メディアグランプリ

目立ちたくなかった僕が、何故かベストスタッフ賞を受賞した


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内山遼太(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「この選択が正しいのだろうか」
冷たい風が吹く年の初め、内山は長年勤めた病院を離れ、新たな職場へと歩み出した。選んだのはデイサービスの現場。医療の経験はあるものの、介護の仕事は初めてだった。「新しい環境では控えめに、周りに迷惑をかけず仕事を覚えよう」そんな思いを胸に挑んだ新天地だったが、そこには予想を超える戸惑いが待ち受けていた。
 
デイサービスでは、利用者とのコミュニケーション、介護業務、日々の記録や事務作業、スタッフ間の連携が求められる。病院勤務とは異なる文化や習慣、価値観に内山は最初のうち何度も壁を感じた。利用者の些細な変化を見逃さず対応する難しさ。チーム全体で連携し、利用者の安全を守る責任。その重みが内山の肩にのしかかった。特に戸惑ったのは「相手の気持ちを察する」ことだった。病院では、検査や治療の結果に基づいて次の行動を決めることが多かったが、ここでは、利用者一人ひとりの気持ちや状況を読み取り、対応する力が求められた。「この沈黙は何を意味するのだろう」「あの表情の裏にはどんな不安があるのだろう」と考え続ける日々だった。
 
そんな中、内山は毎日の業務を記録しながら課題を整理していった。何かを変えようという強い意志があったわけではない。ただ、自分自身が効率よく動けるようにするためだった。それでも内山は、自分が使いやすいと感じたアイデアや工夫を自然と周囲に共有していた。小さな手書きのメモを同僚に見せたり、「こうすると早く終わりますよ」と軽く口にしたり。それだけで少しずつ現場が動き始めた。
 
記録作業に追われる同僚の姿を見て、「もっと効率的にできる方法があるはずだ」と考えたのはそんな時だった。勤務時間外に、紙ベースの記録を見直し、わかりやすいフォーマットを作成。記録の電子化を提案し、手順を説明する資料を準備した。最初は「わかりづらい」「変化に慣れない」と言われることもあったが、内山はその都度、改善案を考え直した。気づけば、他のスタッフも少しずつ新しいシステムに慣れ、記録作業の時間が確実に短縮されていった。「これで利用者と向き合う時間が増えた」と同僚から言われたとき、内山は初めて自分の提案が現場に影響を与えていることを実感した。
 
さらに内山は、会社内のFacebookグループを活用して情報共有を行った。「この記録方法なら10分短縮できます」「利用者の安全を守るためにこんな工夫をしました」といった投稿は、他店舗のスタッフや本社の目に留まり、「すごい新人がいる」と評判が広がった。その投稿内容は、ただ情報を伝えるだけではなかった。実際に現場で使える具体的なアイデアや、失敗から得た教訓を分かりやすく共有することを心がけていた。「内山さんの投稿を見て試したら、うまくいきました」というコメントが寄せられるたびに、内山の中に少しずつ自信が芽生え始めた。
 
そうした地道な努力が認められる形となったのが、年末に行われた全社員投票による「ベストスタッフ賞」だった。内山は全社1位を獲得し、堂々と表彰されることになった。知らせを受けた瞬間、内山は「目立ちたくなかったのに!」と頭を抱えたという。表彰式では壇上に立つと手が震え、眩しいライトの中で響く拍手の音が遠く感じられた。周りの視線が自分に集中することに耐えられない思いがあったが、それでも「いつも助けてくれてありがとう」「おかげで現場が変わりました」という同僚や利用者からの言葉が胸に響いた。盾を手渡されたときの冷たい感触に、ようやくその現実を受け入れることができた。
 
2025年、内山は新たな目標を掲げている。「今年は目立たず、オフラインでの情報共有を大切にしよう」。Facebookでの発信は控えめにする一方で、利用者やスタッフと直接向き合う時間を増やし、現場全体を改善することに力を注いでいる。具体的には、スタッフ同士が自由にアイデアを出し合えるミーティングを定期的に開催することを提案。これまで一方的だった情報共有を、双方向のコミュニケーションに変えていくことを目指している。「自分一人で抱えるのではなく、みんなで良い方向に進む仕組みを作りたい」その思いが内山の行動を支えている。
 
「目立ちたくない」という考えは今も変わらない。けれど、昨年の経験を通じて内山はこう思うようになった。「認められるのも悪くない」その率直な感情は、次の挑戦への意欲を生んでいた。「今年は利用者の声をさらに拾い上げ、スタッフ全員が安心して働ける仕組みを作りたい」そう決意を新たに、今日も内山は現場で地道に働き続けている。静かに、しかし着実に。内山の努力は、今日も未来のデイサービスの形を変えつつある。
 
 
 
 
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2025-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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