ライティングゼミで見つけたこと
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:みちよ(ライティングゼミ名古屋会場)
文章を書くことは昔から好きだったが、ライティングゼミは、「誰かに文章を習う」という、初めての経験だった。
そこで、この講座に参加して得たことを記しておきたい。
まず、大きかったのは「エッセイ」というジャンルとの出会いである。
私の中で、本は極端に言えば二種類しかなかった。
小説か、ビジネス書か。フィクションか、ノンフィクションか。
もちろん「エッセイ」というジャンルがあることは知っていたが、本という世界の片隅にある、大国に挟まれた小国くらいの存在だと思っていた。
ライティングゼミを受講して、自分が課題として日々書いているこんな文章を、エッセイというのだということを、改めて認識した。
それで、受講中、様々なエッセイを読んでみたが、実に多様で、驚くほど懐の深いジャンルだと感じた。
食べものについて書かれた軽やかなものもあれば、旅の記憶をたどるものもある。子育ての記録や、家族との日常や日々の感動を描いたようなもの。生きづらさや喪失を静かに見つめた作品もある。
しかしわたしが一番惹かれたのは、「クスっ」と笑えるもの。
視点が変わっている、「そう来たか」と思える、ウィットにとんだ文章。
または、家族の変な会話とか、変な癖とか、そういう描写から伝わってくる人間の妙味のようなもの。
感動よりも可笑しみ。
共感よりも発見。
教訓よりも人間の妙。
印象に残っているものを挙げてみる。
向田邦子の『父の詫び状』は、格式の高さを感じた。
何かを伝えようとして、言葉を飾ったり、感動させようと工夫したりしているわけではない。ただ、家族の間で起きた出来事を書く。
それなのに、そこには人間の感情が立ち上がってくる。
父の不器用さ。家族の距離感。言葉にされなかった思い。
大きな事件が起きるわけではない。けれど、
その人が何気なく言った一言。
食卓で見せた仕草。
本人さえ気づいていない癖。
そういう小さな断片を拾い上げることで、その人の輪郭が浮かび上がる。
「この人はこういう人です」と書き手に説明されるより、読み手が自分で「ああ、こういう人なんだ」と気づいた瞬間のほうが、ずっと強く心に残る。
そうして気が付けば、読み手である私のほうで、「そういう人いるよなあ」と、一般化・抽象化を行っている。
アルフィアン・サアットの『マレー素描集』も印象に残った。
そこには、唐突に登場人物が現れる。
その人の生い立ちや背景が詳しく説明されるわけではない。
ただ、その人の姿や言葉、置かれている状況が素描される。
しかし、その断片を読んでいくうちに、個人だけではなく、その人を取り巻くマレー社会の姿が浮かび上がってくる。
社会を説明するのではなく、人を描くことで、社会そのものを見せる。
目の前の人物を描くが、
そこから一つのテーマを読み手に示そうとはしない。
むしろ読み手であるこちら側が、そこから勝手に広げていく。広げる自由がある。
家族とは何か。社会とは何か。人間とは何か。
書き手が答えを提示するのではなく、読み手の中に問いが生まれる。
書き手が狭く書くほど、読み手の中で広がる。
「こんな人がいるんだな」と、新しい景色が立ち上がる。
そんなエッセイイストたちの文章との出会いの他、
講座を通じての、一番の収穫は、やはり、「自分の書きたい文章がはっきりしたこと」である。
一言でいうと、「人間の妙」を書きたい。
共感や感動を中心にした文章よりも、人の癖や面白さが立ち上がってくる文章に惹かれる。
何かを伝えるための文章というより、その人にしか見えていない「世界」が見える文章。
「愛すべき変な人」を、ある視点から描き、物事の見方が違って見えてくる、といったような構造。
陣痛が来た大変なときにジャムを煮る人。
新幹線で行けばいいのにわざわざフェリーでいく人。
砂丘で財布を落とす愚行とそれが見つかる妙。
エリザベス女王のフィンガーボウルなどと言い出す先輩。
ワサビを使ってしまうダメンズと、それを面白くダメ出しする女子。
梅酒をおーいお茶のペットボトルにつめて差し出す先輩。
どれだけ負けても応援し続ける阪神ファン……
みんな、ちょっとおかしい。だが、味わい深い。
完璧な人や、誰から見ても分かりやすい魅力を持つ人よりも、その人独自のこだわりや、少しズレた言動を持つ人に惹かれる。
そこには、その人だけの面白さがある。
人間は、本人も気づいていないような小さな癖や矛盾の中に、一番その人らしさが表れる。
そこには、滑稽さがあり、切なさがあり、愚かさがあり、優しさがあり、ときには狂おしさもある。
人間は、単純ではない。
「優しい」とか「厳しい」とか、そんな言葉には収まらない。
矛盾したものを、一人の人間は当たり前のように抱えて生きている。
そして、その人は特別な誰かではなく、「ああ、こんな人、いるな」と、読み手自身の記憶や経験と重なっていく。
そこで初めて、一般化や抽象化が起きる。
書き手は、意味を急いで語らない。
一人の人間を、その複雑さごと丁寧に描く。
すると読み手の中で、人間や社会への理解が、あとから静かに立ち上がってくる。
もしかしてそれは、少し文学よりのエッセイなのかもしれない。
自分が目指したい場所と、今いる場所が見えたことは、講座で得た一番大きな収穫の一つだった。
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