冷やさない中華はじめました
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:星空志音(ライティング・ゼミ5月コース)
夏の寝苦しさで目が覚めた。
寝ぼけ眼に飛び込んできたのは「冷やし中華」だった。
常温の冷やし中華。一気に目が覚める。慌てて冷蔵庫へ。
さあ、これからどうする?
「なぜこんなところに冷やし中華があるんだ!」
さては冷蔵庫に直し忘れたな……。
寝る前の会話を思い出す。お腹いっぱいになってしまった家族が言っていた。「明日食べるから」と。その時に冷蔵庫に入れたのだと思っていた。でもよほど疲れていたのだろう。冷やし中華は忘れ去られたまま、家族は寝てしまっていた。
さあ、明日起きたら何て話そう?
「なんで置きっぱなしにするの! 自分で直しなさいって言ったでしょ!」
と叱責するべきなのか?
冷やし中華に限った話ではない。片付けが苦手な家族に、片付けてと伝えたことは何度もある。時にはきつく言い過ぎた日もあったかもしれない。なかなか変わってくれない家族にしっかり怒るべきなのだろうか?
冷やし中華が冷蔵庫で冷える間、私も頭を冷やして考えた。
ここで昼間に家族とした話を思い出した。
どうやったら部下の仕事を改善に向かわせることができるのかという話題だった。上司が部下に指導する時の目的は何なのかという話だ。
当然部下に改善してほしいために指導する。それが目的だ。
それなのにその目的を間違える人がいる。部下が萎縮してしまうほどに当たり散らしてしまう上司だ。暴言を吐き人格まで否定しコテンパンにする。そうすれば上司はきっとスッキリするだろう。しかしそれで部下は改善するのだろうか?
おそらく、怒られるのが怖くなり上司に相談しなくなるか、精神的な病気で休職、もしくは退職する。相談されなくなれば、部下の間違いに気づくのが遅くなり、ますます状態は悪化する。さらに休職や退職になれば、戦力を一人失い、改善どころか大きな損失になる。
改善することが目的だったはずなのに、悪化するという結末。
指導するとは、怒ることがゴールではない。
改善することがゴールなのだ。
これは子育てにも同じことが言える。
勉強をしない、片付けをしない……。改善してほしい時にどのように伝えるか?
頭ごなしに怒っては、きっと萎縮して相談しなくなるか、反発してやらなくなる。それでは改善するという目的は果たせない。
それに、人は鏡だ。暴言には暴言で返したくなるし、優しい言葉には優しい言葉で返したくなるものだ。
『だったらユーモアにはユーモアで返したくなるのでは……?』
翌朝。
「何で片付けなかったの!」という言葉は飲み込んで、代わりの言葉を探す。
「これじゃあ“冷やさない中華”になっちゃうよー! どうしたらいいかな?」
怒られているはずなのに堪えきれずクスッと笑う。
何か伝えたい時には暴言を使わない。優しい言葉、寄り添う気持ち、丁寧な伝え方。そこに少しのユーモア。改善してもらうためにどの言葉を選ぶといいのか考えたら、必然的にそうなった。これが建設的に解決する一番の近道。
この向き合い方は自然と家族の中で映し鏡のようになり、我が家では当たり前のマイルールになった。
何かマイナスなことが起こった時にどうするか?
そんな時に私が必ず思い出すドラマのワンシーンがある。社会現象にまでなったとあるドラマ。その中で、主人公が学生時代の彼氏を思い出すシーンがある。
喫茶店で彼が頼んだのはエスプレッソ。エスプレッソがどんなものか知らなかった彼は、量が少なく苦いことがわかると
「替えてくーださーい!」と店員を呼びつけ、悪びれることなくわがままを言う。
かたや今そばにいる彼は正反対の性格。
もし量が少ないとわかったとしても
「小さいですね……。でも勉強になりました」と前向きに捉えて、一緒に「苦っ!」と笑いながら分かち合えるだろうと。
何かマイナスなことが起こった時に、他者へ怒りをぶつけるのではなく、為になった、一つの経験になったと前向きに捉える。マイナスな言葉ではなく、温かい言葉で返ってくれば、受け取った側も温かい言葉で返したくなる。
同じことが起こったって、向き合い方次第で全く違う結末。私もこんな時に「勉強になりました」と、そして「一緒に苦いコーヒーを楽しみましょう」と思える人になりたい。それから何かあるとこのシーンを思い出しては、私の生き方の手本になった。
この考え方を活かして生きると、ハプニングがつきものの人生もなかなか面白いものに変わる。想定外のことはどうしても起こる。家の中で鳥のフンが落ちてくることだってあるのだから!
「えっ、どういうこと?」と思っただろう。私も思った。
先日やっとの思いで手に入れた買ったばかりのパソコンケースに、鳥のフンのような汚れがついていたのだ。ちなみにそこは家の中。一度も外へは持ち出していない。
「家の中で鳥のフンが落ちてきたー! もしかしてぬいぐるみの鳥さんのせいかなー?」なんて明るく突拍子もないことを言い出すから、家族も笑う。本当は、完売して買えないお気に入りのケースが駄目になり、泣きたい気持ちだったのだが、「誰が汚したの?!」と声を荒げて責めたって汚れた事実は変わらない。ここはユーモアで乗り切ろうと明るい言葉を口にする。
すると「ごめん。パンに入っていたカスタードクリームこぼしたかも」と家族が正直に打ち明けてくれた。おかげで喧嘩することもなく、次からどうしたらいいか一緒に考え、笑顔でこの話は終わった。
冒頭の冷やし中華は果たしてどうなったのか?
結局家族は食べきれないと言うことで、私が食べることになった。冷蔵庫から出していざ食べようとしたところ、急に電話がかかる。そこから急用への対応に追われることになり、短期記憶から追われる冷やし中華。つまり、テーブルの上に出しっぱなしなことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「これじゃあ“冷やさない中華”になっちゃうよー!」
と家族の声。
しまった! 自分の吐いた言葉がブーメランのように返ってきてしまった。
「これじゃあ“冷やさない中華はじめました”だね!」
とユーモアで返される。
これが我が家の家族を思いやる“冷やさない”愛の形。
***
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