メディアグランプリ

文章を書くということ。私と友達になるということ。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:安井 智世(ライティングゼミ・5月)

あの頃、私の周りには架空の友達がたくさんいた。
そしてそれは、今もずっと変わらない。

私が文章に出会ったのは保育園年中さんのころだった。
保育園でも家でもずっと絵本読んでいた私だが、年中さんになり読む本がイラストや擬音メインの絵本じゃなくなり、しっかりとした物語構成の文章もある程度意味を持つタイプの絵本へと変わっていった。

絵本の世界が大好きで毎日かじりついて読んだ。そしてその世界に浸った。

私は何度鳥や飛行機になって空を飛んだのかわからないし、魚になって海を泳いだのかわからない。パン屋さんにもなったし、犬を飼ったり、何なら猫になって気球に乗ったりだってした。

毎日が新しい世界で、知らない世界だった。

ただ現実世界は厳しかった。親は迎えに来てくれず、引っ越したばかりだったので友達もあまりいなかった。泣きながら登園する私を笑顔で迎えてくれる人気者の優しい双子ちゃんがいたが、人気のあまり私にかまっていると私が睨まれた。だからそんなに現実世界の人は信用していなかった。

だからこそたくさんの人や、動物、しゃべる物体と本の中で友達になり、旅をした。いつだって文章を読み始めたらそこにいる友達たちに、私は一人じゃないのだと心から安心した。

本の中の世界に浸かり救われることは小学校に入り、中学、高校と成長していっても変わらなかった。

大人に近づけば近づくほど現実の人間関係を築くのはうまくなったけれど、それはただ単に諦めがついただけに過ぎなかった。誰も信じず、信用せず、愛さず、ただそつなく、それっぽくこなした。そして家に帰っては本の中の別世界にのめりこんだ。

本は、文章は、私にとって常にそばにいてくれて、どんな時も新しい世界に連れていってくれる唯一の味方だった。

文章がもうひとつの役割を持つようになったのは20歳を超えてからだった。

あなたも経験があるのではないだろうか。頭の中がごちゃごちゃで、自分の気持ちすら分からなくなることを。

高校生のころからだろう。私は考え事をすることが多くなった。もちろん高校生らしく大学のことや将来のことも考えていたのだけれど、人間ってなんで孤独じゃ生きられないのだろうとか、先生とは本当は人間ではなくて先生という生き物であって私を苦しめるためとか時にはお助けマン要素で存在しているのかとか、宇宙の果てはどうなっているのだろうかとか、考えても仕方のないことをぐるぐる考えては図書室で無造作に本を開くことが増えた。

頭の中はいつだってごちゃごちゃだった。数式と宇宙と私の将来とかが全部一緒くたになって存在していた。

当然なにも結論など出なかったし、まとまるわけでもなく、かと言って考えるのを諦めるわけでもなかった。自分の感情など後回しで思考が渦巻いていた。そのせいで自分が何を考えているのか分からなくなった。なんとなくその状態は苦しい気がしていたけど何が原因かもわからない。何かを変えたいけど何を変えればいいのかわからない。行動したいけど何から手を付けていいのか分からない。

そんなことをしているうちにあっという間に私は気を病んでしまった。

病院に行き、何が苦しいんだか分からないけれどとにかく苦しいんです! と訴えた。先生はただ一言こう言った。

「自分の気持ちを書き出してごらんよ」

私にとって、新しい文章の役割の誕生となる一言だった。

私は気持ちを隅から隅まで観察してこう感じたああ感じたと文章にしていった。

11月20日 今日は何でもできそうな気がする。

11月21日 朝はよかった。夜はパパが怖かった。

11月22日 一人の家が好き。公園に行ったら疲れた。

こんな感じでとりとめもなさすぎることを記録していった。

次第に自分が今どんな気持ちで何が嫌だったのか何をしたら喜ぶのか分かるようになっていった。前のはつらつとした頃の私に戻っていくようだった。なんなら前の私より健全に元気な気がした。

3年ほど前から自分の気持ちをもっと文章化するために一冊のノートに一日の中で時間や回数を決めずにただ迷ったら書き出すノートを作り、自分の感情、考えたこと、学んだことなんでも書き溜めることを始めた。自分の世界をどんどん言語化していったのだ。

それは私の信頼も期待もしていなかった現実世界をひとつずつ形にしていく作業だった。私は、自分の世界を形付けすることで初めて私とも友達になることができた。

架空の世界の友達よりもずっとそばにいてくれて、誰よりも理解してくれたのが私という友達だった。

一緒に自分で新しい世界を見に行こうと決めた。

あの頃の架空の友達は、世界を教えてくれた。

けれど今、私自身がその続きを描いている。

見つけたのは、誰かの世界ではなく、私だけの世界だった。

私は私を文章に載せることで私を知り、新たな境地へとたどり着いた。

私にとって文章とは一番の味方の友達であり、私であったのだ。

これからも私は、文章と共に生きていく。

新しい世界を見せてもらい、一緒に探検をする。

そして自分でも新しい世界を作り出す。

この物語の続きを私はこれからも綴っていく。

さて、あなたは文章を通じて何が見える?

この文が、あなたの世界の1ページとなることを願って……。

***

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2025-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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