持ち点ゼロ。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:遠藤 朝恵(ライティング・ゼミ平日コース)
「アサエさん、大変だよ。35件成約したよ!」
馴染みのクライアントの常務が興奮気味に電話をかけてきた。
彼らの打った『お客様紹介キャンペーン』のDMが、35件の成約を成したというのだ。
ダイレクトマーケティングの世界では一般的に開封率10%に乗ると成功と聞いたことがある。
千通送ったら開いてくれる人は100人。さらにそのうち申込みに至るのは3〜5件だと。
今回彼らが送ったDMは850通だったから、35件というのはすごい数字らしい。
持ち点ゼロでDMのデザインを担当させていただいた身としては、
我がことのように喜ばしいできごとだった。
彼らとお仕事するようになってから、かれこれ7年になる。
男性二人と、女性社員3人で化粧品などの通販をしている小さな会社。
社長以下、皆さんとやりとりさせていただいている。
当時私はブランディングの勉強をしていて、専務のMさんと同期として知り合った。
「今度、ウチのニュースレターを作ってみないか」
勉強を終えた後、Mさんから連絡をいただいた時はびっくりした。
なぜって彼は自他ともに認める筋金入りの人見知りだったし、
実例作品の他に何にも持ってない個人事業のデザイナーよりは、
本を出していたり、どこかで講義をしているような“先生”を好みそうだったから。
「もうねえ、なるべく人に会いたくないの。仕事の連絡もほとんど、メール。
自分から連絡をすることって、ほとんどないよ」
Mさんはそう公言していたし、確かにセミナー中も彼から人に話しかけているところを
私は見た記憶がなかった。
誤解を恐れずに言うと私は、人見知りする人の気持ちを分かってあげられない。
人と話すことが大好きなのだ。人と話すことは、私にとってプレゼントを開くようなもの。
何が入っているのか楽しみで、早く開けたい。声をかけてもらえるのも、嬉しい。
子供の頃からそうだった。
そしてその性質は、30歳間際で異業種からグラフィックデザイナーに転職して
折り込みチラシの制作から始めた経歴にも多いに役立った。
呼ばれたらどこにでも行ったし、初対面の人、一風変わった人とも組んだ。
知らないことは頭を下げて教えてもらって、全て現場で覚えて来た。
「せっかくご連絡いただいたから、精一杯力になりたい!」
そんな気持ちが強すぎて、失敗したことも沢山ある。
でも、彼らの顧客宛の1本のニュースレターをデザインしたのがきっかけで、
それまでMさんが独学で担当していた印刷物制作を今、私にまとめて発注してくれているのは
美大も出ていない私が持ち点ゼロだったが故にとにかく必死だったのと、
目の前の相手をただ喜ばせたかった、からかもしれない。
以来、その会社には色々作らせていただいた。
リブランディングにあたってのストーリー設計、ロゴデザイン、パッケージ、
コンセプトをうたったリーフレット、お客様の声を集めたブックレット。
イメージ写真のプロデュース、イラスト制作……。
もし私に華々しい経歴があったなら、仕事を選り好みしたかもしれないし、
クライアントの価値観に寄り添うことを、しなかったかもしれない。
Mさんの話をつぶさに聞く、ということもできたかどうか分からない。
ある期間さんざん、雑誌の紙面レイアウトを担当した中で
何人もの編集者さんと深夜からやりとりしながらページレイアウトをしたことも。
ウェディングやレストラン業のスタートアップに関わるなかで、
商品のプライスが高くなればなるほど、色使い、コピー、写真など全ての要素に
余韻や余白が大切になるんだとを知ったことも、
撮影コーディネートのお話をいただいたことも。いつもゼロだったからこそ、経験できた。
大小関わらず色々な案件に関わらせて頂いて来た、それは私の財産だと気づいたのは、
ごくつい最近のことだ。
ずっとコンプレックスだった持ち点ゼロは、見方を変えれば武器になるのだと、ふと気づいた。
「デザインする前に、ブランディングをきっちりやらないとダメだよ」
ある時人から大勢の前でダメ出しされて、大恥をかいたことがある。
それをきっかけに勉強を始めて、Mさんと知り合ったのだ。
ブランディングは、私の仕事を底上げしてくれる、学んで良かったことのひとつだ。
それまでは何となく、好みや感覚で作っていたデザインにちゃんと「根拠」が生まれ
自分が発信するプロダクトデザインの世界観も作ることができた。
例えるならデザインはアウターマッスルで、ブランディングはインナーマッスル。
体幹があるかないかの差は、大きい。
私は人と話すのが好きだ。それは私にとってはプレゼントのようなもので。
今までたくさんのプレゼントを開けてきたから、これまで細々とだけれど、
大好きなクリエイティブの仕事を続けてこれたような気がする。
これから、どんなプレゼントが私のもとに来てくれるだろう。それをとても楽しみにしている。
今日、Mさんから連絡が来た。
社長が別部門で取り扱っているお米を、私の自宅に送ってくれるという。
受け取るのに都合の良い日を伝える傍ら
ひと言ふた言、冗談を言い合って電話を切った。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/54525
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。