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「あだ桜」と知って大切に過ごそうと思った年始のできごと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松本尚美 (ライティングゼミ9月コース)
 
 
「明日ありと思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは 
村木アイちゃんからよく聞かされたわ。小さい頃によく聞かされたからしっかり覚えている!」
 
村木アイちゃんと言うのは私の祖母だ。話し手はアイちゃんの娘で私の叔母にあたるみどりさん。
 
アイちゃんは勉強好きで文学少女だったそうだ。89歳で亡くなるまで俳句の同人会に通い、俳句を作っていた。
農作業するときに必ずポケットにメモを入れて、言葉を思いつくとメモに書きためた。
偉人の名言を覚えていて、機会があるたびに子どもたちに話して聞かせたそうだ。
 
「明日ありと思う心のあだ桜」の俳句は、親鸞聖人作らしい。
「今日の日が必ず明日にまで保証されるものではないという意味」とみどりさんが教えてくれた。
今日の桜があまりにも美しいので、また明日見ようと思っていても、一晩のうちに嵐が吹いて、同じ桜を見ることができなくなるのが世の常。
 
私は年末から、天狼院AIファミリーレコーディング講座に参加している。
家族の動画を集めて文字起こしをし、書籍の形に整えて最後、データをAIに搭載するという大企画だ。
4ヶ月に渡る講座だが、正月以外はなかなか実家に帰る機会も持ちにくいだろうと、第一回目の講座が、年末12月28日に開かれた。そこで資料集めのポイントを教えてもらい、いざ正月! 私も実家に戻り、母にインタビューしながら動画を撮った。
途中から年始挨拶に来た叔母のみどりさんが飛び入り参加。昔話しに花が咲き、賑やかな撮影会になった。
17歳の時に山口県から京都の親戚を頼って移り住んだ母。親戚の家で20人くらいの下宿人の食事を毎日作っていたという。手のあかぎれがひどくて、「家業はお豆腐屋さんですか?」と聞かれたこともある、等という母の苦労話は、私の幼い頃からよく聞かされてきた。しかし今回は。「下宿の学生さんの中に、気になる人がいた。その人だけにそっとおかずを大盛りにしていたの」母にも乙女の時代があったのだ! 青春時代の微笑ましい話を始めて聞くことができた。
 
雑談も多く、話題があちこち飛んでしまうので、そのたびに動画を止めながら撮影した。1 〜2分の短い動画が20本ほどになった。
あまりにも細切れすぎてきっとこれでは編集が困難だ。再度母に話をしてもらおうと思って昨日、実家を訪問した。
 
2回目だからきっと慣れて、もう少し長めに話をしてくれるに違いない。
そして前回は「すっぴん」だったので、今回はきれいに化粧もしてもらってから撮影しよう! そのように企んでいた。
 
しかし実家に到着してみると、母と同居している弟が
「大変や! お母ちゃんが朝からずっと寝込んでいる。フラフラして立てへんと言っている。こんなに急に、がくんと来るとは思わんかった!」と心配そうに話した。
 
父が倒れた時の事を思い出した。中学校の教師をしていた父。70歳を迎えた卒業生たちがまもなく同窓会をしてくれると言うので、とても楽しみにしていた。
散髪にも行って髪を整えた。足がふらつくので、念のためにと車椅子も使用可能な介護タクシーを予約した。生徒たちに何をプレゼントしようかとワクワクしながら考えてもいたようだ。
それなのに同窓会の数日前、脳梗塞を起こして緊急入院することとなった。
何が起こるかわからない。若い者にとってもそうなのだろうが、特に年寄りにとっては。
分かっていたはずなのに、なんてこった!
 
動画撮影どころではなく。顔をパンパンに腫らして寝込んでいる母を一晩介護することになった。
自力でできていたパンツの履き替えを、今回は初めて手伝うことになった。ありがたいことに、母は恥ずかしがらずに私の助けを受け入れてくれた。「こんなことまで世話になるなんてねー。ありがとう。ありがとう」私はちょっとホッとした。ベッドに横たわる母の足をマッサージすると「気持ちいいわ。ありがとう」と幸せそうに微笑んでくれもした。
 
何が起こるかわからない。これが最後の会話になるのかもしれない。しっかり耳に留めておこう。
 
明日の朝までもつのだろうか? 今息をしているのだろうか? 夜中に何度も目が覚めた。少し咳き込む声が聞こえると少し安堵もした。そして朝を迎えた。
 
母は? 昨日よりは少しだけ顔色が良くなって起き上がる事ができた。
食欲も少し戻った。やれやれだ。
 
いつまでも親には元気でいて欲しいが、いつ何時、終わりがくるかもわからない。これが現実だ。母と共に過ごせる時間をもっと大切にしよう。
ファミリーレコーディング講座に参加していなかったら、まとまった動画を撮ろうなんて思いもよらなかった。母の知らなかった側面に触れることもなかった。「いつまでも機会がある」なんてことはないと思い知らされた。良い機会を得たととても感謝している。
 
 
 
 
***

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2025-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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