ゼミ

自分にとっての「キレイ」を追求する先にある光景《週刊READING LIFE vol.379「キレイな瞬間」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

「肌のお手入れをしっかりしていると、肌はちゃんと答えてくれるんですよ。小鼻の黒ずみが消えて、毛穴レスになれるんです」そう言って携帯の画面にドアップで映った肌はくすみがなく、ツルンとしていた。

6年くらい前からのことだ。私の朝は、とある美容家のインスタライブから始まる。平日は6時から、休みの日は7時から、ほぼ毎朝メイクライブをしていて、配信回数は既に2,000回を超えている。平日は朝の準備をしながら、休みの日はベッドでゴロゴロしながらライブを見るのが私の習慣になっている。

土曜はスキンケアライブのため、1時間スッピンでライブをするのだが、およそ40代後半の肌には見えない。「ちゃんとお手入れをしていたら効果が出るんだな」と、寝起きでぼんやりしながら洗面台の前に立ち、鏡に移る自分を見た。インスタライブを見るようになって以来、美容家オススメのスキンケアを真似ている私の肌はどうだろう。鏡に顔を近づけて、自分の顔をまじまじと見た。

20代のころにできた左側の頬のシミは健在だが、一時に比べて小さくなり、色が薄くなっている。小鼻のあたりはどうだろう。いつのまにか黒ずみができ、毛穴がクレーター状になってしまって「どうしたもんだか……」と思いつつ、見て見ぬふりをしていた鼻周りをじっくり観察してみる。毛穴レスとは言えないものの、クレーター状になっていた毛穴がいつの間にか小さくなっていて、しかも黒ずみがなくなっている。「おおっ! ちゃんと成果が出ている! むしろ若いころよりも改善している!」朝から嬉しい気分だ。

メイクをした後、鏡で最終チェックをするとき、ウキウキする。何て言ったって、メイクしたてで一番キレイな状態だからだ。でもそれよりも嬉しい。というか、「嬉しい」の種類が違う。

メイクをして整った自分を見て嬉しいと思うのは、「こういう自分でありたい」と思って行動(メイク)をしたことで、思った自分になれたことからくる達成感だ。では、スッピンの自分を見て「嬉しい」と思うこの気持ちは、何だろう。それは作られた自分ではなく、素の自分に対して「私、キレイじゃん」と、自分にOKを出せることへの幸福感だ。

人が「キレイ」と思うとき、その対象は、例えばメイクのように人が作り出す美しさであることもあれば、満開の桜の花びらが風に舞うその瞬間に立ち会うといった、人工物ではなく自然が見せてくれる光景のこともある。どちらも美しい。では「自分ならどちらのキレイに心が惹かれる?」と問うてみたとき、自分の目指す生き方の指針が分かったような気がした。

 

 

6年間から美容家のインスタライブを見ていたり、メイクをした自分を見てウキウキすると書くと、もしかしたら相当なメイク好きと思われるかもしないが、そんなことはない。

社会人になるまでメイクをしたことはなかったし、メイクをしているのにスッピンと間違われることがしょっちゅうあった。ファンデーションくらいはしなきゃと思っていたが、しっかり毛のある眉毛のため眉を描く必要はないだろうと思っていたし、赤ら顔のためチークをしたらもっと赤くなると思ってしなかったりと、相当手抜きメイクだったからだ。

今思うに、手抜きメイクをしていた本当の理由は、眉がしっかりあるからでも赤ら顔だからでもない。「どうせ自分がメイクをしたところで、キレイになれるわけがない」という、「どうせ私なんて」根性が働いていたからだ。本来であれば「キレイではないからこそメイクを頑張る」となるはずのところ、ネガティブ根性が故に「どうせメイクをしたところで変わらない」と端から諦めていた。何かあるたびに「どうせ私なんて……」を繰り返して、素の自分に真っ向から向き合うことを避けていた。

そんな状態で人生が好転することはなく。結婚し子供を持つ友人を見ては「いいなぁ。あの子は幸せそうで。私は結婚もしていなければ彼氏もいない。どうせ私なんて……」と落ち込み、職場で昇進する同僚の姿を見ては「私だって頑張っているのに、なんで評価されずに同じポジションのままなんだろう。どうせ私なんて……」と鬱々としていた。

30代半ばになり、そんな自分に飽き飽きしてきた。自分の何がいけないのか、どうすればいいのか、具体的な案は浮かばない。でも、このままでは駄目だ。今変わらなければ、人生このままずっとネガティブモードだ。何とかして変わりたい。そう思うようになったころ、前述の美容家のことを知った。

