メディアグランプリ

中学生の時に体験した不気味な思い出


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記事:きりの鮎美(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
思い出の中に不思議な出来事って、誰でもきっとあると思いますが、
私の楽しかった思い出が、時を経て不気味な思い出になったことがある。
 
中学生の頃、友達が通っていた塾の目の前に古い空き家があった。
その空き家は、お風呂場の窓だけ鍵が掛かっていなかったから、
塾に行ってないメンバー数人で集まっては、
高い位置にある、その窓によじ登って空き家の中に入って行き、薄暗い1階に向かって、明かりが入り込んでくる階段を登り、2階の和室を秘密基地にしていた。
秘密基地ではトランプや、こっくりさん、恋バナをしたりして、
2階の窓を開けると見える友達の塾を見張りながら、塾が終わるのを待ちながら遊んでいた。
 
本当はダメなことだけど、自分たちしか知らない場所という特別感が嬉しくて当時は頻繁にその空き家で遊んでいた。
 
そんなある日、今日も秘密基地へ行こうよ、と言っていると、
一緒に遊んでいたK君が「行かない方がいい、実は見ちゃったんだ」と言い出した。
「え〜何を見たの〜? もしかして幽霊?」と聞くと、
「幽霊ではないんだけど、侵入したお風呂場の横に積んである新聞が全部平成元年だったんだ、あれ、たぶん俺たち全員の誕生日の新聞がある気がする」と、本当に怖そうにしていた。
中学生の私達は、自分の誕生日の新聞がその空き家にあったら呪われるとか、ありもしない話を口々に言い出し盛り上がった。
 
「じゃあ探しに行こうよ、自分の誕生日の新聞を」と言ったけど、K君は絶対に行かないと頑なだった。
 
誕生日の新聞があるくらい別に怖くないじゃん、呪いとか、自分達が今思いついた作り話でしょと、行きたいメンバーだけでその日も空き家に行って窓から侵入しようとしたら、その日は鍵が掛かっていて入れなかった。
今まで1度も鍵はかかっていなかったのに。
正面の玄関はベニヤ板を打ち付けて封鎖されていて、1階の雨戸は全部閉まっている。
内側からどうやって鍵を掛けたのか分からない。
 
おかしい。
もうここへは来ちゃいけない、そんな感じがしてさすがにみんな怖くなり、それ以降はその空き家に遊びに行く事は無くなった。
 
卒業してから数年後、その空き家は取り壊されて今はただの空き地になっている。
あの数ヶ月間だけ、なぜあの家に入れたのか、なぜあの時は取り憑かれたかのようにあの家ばかりで遊んでいたのか、今でもよく分からないなと思っていた。
 
昨年末に、里帰り出産で帰ってきた友達の家に当時のメンバーだったSちゃんと、Mちゃんが集まり、思い出話の一つとしてその空き家の話になった。
 
「窓から登るためにあった小さい土管は誰が持ってきたんだっけ〜」とか、
「あの時のこっくりさん、Sちゃんが動かしたでしょ〜」とか盛り上がっていたから、
私が「K君の新聞の話は怖かったよね〜、結局探せなかったね」と言うと、
SちゃんとMちゃんが「新聞を見つけたのは、鮎美だったよ」と、
「そもそもK君は塾に行くメンバーだったから、空き家に侵入してなかったよ」と言い出した。
 
私は新聞を見た覚えがないのに、新聞があるから行きたくないと言い出したのは私だと二人とも言ってきた。
 
おかしい。
私はあの空き家のことをすごく覚えているのに。
よじ登って入って行く侵入口になっていたお風呂場も、
1階に向かって光が差してくる2階に上がる階段も、
和室でこっくりさんをやった時に座っていたみんなの場所も、
埃っぽい畳の部屋も、
部屋の色褪せた深緑色のカーテンの色も、
窓を開けて入ってくる風の感じも全部覚えているのに、
新聞を見たことだけは覚えてない。
平成元年の新聞があったなんて言った覚えがない。
私が言い出したはずの事を私だけが覚えてない。
 
私がそのことだけを忘れているのか、
二人が私とK君を勘違いしているのか、今となってはわからない。
 
中学生の頃のことなんて、ずいぶんと昔の話だから、みんなの記憶が曖昧になっているだけだと思うけど、答え合わせをすればするほど謎が深まる、
もしかして、本当に思い出しちゃいけない事が他にあるかもしれない、そう思える出来事だった。
 
楽しかった思い出も、一緒にいた人と振り返ると、自分が忘れているというか、
初耳と思えるほど新鮮な話に聞こえることもある。
 
よくよく考えると不気味で、不思議はきっとたくさんあると思うから、人の記憶って当てにならないというか、曖昧だなと感じた。
だから思い出話は人とするのが楽しいんだなとも思った。
 
 
 
 
***

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2025-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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