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天狼院書店の罪状


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河野裕美子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
 そうか、そういうことか……。
 「本屋さん」が、ライティングゼミをやるなんて、おかしいと思ってたんだよ。
私は気づいてしまった。天狼院書店は、「泥棒」だ。
 
「あなたの将来の夢は何ですか?」
「……小説家です」
言うてもうた。みんなの前で。
 
時は私が中学3年生までさかのぼる。○十年も前の話だ。
高校入試の面接試験の練習時間。
4~5人のクラスメイトと共に、教師陣と対陣する。
この学校を志望した理由は何ですか、とか、部活動や生徒会活動は何をしていましたか、とか、鉄板質問の中に、この質問も含まれる。
どうしようか、迷った。ほんとのことを言うべきか、受けのいい答えを返すべきか。
母親がキャリアウーマンでばりばり働いていたので、父親からは「これからは女も働く時代だ。自分の食い扶持は自分で稼げ。女性が一生働いていける職業に就け」と言われて育った。
自分が専業主婦に向いていないのは、自分が良く知っていた。
だから、「将来の夢」を聞かれて「お嫁さん」と答えたことは、記憶にある限り、ただの一度もない。幼児の頃でもだ。
いつも、どんな職業についたらいいのか考えていた。
面接受けの良さそうな職種は、いくつか答えられるのだけれど……。
 
幼い頃から、本は好きだった。
寝かしつけに童話を読んでもらっていたおかげかもしれない。
本好きが高じたのか、作文も得意な方だった。
中学3年の、夏休みの読書感想文は、題材に「車輪の下」を選んだ(我ながら嫌な中学生だったと思う)。
魂は揺さぶられたのだけど、感想をうまく書き切ることができなくて、学校の締め切りに間に合わなかった。
「あなたの感想文を待ってるのだけど」と国語の教師に催促され、添削されつつ、どうにか書き上げた。
私の「『車輪の下』を読んで」は、市の感想文コンクールで銀賞を獲った。金賞は、同じ学校の友達だった。
上には上がいるものだ、とちょっとした敗北感を味わった。
 
ずっと根底に「物書きになりたい」という思いはあった。
でも、世に物書きは星の数ほどいる。食べていけるのは一握りだということも知っていた。
ちょっと作文が得意だったとしたって、こんな小さな町の中でも私は一番になれなかった。
面接練習のこの場所で、言っていいものか、私の「将来の夢」を。
「小説家になりたい」なんて、「芸能人になりたい」というのと同じだ。
こんな田舎で、なんと無謀で幼い、気恥ずかしい夢なのか。
それを、学級委員経験のある、分別あって余りある優等生のこの私が、口にしてもいい夢なのか!
公務員です。そう言おう。女性が一生働けて、男女も平等だ。
口を開いたら「……小説家です」。
 
私はかくして、無事に志望校に合格し(面接試験で「将来の夢」は聞かれなかった)、無事に大学にも進学した。
安定第一主義の私は、合格射程圏内の学校を志し、長い目で見れば、大きな失敗もなく生きてこれた(ほんとはいろいろあったけど)。
悪く言えば、冒険もしないで生きてきた。
本は相変わらず好きだけれど、小説家は目指してなかった。食べていけるのはほんの一握りで、それに自分がなれるとは、どうしても思えなかった。
私の人生も、もう折り返しだろう。平穏にこのまま過ぎてくれれば、万事OKだ。
そんな時、たまたまネットで記事を見た。「人は、10代の時に欲して手に入らなかったものに固執する」。
体に、電気が走った。
 
FBで見かけた「ライティングゼミ」。
今から小説家を目指すわけではないけど、「書きたい」思いは消せなかった。
でも「天狼院」って何だろう……。書店って書いてあるけど、聞いたことない。
詐欺かもしれない。だまされたくないし、とりあえず、様子見よう。来月もこのコースがあったら、考えよう……。
2か月迷った。でも「10代の時に手に入らなかったもの」のために、だまされてみてもいいかもしれない。
私は支払いボタンを、相当の覚悟を持ってクリックした。
 
「だまされたかもしれない……」。第1回目の動画を開いてそう思った。
何だか胡散臭いおじさんが(大変失礼)ホワイトボード前に座っているのだ。
そして、動画の再生時間は2時間を超えている。
この状況で、2時間講義するの?! この人は本屋の人じゃないの?!
おかしいと思ってたんだ。何で本屋さんがライティングを教えるんだろう、って!
ライターを抱えて自己出版でもさせる気かな?
 
動画を見てから、私の毎日は変わった。
常に何を書こうか考えているのだ。
毎週の締め切りはきつい。
暇さえあれば、ネタを考え、構成を考え、ちょっと書いてみては膨らまずに没にする。
そして「本屋のおじさん」が言っていたことを思い返し、文豪の本を買ってみたりする。
ただでさえ書くことで頭がいっぱいなのに、その上読書もしたくなる。
そうか! 書こうとすると、いろいろ本が読みたくなる!
雑誌も、ライトノベルも、古くからある名作も、昔読み聞かせてもらった童話でさえも。
あの「本屋のおじさん」は、私の時間をごっそり持って行ってしまう「時間泥棒」だったのだ!
第一印象通り、私はだまされ、本屋に浸りたくなってしまっている。なるほど、本屋がこのゼミをやるわけだ! 後悔しても、もう遅い。
 
私が「小説家になりたい」とみんなの前で言った時、誰も笑わなかった。
先生は、どんな本を読んでいるのか、と前のめりで聞いてくれた。
奇しくも、私を出し抜いて読書感想文の金賞を獲った友達の題材は「モモ」。
「時間泥棒」のお話だった。

 
 
***

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2018-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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