暖かい秘密基地
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:仲西悠歌(ライティング・ゼミ5月開講)
「お花見楽しみだね。レジャーシート持ってきたよ」
満開の桜の下。そう言って微笑んだのは、いつも穏やかな空気で包み込んでくれる彼。
「座ろっ座ろ〜」
周囲はたくさんの花見客で賑わい、華やかなお祭りムード。私たちは、まるでぽつんと静かなひだまりの空間が切り取られている。心地よい空気が流れていた。
ふと。横の景色をみると、周囲の派手な満開の桜に隠れるようにして咲く。小さい枝のような木。
「みてこの子綺麗、小さくて可愛い」
「ほんとだ。来年も来るから写真撮って、どのくらい成長したかみよう」
「うん、ありがとう!楽しみだね」
ホクホクと温かくなる。
彼の口から出る言葉は、いつもごく自然に「未来」 を向いている。一年後の景色を、当たり前のように一緒に見る前提で語ってくれる。
贅沢な幸せだと。桜の木の下で深く実感していた。
さて、堂々と宣言することではないが、「居心地のよさ」 を何よりも重んじる人間である。
年齢を重ねるにつれて、素朴で、飾らなくて、お互いに「素の自分」 のままでいられる圧倒的な安心感に幸せを感じる。まるで、私だけの「秘密基地」
彼の家にお泊まりした。外向けの緊張をすべて解きほぐしてくれるような、優しい空間が待っている。
「今日はゆうちゃんに鮭作ったげます」
台所に立つ彼が、嬉しそうに声をかけてくれた。
「たのしみー!一緒にしよ〜 」
私はエプロンを借りて、彼の隣に並んだ。少し狭いけれど不思議と窮屈ではない。トントンと野菜を刻む音や、魚が焼ける香ばしい匂いが部屋を満たしていく。
「ほうれん草のおひたしも作ってみた」
「すごい!おいしい!」
食卓に並んだ手料理を一口食べるたびに、心までじんわりと満たされていく。
「この炊き込みご飯もすごく美味しいよ」
「一緒に料理できてよかった、ありがと」
お互いに「ありがとう」と言い合える時間が、何気ない瞬間に何度も訪れる。
格好をつける必要も、自分を大きく見せる必要もない。この圧倒的な居心地のよさは、恋人としての甘い雰囲気以上に、どこか「いちばん気の置けない大親友の家」 に泊まりにきたときのような、絶対的な安心感に満ちている。
この温かい安心感があるからこそ、もっと遠くへ進める気がする。前向きな欲求。
ソファのクッションを抱きしめる。
「あ。宅建受けようと思うんだ」
突然の宣言に対して、彼は驚くよりも先に、自分のことのように目を輝かせて言葉を返してくれた。
「すごいじゃん!がんばろ!俺も電験うける」
「一緒に頑張ろう」
彼が「恋人」という枠を超えて、同じ時代を共に戦う「最高の戦友」 になった気がした。ただ手を繋いで寄り添うだけでなく、自分の登るべき山を見つける。お互いを鼓舞し合える関係。居心地がいい。
「今回お出かけしたから、来週はゆっくり勉強なんてどう? 」
共通の趣味ができた。次の週末、彼がいつも通っているお気に入りのカフェへと向かった。
「ここが集中できて、みんな勉強してるんだ!穴場だよ、俺の秘密基地」
少し照れくさそうに教えてくれたその場所は、静かなカフェ。高架下にあり、本当に隠れ家だった。周りを見渡せると、確かにそれぞれが自分の仕事や資格勉強に没頭している。
ふとペンを置いた瞬間に目が合って、どちらからともなくクスッと笑ってしまう。
彼の日常の一部。大切な「秘密基地」をこうしてひとつずつ教えてもらうたびに、安心した。一人で机に向かうよりも、隣に彼がいることで不思議と集中力が増していく。
お互いの存在が、静かに背中を押し合っている。ただ消費されるだけの日常から、未来を見てるのが嬉しい。
満開の桜の下で交わした来年の約束。キッチンから漂う温かい手料理の匂い。そして、カフェの片隅で静かに並べた二つの参考書。
振り返ってみれば、彼と過ごす日々のどこにも、劇的なドラマのような派手さはない。「この人の前では、私は飾らない私のままでいい」 深く。落ち着く安心感。共に未来へ歩んでいける信頼関係。
お互いの前で、どんなに惨めで不器用な自分であっても許し合える。「大親友」 と放課後にサボっているときのような安心感がある。共に戦える「戦友」 愛おしい関係。
この温かさは、何も恋愛関係の中にだけ転がっている特権ではないと思う。
気の置けない大親友とマックでポテトを突っつきながら、将来の不安や夢を爆発させるとき。大切な家族と無言で食卓を囲み、「美味しいね」と笑い合うとき。あるいは、誰の目も気にしない自分の部屋で、形は違えど、全く同じ成分。尊い「春の光」が流れている。
世間が勝手に作った「恋愛」 や「パートナーシップ」 の型に振り回されすぎているのかもしれない。無理に自分をハメ込まなくても、心がぽかぽかと満たされ、お互いを高め合える「秘密基地」 のような居場所や関係性は、世界のどこにだって作れる。
誰もがそれぞれの日常のなか。素の自分に戻れる温かい風を感じられますように。それぞれの場所で心地よい春を心に飼うと落ち着きます。
<<終わり>>
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