうだ。
この「非風非幡」という言葉を、私は投資に関する本を読むことで知った。本間宗久という江戸時代の大相場師のエピソードだ。
本間宗久という人は、今でいう秋田県酒田市の人だ。
故郷酒田の米相場で儲けられるだけ儲けた後、大坂堂島市場に打って出て大成功。その勢いを駆って江戸の米相場に進出した。
しかしながら、米の供給地であった酒田や大坂の相場と、米の消費地であった江戸の米相場は癖に大きな違いがあり、波に乗れなかった。乗れないまますべての財産を使い果たし、悄然として故郷酒田へ戻った。
その時に出会った言葉が「非風非幡」だったそうだ。
その言葉を前に考えあぐねること七日七晩。翻然として悟り、大坂の堂島米市場に取って返す。そして、そこで再び大活躍した。
「風」と「旗」が動くのではなく、「人の心」が動いているのだという禅の教え。これを、本間宗久は天候による米の作柄(風)、相場の波(旗)を見るだけでなく、相場に参加する多くの人の心を読むことが大切だと解釈した。そして、その解釈を大成功に結び付けた。本間宗久は、この解釈を「三位の法」と名付け、本間家に代々伝えた。
そういえば、現代の世界的大投資家であるジョージ・ソロスは「相場は常に間違っている」といった。神の見えざる手(合理的思考)が市場を支配していると考えたのはアダム・スミスだが、合理的なはずの市場を間違った方向にもっていくのは大衆心理だ。人の心が人を惑わすところ、今も昔も変わらないようだ。
個人においても、相場で間違うのは人の心の働きが大きい。欲張ってしまって大きすぎるお金を投資した。損が出ているのにそのままにしてしまった。損を取り戻そうとして無理に無理を重ねてしまった、など。とかく、人の心は手に負えない。
さて。私は今回ライティング・ゼミに参加した。それは、私の文章を何とかしたかったからである。
私は、社会人になってから文章を作成する機会は、人と比べて多いほうだったのではないかと思う。文章を作るのが苦手という訳ではないと思う。しかし、内容が良くないと思っている。
社会人として作ってきた文章の半分くらいは就業規則だ。年がら年中改正案を作っていた。そのほか、株主総会や取締役会の議事録、行政に提出する文書、各種契約書、弁護士と打ち合わせるための資料。そんな文章を、法律を参照しながら作っていく。
これらの文章は、読ませるための文章ではなく、言質を取られないための文章だ。専門的な約束事項が多く、至極読みにくい。というより、日本の文字を使った外国語だと認識したほうがしっくりくる。
「聞いてない!」と言われたときに「書いてあるよね?」と言えれば勝ちなのだ。
「読めなかった、または読まなかったやつが全面的に悪い」ということ。どれだけ悪文を作っても、その文章の解釈が二つに割れなければ正義なのだ。
私がお寺の跡を継ぐということになったとき、「今のままの文章を書いていたら誰も読んでくれない。読まれなければ悪の世界に戻ってきてしまった」という焦りが頭の中を占拠した。
「正確に書く」という「風」。
「読まれてこその文章」という「旗」。
ライティング・ゼミで文章を作ってみたが、頭の中に「風」が多かった日、「旗」が多かった日、出来合いに大きな差があったと思う。
「どう書こう」という思いに振り回されてしまったような気がしている。心の中に思い浮かんだことを過不足なく伝えられるようになることができていない。
そして、それ以上に私が苦手としていることはエモーショナルな文章を書くことだ。法律系の文章に感情は一切必要ない。というより、完全排除すべき存在であった。心の動きを文字で描き出すということができない。
とはいえ、エモーショナルな文章を作ることを避ける、という選択あるとも思っている。
先に登場した本間宗久は、「非風非幡」で復活した後、失敗した江戸の相場を避けて大坂で大活躍した。
江戸は故郷酒田と相場の動きの癖が異なり、また徳川幕府のお膝元だけあって政治権力による米相場への介入(政治リスク)も生じやすいなど、悟りを開いた後であっても、宗久にとってやりにくい場所であることは変わらなかったようだ。だから江戸は避けた。苦手を克服するよりも得意分野で大きな花を咲かせようという発想だ。
ライティングの技術向上とは、「風」と「旗」が作り出す波動を乗り切る自分の才覚と、才覚を過不足なく生かす「心」を自分の中に育てることではないかと思った。
引き続き、積極的にライティングに取り組んでいきたい。
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