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天使の歯磨きタイム


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:伊勢真紀子(ライティング・ゼミ 平日コース)

 
 
歯医者さんを変えた。すると、定期検診のたびに虫歯を指摘されるようになった。
 
以前通っていた歯医者さんの定期検診ではそんなことなかったのに?
食生活も特に変化していないのに?
加齢のせい?
 
だいたい私は日々の営みの中で、歯磨きと髪を洗うことが何よりも嫌いだ。嫌いと言っても一応大人だから毎日の務めとしてしぶしぶやってはいるが、嫌いなものは嫌いだ。
 
台湾に行くと美容室で気軽にシャンプーができる。20分くらいかけてヘッドスパ並みにしっかりシャンプーをしてくれるので、頭も目もすっきりする。それでいて日本のヘッドスパの数分の一のお値段だ。何よりホテルに帰って嫌いなシャンプーをしなくていいというのが、旅行中の私の気分をかなり上向きにしてくれる。だから私は台湾に行くとほぼ毎日のように美容室にシャンプーをしに行く。
 
そう。シャンプーは、人にしてもらうことが可能なのだ。人にお願いして嫌いなことをやってもらえるのなら、それに越したことはない。
 
ところが、歯磨きときたらどうだろう。たまに歯医者さんでケアの一環として歯を磨いてもらうことはあるが、「人に歯を磨いてもらうのが気持ちいい」とか、「毎日歯を磨くのが面倒で歯医者さんに通っている」なんて人は聞いたことがない。
 
歯磨きは私にとって、逃れることのできない苦行なのだ。
 
口をゆすぎ、歯ブラシに歯磨き粉をつけると、私は憂鬱な気持ちになる。
 
「はぁ、今から私は手首をしゃかしゃか動かし、歯を磨かねばならないのだ……」
 
そもそも歯磨きが嫌いなのに、今の歯医者さんに通いだしてから執拗に磨き残しを指摘されるのも私の歯磨き嫌いに拍車をかけた。しかも、磨くのは自分のだけではない。「小学生のうちは親が仕上げ磨きをしてください」と言われて、子どもの歯磨きもしないといけないのだ。
 
「こんなに歯磨きが嫌いなのに、なぜ毎日二人分の歯を磨かないといけないのだろう……」
 
暗澹たる気持ちになる。かと言って、歯磨きの手を抜くわけにはいかない。歯医者さんでは、私たちは残念なことに「磨き残しの多い親子」と思われているのだ。それに、これ以上虫歯が増えるのは困る。かくして私の苦行は終わることがないように思われた。
 
「誰か私の歯を毎日磨いてくれないかなぁ」
 
そんなバカなことを考えていたある日、私はひらめいた。
 
「そうだ! 電動歯ブラシを買えばいいんだ!」
 
憂鬱だった私の歯磨きタイムに一筋の光が差した。さっそく電動歯ブラシを買いに行った。
 
「さぁ、今夜から楽しい歯磨きタイムになるぞ」
 
そう思った私は肩透かしを食らう。なんと買ったばかりの電動歯ブラシは10時間以上充電しなくてはいけなかったのだ。
 
点滅しているランプが点灯するまで。私はとても待ち遠しい気持ちで、そのときを待った。
 
そして次の日。充電完了の合図としてランプが点灯した。胸を弾ませながら歯ブラシを口に入れる。スイッチオン。
 
「ぶーん」という機械音とともに、ブラシが細かく振動する。今までのように必死に手を動かさなくても、汚れが取れていくような気がする。鏡を見ながらちゃんとブラシが歯に当たっているかを確認しているうちに歯磨きタイムが終わった。(2分経つと、自動でスイッチがオフになる)
 
舌で歯を触ると、「きゅぴ!」という音が聞こえそうなくらい、つるつるに磨かれていた。私は湧き上がる感動を味わった。
 
「これ、すごくいい」
 
なんで今まで電動歯ブラシを買うということを思いつかなかったのかと思うくらいだ。
 
以来、私たち親子の歯磨きタイムは楽しいものとなり、歯医者さんで勧められたプラークチェッカー(歯垢のあるところだけ色に染まる液)を用いては、磨き残しを見つけ、電動歯ブラシでぶぃーんとやる。すると、真っ白な歯が出てくるのだ。これを快感と言わずして何と言おう。
 
そう言えば、私は洗車機が好きだ。窓をぐるぐるとくまなく掃除するブラシ。洗車機に車を突っ込み、それに見とれているうちに、あっという間に洗車が終わるあの感覚。電動歯ブラシを使っての歯磨きは、それによく似ている。とにかくすっきり気持ちがいいのだ。
 
すっかり電動歯ブラシの虜になった私は、会う人ごとにその魅力を説くようになってしまった。なんせ電動歯ブラシは長年の私の憂鬱を一瞬にして解決してくれた、素晴らしいアイテムなのだから。
 
残るは洗髪問題だが、こちらは電動歯ブラシのような画期的なアイテムは望めそうもない。だとすれば、あとは台湾に移住するしかないと、こちらは楽観的に考えている。台湾の美容室でシャンプーをしてもらい、電動歯ブラシで歯を磨く。そんな生活ができたらもう言うことはない。

 
 
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2018-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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