メディアグランプリ

人のために褒めないでください


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田 さやか(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「あなたは猿ですか?」

私の脳裏に焼きついた言葉。小学校一年生の時、担任のT先生に怒られて、言われたフレーズだ。T先生はこともあろうか、母にも面談の時に言った。

「おたくのお子さんは猿かと思いました」と。
子供にそんなこと言う? て思うくらい酷い。後々、T先生から「猿」と言われていた事を、母から私は何度も聞かされた。私は、どうやらサッカーゴールによじ登ったらしいのだ。確かにおてんば過ぎる。だけど、もう少し言い方あるだろう……。

T先生は、学校中で一番怖い先生だった。荒れた中学から着任したてで、しかも初めて小学生を担任したのが私のクラスだったらしい。幼稚園児みたいな小学一年生相手だ。そりゃ、イライラもしただろうなと思う。

T先生には決め台詞があった。

「何やっとるだあ!」
もとい。これ、名古屋弁なので、標準語訳をする。

「何をやっているのだあ!」である。
これ、今のNHKで放送している、チコちゃんが言うあの言葉と一緒だ。

「ぼおーっと生きてんじゃねえよ!!」と。これが飛んできたらおしまい。
THE END。
お仕置きが始まりますよって感じ。子供ながらにわかっていた。メガネの奥の怖ーい顔が、いつもにも増して鬼の顔になり、説教が始まる。そして、立たされる、叩かれるに至る。まあ、現代ではあり得ない話だが。私の幼少期、まだまだ体罰がOKの時代に生きていた。T先生の怒鳴る声は、廊下中に響き渡っていた。隣のクラスの子達にも聞こえていたらしい。

T先生は、ひいきをしてお気に入りの子には徹底的に優しくした。そして、ダメのレッテルを貼った子には、とことん叱りつけた。私は、ダメのレッテルは貼られていなかったけど、平均的に叱られたと思う。

これだけ聞くと、どんな酷い先生と普通は思うだろう。でも、私はT先生のことが不思議と嫌いではなかった。嫌いと思っていた生徒は少なかったと思う。理由は、とても面倒見のいい先生だったからだ。運動好きで、よく子供たちとグラウンドに出て一緒に走り回ってくれた記憶がある。教室の片隅にはいつもマイギターが置いてあって、時間があるとギター片手に歌を歌ってくれたこともあった。

あと、T先生は子供の心を操るのが上手だった。「ハンコ作戦」をとっていたからだ。「ハンコ作戦」って、なんなのか説明しよう。
提出物の出来栄えに応じて先生がハンコを押してくれるシステムだ。
今で言うところの、通知表の5段階評価みたいなもの。T先生の場合は3段階評価だった。

「たいへんよくできました」
「よくできました」
「がんばろう」

と。

当時、小学校では毎日、日記の提出が決められていた。前の日に書いた日記を毎朝先生に提出する。すると、その日のうちに朱書きとハンコが押されて戻ってきた。今思えば、先生は忙しい中、いつの間にクラス全員の日記を見ていたのかと思う。
ここで、「たいへんよくできました」ハンコを押してもらえると、怖いT先生に褒めてもらえた! と思って嬉しかったのだ。親に自慢したくて、急いで家に帰って見せた覚えがある。T先生は、うまいこと生徒のやる気を引き出してくれていた。

今、私は40を過ぎた。あの頃から世の中の常識が大きく変わっている。
体罰があれば、ニュースになる時代だ。怒鳴ればパワハラ上司と言われてしまう。面と向かって叱れるなんて機会はほぼない。しかし、悲しいことに他人から褒められることも滅多にない。贅沢かもしれないけど、毎日が穏やかすぎるのだ。T先生に怒られて凹んだり、褒められて嬉しかった頃がいい時代だった気がする。

実は3〜4年くらい前、びっくりする事があった。
あのT先生から、SNSで友達申請が来たのだ!
まさか、学校の先生から友達申請される日が来るなんて、想像もしなかった。
もちろん即OKをした。
アカウントの写真を見ると、全然変わっていない。でも、顔がめちゃくちゃ穏やかになっていた。鬼の顔はどこへ……。
すると、私の投稿にコメントしてくれるのだ。
「素晴らしい経験をしましたね。あなたの頑張りを見ていると、僕も元気が出ますよ」と。
これって、小学生の時の朱書きと一緒だ! と思った。自分の昔の姿を知っている人にコメントされるのは恥ずかしい。元彼にコメントされているようなむず痒さ……。でも、素直に嬉しかった。小学生の時の先生に褒めてもらえた感覚が蘇ってきた。

いくつになっても、褒められたら嬉しいものだなあとしみじみ感じた。
T先生は毎回投稿にコメントをくれるわけではない。趣味のマラソンや仕事で頑張った投稿をすると、書いてくれることが多い気がした。
コメントと「いいね」がもらえると、『また「たいへんよくできました」ハンコを押してもらえた!』と、心の中で叫んでいた。

褒められるって、大人でもやる気を引き出したり、自己肯定感を高めてくれる特効薬だと思うのだ。私も「人を褒める側になれたら、周りをハッピーにできるんじゃないか?」と、ふと思った。別に媚を売るつもりはない。素直にいいなと思ったら、本人へできるだけ伝えようとした。

身近なことからやってみた。カフェへ行って、美味しいコーヒーを飲ませてもらったら、帰り際に「おいしかったです」と伝えてみる。友達と会って素敵な服を着ていたら、「その服いいね」って言ってみる。褒め活動をしてみると、
予想もしないことが起きた。『褒めたら自分が幸せになれる』感覚が残ったのだ。

誰かを「褒める」ことで、相手が笑顔になって、おまけに会話が弾むのだ。私はもともと会話を弾ませるのが苦手だった。それが、「褒める」と不思議と相手が心を開いてくれるから、私も心を開きやすくなって、ついつい会話をしてしまうからびっくりだ。
とある精神科の先生の話を聞いたことがある。
「会話をすることで、脳内に幸せホルモンが分泌されるよ」と。
だから、私の『褒めたら自分が幸せになれる』感覚は、多分間違ってはいなさそうだ。

まさか、学校中で一番怒っていた先生から、「褒める」ことを教わると思ってもいなかった。しかも大人になってから。しかし、私の「褒める」スキルはまだまだ発展途上中だ。たまに褒めすぎて、相手から警戒された失敗がある。たまに押してもらえた「たいへんよくできました」ハンコが嬉しかったように、「褒める」は緩急を使い分けるのも大事そうだ。
 
 
 
 
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2025-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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