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【進学選択体験記】出版社志望の私が、文学部に進学しなかったわけ


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:梶 花音(ハイパフォーマンス・ライティング)

 

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天狼院カフェSHIBUYA – 天狼院書店

 

私は、出版社志望の大学生書店員です。

そして現在、文学部に在籍しておりません。

どうして文学部ではないのか?本が好きなのでは?

この記事では、そんな疑問を生むきっかけとなった進学選択を振り返ってみたいと思います。

 

本好き少女は大学入学時、文学部志望だった

そもそも進学選択とは?と思っていらっしゃる方も多いと思います。

 

私の通う東京大学は、学生全員が教養学部という学部に入学します。

名前の通り、様々な学問に触れ教養を身につけるところで、「前期教養」なんて呼ばれたりします。

前期教養で1年半の学びを経て、2年生の夏に進学選択―いわゆる進振り―で、自分の学びたい学部を選びます。

1年半の様々な学びを通じて学部を選べる、というこの制度が、入学理由の一つという人も多いです。

 

私もその1人。

入学時、絶対にこの学部がいい!という強い希望はありませんでした。

本や言葉が好きだったので、文学部に行ったらやりたいことが見つかりそうだな、面白そうだな、という感じ。

 

せっかくなら、人の温かさとか、感情を対象に研究したいな、とぼんやり思っていました。

 

研究の入り口にいた敵

文学部に進んだらピンチかもしれない。

 

そんな経験をしたのは、入学して間もない1年生の夏のことです。

 

1年生の必修に、論文の書き方を学ぶ授業があります。

研究テーマの設定や先行研究の探し方、参考文献の書き方など、これからレポートや卒論を書くにあたり必要な知識を学ぶ授業です。

最終課題では短い論文を提出します。

 

この授業で私は、文学研究を選びました。

テーマは、宮沢賢治作品。

世界観が大好きで、先人の知恵を吸収して考えるなら宮沢賢治がいい、と思ったのが理由です。

 

授業は楽しいものでした。

授業担当の教授が漢文専攻の先生で、ご自身の研究について話してくださったり、研究の姿勢を教えてくださったりしました。

 

テクスト研究は、著者との対話。

どうしてそう書いたのか?

そう問いかけながら考えを深めていく。

 

字の連なりであるテクストを読む行為を、「対話」と表現されたところに感動したことを覚えています。

 

そして、いよいよ本格的に最終課題の論文執筆が始まりました。

 

先行研究を探しに、お目当ての雑誌論文がある図書館地下に通う日々。

過去に、関連テーマを研究した方々の積み重ねを知る行為。

自分と同じ作家を愛し、その文章の意味を考えてきた同志の考えを知ること。

「巨人の肩に乗って対象事象を見て、その上にわずかでも新たな知見を重ねることを目指す」

そう定義される研究活動に、最初はわくわくしていました。

こんなにたくさんの研究者たちが考えてきたのかと、先行研究の量に圧倒され、物語の読み解き方の豊富さに驚きました。

 

しかし次第に、苦痛を感じてきました。

その苦しさを抱えたまま、なんとか論文の形にして提出できましたが、自分が描いていた文学研究とは違っていました。

 

なんだか寂しいな。

 

それが一番の感想でした。

 

私のクラスはそれぞれが好きなテーマを追っていたのもあり、

週1回の授業で成果報告をする以外はほぼ1人で作業をしていました。

そのため研究は個人ワーク。

寂しさを感じるのも当然かもしれません。

 

それまで描いてきた文学部進学像が揺らいでいきました。

たしかに本や言葉と向き合うのは楽しいけど、卒業論文を書けるのか?

 

私は研究対象として文学と向き合うべきではないのかもしれないと気が付きました。

 

進学先どうするのか問題

文学と向き合う方法の輪郭が少しはっきりした、という点で、この経験は大きかったとも言えます。

しかし、どこに進学するのかという問いが残されました。

 

そうこうしているうちに1年が終わり、春休み。

次の学期中に進学先を決める必要があるため、ある程度選択肢を絞って履修を組みたいところ。

これまで文学部しか頭に入っていなかったので、焦ります。

 

私は何を研究したいのか?

 

今まで受けてきた授業を思い返してみても、面白かったり勉強になった、と思えるものもあったけれど、突出して興味がある!と思えるものはなく、、、

散々悩んでも、私の中から出てくるものはありませんでした。

 

 

そこで、とりあえず全ての学部学科を書き起こして、消去法を試すことにしました。

全てなので、医学部医学科から法学部、農学部まで様々です。

そこから、自分が進めない学部、興味を抱けない学部を消していきます。

 

中には、消すか消さないか、その判断ができない学科がかなりありました。

どんな学問・研究なのか知らなかった学科です。

それらについて調べつつ、最終的に残った学科の共通点は、

【人とともに研究できる学科】でした。

文学研究の道をやめ、自分の「好き」から選べず悩んだからこそ得られた軸です。

 

役に立つ、とは?