当時はまだ朝のライブはしていなかったが、定期的に行なわれるFacebookライブに登場する美容家は美しく、いつも笑顔を浮かべてキラキラしていた。スキンケアやメイク方法など、美容に関することを惜しみなく教えてくれる姿は美しくキレイだった。美しさはもちろん、話す内容や行動に説得力がある姿に虜になった。「この人の言っていることをやってみよう」そう思い、オススメのスキンケアやメイクを真似するようにした。

そうすると、今まで避けていた鏡と対峙する時間が一気に増えた。朝夕お湯で濡らしたホットタオルで顔を包み込んだ後、鏡を見ると、むくみやくすみのある疲れ顔に血色が戻り、トーンアップしていることに気がついた。「眉は顔の額縁」という教えのもと、眉ペンシルで整えることで、意思のある顔立ちになった。苦手だったマスカラをすることで目元に力が宿り、コーラル色のチークを頬に載せることで、柔らかい印象を作ることができた。

鏡に映る整った自分の顔を見て、ライブの中で語られる「外見は内面の一番外側」「外見を整えることは相手への敬意」という言葉を始めて理解することができた。「外見は内面の一番外側」という言葉は、内面が一番重要ではあるものの、その内面が一番外側に現れるのが外見であり、だからこそ外見を整えることは大切という意味を持つ。そして「外見を整えることは相手への敬意」は、例えばだれかと会う約束をしたとき、相手や場所、目的に合わせて服装を選び身だしなみを整えることで、「あなたと過ごす時間を私は大切にしています」という、言葉にしないメッセージが込められていることを意味している。

メイクをサボってきた今までの私は、自分を蔑ろにするだけではなく、周囲の人達への礼節も欠いていたのかもしれない。「どうせ私なんて……」と思うことで、できない自分を擁護しているつもりが、実際は自分を窮地に追いやっていたこと、そしてそんな私にも関わらず「会おうよ」と誘ってくれる友人達への敬意や配慮が欠けた振る舞いをしていたことに気がついた。

そりゃあ人生好転しないわけだ。もう自分を卑下することはやめよう。「どうせ私なんて……」と思ったところで誰も得をしないのだから、「そんな自分もいいじゃない」と受け入れよう。

腹落ちした私は、それ以降もきっかけを与えてくれた美容家のライブを見て、オススメのスキンケアを取り入れ、メイク用品を購入するときはライブで紹介されたものを参考にしている。

そして今朝、改めて自分の肌状態はどうだろうと思いじっくり観察してみたところ、改善されているところが多くあることに気がついた。そう言えば久しぶりにあった知人に、「前よりもお肌にツヤが出てる」と褒められたっけ。「どうせ私なんて……」という思いに囚われたまま変わろうとしていなかったら、私の肌状態は一体全体どうなっていたのだろうと怖くなる。

 

 

 

メイクを通して、自分で自分をキレイに作り上げていくことを学びつつ、土台となる素肌をケアするスキンケアを同時に行なうことで、素の自分にもOKを出せるようになった今、「作り出すキレイさ」と「素のキレイさ」、どちらに心が惹かれるだろうと自分に問うてみた。

メイクをし終わった後、鏡に映る自分に「キレイになったね」と語りかける瞬間。素顔が鏡に映ったとき、「今日もお肌調子絶好調だね」と自分にOKを出せる瞬間。

どちらも大切で選び難いが、私は自分の素の状態を受け入れ「そんな自分もいいじゃない」、なんなら「飾らない自分だってキレイだよ」と言える人生を歩んでいきたいと思っている。

というのも、自分の素顔にOKを出すことが、素の自分にOKを出すことに繋がっているからだ。スキンケアを頑張っているものの、若い頃にできたシミやソバカスは健在だし、肌のハリ感は20代の頃には及ばない。でもここ数年で劣化は防げているし、数年前と比べれば改善してきている。

日々の努力で、自分で素肌をケアできているという思いが、「自分もやればできる」「自分だって変わることができる」という、自分の内面への変化をもたらしてくれているからだ。

「どうせメイクしたって変わりっこない」と諦めていた若かりし頃の自分に言いたい。メイクをしたら、スキンケアを頑張ったら、私だって変われるよ。諦めないで、と。

 

                                                                                                                                   

❏ライタープロフィール

松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。東京都在住。

2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。

「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。

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