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清水の舞台から飛び降りる気持ちで店員さんに話しかけた


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:宮本 晃伸(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

 

店員さんに話しかける第一声はなにが自然なのだろうか?

いや、引っ込み思案な性格ゆえに「注文したいけれども店員さんを呼べない」とかではない。

昨今は机に設置してあるタブレットやスマホから注文できるお店が増えてきたため、あの悲しい思いをする機会も少なくなった。だからその話ではない。

 

「いらっしゃいませ」

「ご注文は?」

「お支払い方法は?」

そんな決まりきったやり取りから、ちょっとだけはみ出したくなるときがあるのだ!

 

 

私は天狼院書店で開催されるライティングゼミ(文章講座)に参加している。

天狼院書店とは書店とカフェががっちゃんこしたお店で、店内で飲み物や食事を楽しむことができる。

ゼミはワンドリンクオーダー制のため、入店後すぐ近くにあるレジで飲み物を注文し、講義で使われるホワイトボード前の席に座る、というのが恒例の流れになっている。

 

ゼミは毎週土曜の同じ時間に開催されている。

全8回で、片手では数えられなくなるくらいには通った。

そして、レジで対応してくれる店員さんは毎回同じ人だ。

 

だから思った。そろそろ話しかけてもいいのではないかーーと。

 

読者の皆さんは「大げさ」と思ったのではないだろうか?

書いていて私もそう感じた。

 

ちょっとした会話というのはその場の流れで偶発的に起きるものであり、狙って行くものではないと。

軽いハイキングに行くのに、富士山の頂上を目指すような気合いの入りようではないかと。

 

許して欲しい、私は引っ込み思案なのだ。

とくに、予告なしのコミュニケーションは得意ではない。

 

例えば、いきなり話しかけられるとき。

あれは、不意に缶ジュースを投げ渡される感覚に似ている。

 

「ホイッ」という声とともに相手の手を離れる缶。

身構え、こわばる体。

キャッチできなかったときのやるせない情景が走馬灯のように頭の中をめぐる。

大きく目を見開き、放物線を描く缶の落下軌道を予測する。

目測を誤り、顎を引いて体で受け止める。

何とか手に収まる。

ほっと一息つく。

いきなり話しかけられるというのはそれくらいびっくりすることなのだ。

 

ちなみに、ゼミ終わりに近くの担々麺屋さんに三週連続で通ったところ、顔を覚えられ声を掛けられたことがある。

とってもびっくりした。

 

そんな私が今度は「話しかける側」に回ろうとしている。

 

 

ゼミに向かうバスの中、不自然ではないワードを頭の中で探していく。

「店員さんのことはなんと呼べばいいのだろう?」

「違和感のない話題は何だろう?」

「差し込むタイミングは?」

 

答えの出ない問い。

頭の中でシミュレーションを繰り返す。

結論が出る前に目的のバス停につく。

 

気づけば店のドアの前。

一呼吸置き、雄々しく(個人の主観です)ドアを開ける。

ドアチャイムが音を立てる。

 

レジ奥の厨房で二人、作業している人が目に入る。

えっ、二人……!

想定外の出来事に頭の中が真っ白になる。

頭の中でドミノのように組み立てていた計画がまったく倒れていかない。

最初のドミノが明後日の方向に飛んでいき、後続のドミノが心配そうにこちらを見ている。

 

注文が多く入ったのか、普段ゼミを設営しているスタッフがサポートに入っていた。

いつもの店員さんは厨房の奥、サポートのスタッフは手前、ということはレジ対応をするのは……。

 

私の作戦は失敗に終わった。

(もちろん、そのスタッフの方が嫌だったわけではない。いつも設営ありがとうございますm(_ _)m)

 

 

時は翌週、さあリベンジマッチだ!

店の外にあるトイレで用を足し、鏡の前で深呼吸。

追加の作戦はない、当たって砕けるのみ。

また失敗しても来週がある。

 

書店のドアを開く。いつも通りの音を立てるドアベル。

レジの奥には……いつもの店員さん一人だ!

 

平静を装いレジ前に立つ。

鼓動がドキドキしているのかしていないのか、もうよくわからない。

 

「いらっしゃいませ」

飲み物を聞かれる。

ここまではいつも通りだ。

 

「お支払いは?」

「PayPayでお願いします」

私の提示したQRコードを読み取るために、店員さんがタブレットの用意を始める。

いったん会話が終わる。

 

来た。

ここか……?

いや……ここしかない!

 

「店員さんはライティングゼミを受けたことあるんですか?」

舌が回らず、言葉の一部が口の中で乱反射した。

 

「私は受けたことないです。ただ、受けている人もいますよー」

 

流れるような返事だった。

困った様子もなかった。

ごく普通に会話が成立した。

 

ふわふわとした心持ちでゼミの席に座る。

もう帰宅してもいいぐらいの気分だった。

 

 

この記事を書いていて思う。

来週もまた話しかけていいのだろうか?

 

 

 

 

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