でも実は当初、この軸に自信を持てずにいました。

 

人とともに研究できる学問。

 

これだけでは、せっかく大学で学ばせてもらっているのに、学生としての示しがつかないのではないか?

色んな人の助けを得て入学したのに、こんな選び方でいいのか?

もっとちゃんとした選び方をしなければ。

もっと人の役に立つ何かを身につけなければ。

もっとお世話になった人へ恩返しできる何かを。

 

この感覚、実は文学部をなんとなく志していた時から持っていました。というか、大学生としてどうあるべきかを考える時、いつも頭にありました。

これまで誰かにそんなことを強いられたことなんて一度もありません。自分で自分を縛っていた考え方。

この考え方が、私を職業に直接結びつく学問に向かわせようとしました。

 

しかしこの時、私はまだ出版社に勤めたい、とはっきり決めていたわけではなく、就きたい仕事を具体的に描けていなかったので悩みました。

数学が得意じゃないのに経済を学んだ方が普遍的に役立つ知識が得られるのでは、と考えたり、

理系学部は科学技術と直結しているから、今から頑張って理転しようかとも考えました。

でも、全然しっくりきませんでした。

 

興味があったのは、人の温かさとか、感情でした。

人とともに研究することでした。

 

そんなとき出会ったのが、『役に立たない研究の未来』という本です。

この本は、新しい知識や理論の発見を目的とする研究―基礎研究について記された本です。基礎研究はすぐに製品や技術として実用化されるわけではないけど、それゆえ必要ない研究なのか?という問いについて、研究者たちが考えていく1冊。

 

この本には、フレクスナーという研究者の、次の言葉が登場します。

 

精神の自由を重んじることは、科学分野であれ、人文学分野であれ、独創性よりはるかに重要である。なぜなら、それは人間どうしのあらゆる相違を受け入れることを意味するからだ

出典:初田哲男ほか『役に立たない研究の未来』柏書房pp.41-42

 

「精神の自由を重んじよ」というメッセージが響きました。

大学入学後、よく両親にもらったのが、自分の好奇心を大切にして過ごしてほしい、というアドバイス。

なんとなく流してしまっていたこの助言に、フレクスナーが形を与えてくれます。

人の役に立つ何かを求めていたけれど、自分がやりたいことと向き合うことって大事かもしれない。

人は、自分がご機嫌ではじめて他者のことを思いやれる、優しくなれるよね。

人の役に立つには、まず自分を知らなくては。

 

成長して人の役に立てるようにならなければ、という思いで固くなっていた頭が、ほぐれていく感覚がありました。

 

芸術とかスポーツですばらしいパフォーマンスを目にしたとき(中略)決して「役に立った」という言葉で測られるものではないはず

出典:初田哲男ほか『役に立たない研究の未来』柏書房p.58

 

著者の1人であり、ノーベル医学・生理学賞受賞者の大隅良典さんの言葉です。

芸術・スポーツと違って、なぜ学問だけ「役に立つこと」を求められるのか?という視点は私にとって新しく、また納得感のあるものでした。

 

それと同時に浮かんだのは、学問を修めることで何か役に立つことが卒業時のあるべき姿なのか?という疑問です。

大学生は「役に立つ何かができるようになること」だけが目的ではなく、「自分の好奇心と向き合い、知っておく時間」でもあるのだと思いました。

 

私の理想の大学生像をも縛っていた「人の役に立つ何かを身につけなければ」という観念は、ゆっくり解進学選択で気づいた、大学生期間の意義

進学選択、そして読書を通じて精神の自由、学問の意義を考えた結果、いま私は人と関わり、ともに研究する学部に身を置いています。

 

それなりに大変なことはあるけれど、人との対話から知見を得ることは楽しく、やりがいのある毎日です。

また、学部選びの過程で、自分の研究したいテーマも固まってきました。

この選択ができてよかったと心から思います。

 

実用性から一歩離れて選択しましたが、実学や科学技術と呼ばれる学問でなくても、結局役立つよなあとも思っています。

どんな学問でもそうです。

学んでみなければわからないことなんてたくさんあるはずです。

それに、何が有用かなんてわからない。何が有用かなんて意味付けの仕方一つで変わってしまう。

 

人の役に立たねばならない。

 

この強迫観念にも似た縛りから解放された先で、自分らしい選択ができ、新しい成長ができているような気がします。

よかったです。

 

 

私の働く天狼院カフェSHIBUYAでは、スタッフの自分の人生を変えた本を展示しています。

ご興味のある方はぜひ、ご来店ください。

その際、このnoteを読みました!と言ってくださると嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました🌱

 

 

 

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2025-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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