パーソナリティ・ミルフィーユ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:わしおあやこ (ライティング・ゼミ日曜コース)
勤め先に、超絶男前がいる。
長身で足が長くて男前で、笑顔が爽やかで服装に気を使い、もちろん加齢臭などとは無縁。仕事をバリバリこなし、タイトスケジュールな海外出張も何のその。滅多なことでは愚痴もこぼさず、周囲への配慮も忘れない。誰かに助けてもらったら、それがどれほど些細な事であったとしても、そして相手がどれだけ自分より格下であったとしても、ちゃんと相手の目を見て「ありがとうございました。また助けられましたね」と感謝を伝える。外出先からは、お礼メールを忘れずに送る。同僚からも上司からも、良い奴だ、熱い奴だと高評価だ。おまけにユーモアセンスもあるときた。これはもう、大半の人は白旗を上げるしかない……そういうレベルの超絶男前だ。
私にとって彼は、それほど近くもない同僚のうちの一人だ。当然、友人でもない。
一緒に働きやすい人。シンプルにそれだけの印象だ。彼のプライベートは知らないし、特段知りたいとも思わない。随分な遊び人だと噂で聞いたりもするけれど、それが本当でも嘘でも、どちらでもいい。私は元々ゴシップに興味を持てない性質だし、そもそも真実がそのどちらであろうと、私の生活には何の支障もない。
だけどひとつ、不思議だな、と思う事がある。
彼の事を男前だ、いい奴だ、素敵だ、と皆が言う。私もそう思う。それなのに、彼を「色っぽい」という人がいないのだ。あれだけの容姿と、頭脳と、人間性を兼ね備えた人だ。職場の誰かが色めき立って恋をしても、不思議ではないのになぁと思う。
なんでなんだろう……? そう考えて、ふと気が付いた。
そうか。彼は、自分の他の「層」を職場では見せないんだ……。
人間は、たくさんの層が重なってできている。
これは科学的根拠があるとか、もちろんそういった類の話ではない。でも、私は割と確信を持ってそう信じている。
私達の人格は、層で出来ている。まるでミルフィーユのように。
善いとか悪いとか、ポジティブとかネガティブとか。複雑とか単純とか、瞬発力とか忍耐力とか。たくさんのいろんな層が重なって、その人を作る。その数、種類、比率……組み合わせの可能性は無限だ。私達の個性は、そんな風に形作られる。
その全部がその人で、その全部が大切だ。どの層が欠けても、その人ではなくなってしまう。
欠けたそれが例え、他者から見ると弱点に見える層でも。
どの層が表に出てくるか。それは環境や条件に左右されて都度変わり、とても不安定だ。
だから私は、自分の誰かに対する印象について、好きか嫌いかは語れても、良い悪いを簡単には語れないと思っている。性善説も性悪説も、どちらも信じていない。
もっと言えば、第一印象という代物もあまり信じない。
もしかしたら、ものすごいアンラッキーに見舞われて、瞬間的人間不信に陥った直後かもしれないし、逆に誰かの天使みたいな行いを偶然目にして、限りない人間の可能性に感動した直後かもしれない。そんな外的条件で、人の印象は簡単に変わるものだと思っている。自分を含めた全人類が、毎日そういう条件に影響されて、表に出る自分の「層」をとっかえひっかえしている。
分速で変わる、私達から見える誰かの一番上の「層」。
その下には一体いくつの層があって、どんな類の層なんだろう?
誰かに会った時、そう考えながら話をするのはとても面白い。
この間ムカつく事を言われたあの人が、今日はなぜか助けてくれたり。
気の置けない仲間から、予想外の痛烈な一言を食らったり。
論理的かつ理性的だと思っていた人が、ある日信じられない暴言を口にするのを聞いたり。
100年話し合っても友達にはなれないと思っていた人が、実は私が人生のバイブルだと思っている本を好きだったり。
その人の層をたくさん知れば知るほど、興味が湧く。ネガティブもポジティブもひっくるめて。
人間だなぁ、と感じるからだと思う。あぁ、この人は私と同じ、生身の人間なんだと安心できるのだ。
私は、お世辞にも人付き合いのうまいタイプとは言えない。だけど、願わくば愛されたいとは思っている。自分の大切なことを曲げてまで人に好かれたいとは思わないが、率先して嫌われようとも思っていない。だから多分、無意識に人に好かれる最大公約数を計算しては、その層を表に出す努力をしていると思う。弱点を率先して見せられるほど、強くもなければ自分に自信があるわけでもない。
だけど、意外とその層ではないかもしれない。人が興味を示すのは。
自分が嫌いだ、弱点だと思っている層を、好きだと言ってくれる人は意外といるのかもしれない。
仮に他の人から見て、依然その弱点が弱点のままだったとしても、その弱点こそが、人を惹きつける自分の要素なのかもしれない。現に私は、誰かの「いつもは表に出さない層」を見た時、親近感を抱いているのだから。
勤め先の超絶男前にも、あるはずなのだ。他の層が。おそらく彼は、これからも決してそれを私達に見せることはないだろう。完璧な、超絶男前を維持する方法を彼はすでに知っているし、当たり前だけれどそれは、私達が見せてくださいよ! と強要できるものでもない。
でも、もしも機会があるなら、一度伝えてみたい気がする。
そろそろあなたのパイの層には飽きてきたので、クリームの部分を教えてくださいよ、と。
彼は多分、こちらの思惑などすぐに見切って、にやりと不敵に笑うだけだろう。
それにもしも、本当に彼がクリームの層を同僚に見せることがあったなら、職場は……えらい事になる。
平穏な労働環境のため、彼のクリーム層は、永遠に封印されておくべきなのかもしれない。
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