メディアグランプリ

星空散歩と背負い投げ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:根本 純希(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「起きて!!」
隣りに寝ていたはずのパートナーの声で目を開けた。
部屋がぐにゃ~っと歪んで見える。今、何が起こっているか解るまでに時間がかかった。



地震だ!!

タンスの引き出しが飛び出し、そのタンスの上に置いてあった母の遺影が落ちた。
ベッドなのか家なのか、どこからかわからないがミシミシと音がする。
枕元のスマホからは「地震です! 地震です!」と警報が繰り返し騒いでいた。
僕らは固まったままジッと息をのむ。段々と揺れが収まってきた。
 
隣りの部屋では子供たちが寝ている。
僕は急いで子供たちの様子を見に行く。
地震で目を覚ました上の女の子が立ち上がり丁度電気をつけたところだった。
「なんだよ~眩しいじゃないか~」と下の男の子も目を覚ます。
部屋を見まわすと本棚から漫画が何冊か落ちているぐらいで子供たちに怪我は無い。
「地震だったけど収まったから大丈夫。おやすみ」と不安にさせないよう笑顔で伝える。
 
時計を見ると9月6日AM3:12
寝室に戻るとまた揺れた。余震だ。
「安平町震度6強だって! ここらへんは震度4!」パートナーが早口で情報を伝える。
 
「子供たち呼んできた方がいいかも」「一緒に寝た方がいいね」とパートナーと話し合っていると子供たちがタオルケットを抱え部屋に入ってきた。
不安そうな姉と、とりあえず姉ちゃんについてきた弟。
皆で寝た方が安心だ。
 
でもこのまま寝るわけにはいかない。
地震……こんな時どうしたらいい? 僕はあらゆる情報を記憶の中から引っ張り出す。
まずはお風呂に水を貯める。玄関のドアは鍵を開けて……そうだガスの元栓を閉める。
忙しく動いているその時、電気がスッと消えた。
停電だ!!
 
暗がりの中、手探りでやることを済ませると皆の待っている寝室に戻る
「よし、大丈夫だ。まずは寝よう」
僕らはダブルベッドに4人くっつきあって眠りに入った。
 
朝、目を覚まし被害状況を確認する。死者、けが人、行方不明者も出ていた。
停電はなんと北海道全部だった。それもいつまで続くかわからない。
幸いにも水道とガスは無事でご飯の煮炊きはできそうだ。
僕らのサバイバル能力が試されるとき。家族会議が始まった。
「トイレは電気ボタンだから流れない。バケツに水を汲んで流すように」
「トイレットペーパーは流さないように! ゴミ箱に捨てて」
「店が開いたら携帯の充電器を買いに行こう。最悪車で充電するしかない」
「冷蔵庫はむやみに開けないように。冷気が逃げるから」
「風呂はしばらく入れない。タオルで体拭いて我慢しよう」などなど
こんな事があると予知していたわけではないのに、5日の夜に食料と1か月で消費するビールや日本酒を買い溜めしていた。食料も酒も誰かに分けてあげられる位あった。
それに洗濯も2回済ませ片付けていたので服に困ることもない。
 
僕は友達から心配のメッセージが来るたびに
「キャンプみたいなものだから大丈夫」と返していた。
 
僕らは被災者だった。正真正銘の被災者だ。
しかしテレビやゲームが出来ない子供たちとトランプをやり、昼寝をした。
夕方になるとロウソクの明かりでムーディな食事をし、いつもより多くおしゃべりをした。
たいした料理ではなかった。冷蔵庫で出番を待っていた肉をただ焼いただけ。ふりかけをかけただけのご飯。
でも家族で一緒にご飯を食べられるということがどんなにかけがえのないことか、
僕は被災者になって初めて感じた。
 
夜、外に出ると満天の星空だった。
停電中の空はプラネタリウムのように小さな星までたくさん見えた。
家族で公園まで星空を眺めながら散歩する。
「魚座は見える?」
「あれは何座だっけ?」
「この星の光は何万光年昔の光だよ。宇宙って不思議だね」
公園に着くと最近漫画のYAWARAを読んでいる子供たちが柔道を挑んでくる
僕も負けずに背負い投げを決めてやる。
公園では僕らの笑い声が響いていた。
 
こんな最中に笑うのは不謹慎かもしれない
大切な人を亡くした方々を想うと胸が痛い。ギューっと痛い。
 
でも僕は決めていた。
映画「ライフ・イズ・ビューティフル」のお父さんのようで在ろうと。
暗くなりそうな時ほどユーモアを。子供たちには安心を。
 
僕たちの星空散歩は1日だけだった。
次の日には電気が復旧し光が戻ったからだ。
光が戻った電灯を見た時僕は少し泣いた。
 
そしてまた新しい日が始まる。

 
 
***

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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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