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落ち続けた私が「笑われて」局アナに。ストレスの専門家としてそのマインドを振り返ってみたら


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森昭子(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「もう行くしかない」
35年前の大学4年の夏、私は、アナウンス学校のルールを破ろうとしていた。でもそんなことを先生に言ったら……もう来なくていいですから! と言い放たれるだろうか、普段の授業中も怖すぎて背筋をピンと伸ばし、微動だにできないくらい皆が緊張する先生なのだ。でも私には後がない、もう崖っぷちなのだ。
 
本当は大学だって四国から出て東京の大学に行きたかった、当時の私はアナウンサーになるなら東京の有名な大学の英文学科を卒業しなければならないと思い込んでいたが、祖母や母に大反対され、「あなたの代で先祖代々受け継いできた田畑を売ってもいいの? 家族が毎日豆腐ばっかり食べる生活をしてもいいの?」と迫られ、泣く泣く東京の大学は諦めた。
 
だが、大学3年になってやっぱり諦めきれず、大阪の有名なアナウンス学校に四国・高松から通っていたのだ。最初はフェリーで片道4時間、4年になると運良く瀬戸大橋が開通して週2回、大学の授業が終わるとマリンライナーで大阪のアナウンス学校に行き、最終の新幹線で真夜中に帰宅という生活を送っていた。しかも地元の大学の教育学部なのに5月からの教育実習にも行かず、その頃から始まる東京キー局の試験に挑んでいた。つまり私は大学を卒業できても資格は普通自動車運転免許のみなのだ。
 
そこまで自分を追い込んで挑んでいるのに結果は散々で、日本テレビ、TBS、讀賣テレビ、毎日放送、中部日本放送、北海道テレビ、福岡放送、鹿児島の南日本放送と各地の放送局を受けても二次試験に進むこともできない、もう落ちまくり。その先のカメラテストなんて遥か彼方。一緒に学ぶ同期が次々に先に進む中、私だけ全く進めない。
 
私は生唾をごくりと飲んで先生に言った。「夏の合宿に行かせてください!」全身から汗が吹き出して足は固まって動けなかったのを覚えている。なぜならこの夏の合宿というのは、来年アナウンサー試験を受ける後輩のための合宿で、4年生はそれまでに内定をもらった人しか参加できない、これまで内定をもらっていないのに参加した人は誰もいない。
 
ところが拍子抜けするほど先生は、「わかりました、いいですよ」と許可を出してくれた。まさかの第一関門通過。そんな勇気は、目的に対する強い意志があれば当然出るでしょ、という声が聞こえてくる。もちろんそれはそうだが、当時の私は昼間は大学に行き、卒業のための課題制作、週2回は海を渡って大阪のアナウンス学校に通い、さらに全国の放送局に受験の旅に出る、そして落ちまくるという、もうカラダもココロもクタクタ……。
 
ストレスの専門家としてこの頃を振り返ると、勇気を出せる自分になれるように工夫していたことがある。それはもう一人の先生が教えてくれた「今」に戻れるワークだ。試験に落ちすぎると、だんだん自分に自信がなくなり、自己評価が下がってくる。あれが良くなかったと過去に苛まれ、私なんて受かるわけないと未来を憂い、全く「今」に戻れない。落ち着かない。そんな時、私がしていたことは……《指折り数えること》
 
私には両親が健在だ。妹もいる。大学に友達もいる。こうやって受験もできる。ごはんも食べられる。屋根のある家に住んでいる。トイレも自分でいける。というように、自分がいかに恵まれているかを重箱の隅をつつくように見つけ出し、指折り数える。指は10本、数えるうちに足りなくなってくるのがポイント! 指が足りないほど私は恵まれているのだとカラダと一緒に感じる。すると不思議なことに有難いなぁと思えて感謝と共に「今」に戻れるのだ。
 
筋肉は感情を記憶するという。他人の臓器を移植すると、それまでと違う感情や記憶を持つことがあると聞いたことはないだろうか? あの頃の地味なワークは、私の指の筋肉に「恵まれているよ」と記憶させたのだろうか。いずれにしても、えいっ!と勇気を出せるような、自分で自分にガソリンを入れて走れるような、自分を取り戻せる「今」に戻れるワークや言葉を持つことをストレスの専門家としてオススメする。
 
さて、勇気を出したおかげで参加できるようになった夏の合宿で、私は……脱いだ。
私が通っていたアナウンス学校は、大阪ということもあったのか、自分の芸で皆を笑わせる、楽しませるというのを大会にしていて優勝者には賞状も授与される。思いっきり本気の自分の芸を披露する場がある。夏合宿2日目の晩御飯のあと、その恒例の「一人一芸大会」がやってきた。
 
「もう貼りつけるしかない」
私は旅館の浴衣を着て、自分で紙に描いた少女漫画の目にちょっとだけ穴を開けて、そのキラキラの目を私の目に貼り付けて、
腰を低く保ちながら、足をガニマタに大きく開いて「どじょうすくい」を一人で舞台に立って踊った。
即興で歌いながら踊りまくった。恥ずかしさを吹き飛ばすようにできるだけ思いっきり!!! 
……つまり、このぶっ壊しでココロの鎧を脱げたのだ。
 
少女漫画のキラキラの目は、ココロのどこかでやっぱり恥ずかしい私のせめてものミニ鎧。
この小さな工夫のおかげもあって、とにかくカラダを惜しみなく「どじょうすくい」モードにできた。これがけっこう受けて会場は笑いの渦くるくるぐるぐる。めっちゃ感じる手ごたえ!結果は「一人一芸大賞!」先生から手書きの賞状をいただいた。嘘みたいだが、この「どじょうすくい」が私の突破口だった。女優が仕事の転機によく脱いだりするが、なんだか気持ちがわかるような。
 
アナウンサー試験に落ちまくり、自分のどこをどう直したらいいのか? どうやったら気に入ってもらえるのか? 一体自分をどうすればいいの? 受かるアナウンサーってどんなの? と、もんもんとしていたのが「どじょうすくい」をしたら、いい意味で「まな板の鯉」になれたのだ。
そのあと受けた放送局からは続けて内定通知が届き、一番早く内定を出してくれたところに決める、というアナウンス学校のルールに従って、四国放送に決まった。
 
「まな板の鯉」になった後は、試験を受ける心持ちが180度変わった。どうやったら自分をよく見せられるか? 気に入ってもらえるか? という受ける放送局に自分を曲げてでも合わせるような及び腰の心持ちから、今の私で御社のカラーにあうのならどうぞ、
そうでなければ落としてくださいませ、みたいな堂々ぶり。今の私でどうだ!! よかったらとってくれい!
例え落ちたとしても、私がダメだから落ちるんじゃない。
カラーがあわなきゃしょうがない! 入社してもお互い不幸だし、などと思えたのだ。しかも面白いことにそんな心持ちでいると、不思議なことが起きた。試験会場に入っても前ほど緊張しない、しないどころか聞かれたことに対して自分でも不思議なほど立板に水のようにスピーチしているのだ。言葉がその場でどんどん降りてくるのだ。
自分の身を守るためにいつの間にかつけてしまった心の鎧。鎧が守ってくれたこともあっただろう、だけど鎧で身動きが取れなくなり、過去と未来にばかり思考が彷徨っていないか、今一度、点検してみてほしい。あなたにとってのぶっ壊し体験は特別に何かをしなくても、日々の暮らしのピンチの中にこそあるのかもしれないよと、ストレスの専門家として伝えたい。
 
 
 
 
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2025-06-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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