料理が下手だった母の気持ち
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記事:三木智有(ライティング・ゼミ平日コース)
「この世で一番好きな食べ物はなんですか」
って聞かれたら、なんて答えますか。
僕はでっかいステーキが好きだし、辛口のカレーも好き。
日本人風に、炊きたての温かい銀シャリや寿司だって、にんにくがたっぷり効いたパスタだって捨てがたい。
お母さんの作ってくれた手料理を思い出す人もいるかもしれない。
でも、ここだけの話し、僕の母はあんまり料理が上手じゃなかった。
専業主婦だった母は、毎日毎日僕たち兄弟と父のために色んな料理をつくってくれた。うちにはたくさんの料理本や雑誌が置いてあって、いつも違った料理を準備してくれる。
思春期の息子を2人も抱えた当時のわが家では、メインになるオカズが2〜3種類に、栄養を考えた小鉢、そしてご飯に味噌汁が定番。
生姜焼きとサバの塩焼きの日もあれば、春巻きとチキンソテーの日や、酢豚とカレイの煮付けって日も。
母は料理ができるかできないかのうちに、腹をすかせた兄弟を呼び、先に食べさせ、そうこうしているうちに父が帰ってきて父のためのメニューを別に作る。
母は合間を見ながらちょこちょこと食べ、みんなの食事が出揃ったらようやく椅子に座った。
そしてさぁ食べよう、と思った矢先に「ウインナー焼いて!」「目玉焼きつくって!」「なんか適当に肉焼いて!」と、まだ足りない僕たち兄弟が言いたい放題。
みんなのおかわりをして、落ち着いた頃、ささっと食べたら今度はデザートタイム。
みんなに、りんごやスイカを切り分けて食べさせたら、そこでようやく自分もゆっくり。
そして、全てが食べ終わったら食器洗いだ。
こんな慌ただしい食事を毎日毎日、兄弟が自立するまでの20数年間休むことなく繰り返してくれた。
時に新しいレシピにもチャレンジして、家族を飽きさせないように工夫してくれていた。
これだけ毎日色々な料理を作ってくれて、家族を支えてくれた母の料理が上手じゃないって?
そう、残念ながら母がこだわる程に、料理は美味しさから遠ざかっていったのだ。
母は生粋の料理好きというわけではなく、そのミッションは家族の「安全・安心・健康」だった。
その結果「薄味」「火はこれでもかと言うほど入れる」と言う強迫観念に駆られていた母のつくる料理は、すべからくジューシーさから遠ざかっていった。
カチッカチに引き締まったポークソテー。
パサパサに油が落ちきった焼き魚。
水煮のように薄い肉じゃが。
ステーキを切ってみて赤みが少しでもあろうものなら、再加熱して、切り口を真っ白に。
おかげで食中毒になったことは一度もない。
だけど、僕が「この世で一番好きな食べ物」は、母の作ってくれた唐揚げだ。
子どもの頃から唐揚げが大好きで、だから、ただ唐揚げが好きなだけだと思っていた。もちろん唐揚げ自体が好きなのは間違いない。
だけど、色々なところで色々な唐揚げを食べて思った。
母の作る唐揚げにはかなわないと。
母の作る唐揚げはいたって普通の唐揚げ。にんにくと醤油に漬け込んで、片栗粉をまぶして揚げる。
でも、なぜだろう。どこで食べる唐揚げとも違う独特の美味さがある。火を入れすぎているのだろうか? 薄味なんだろうか? 答えはわからない。
唐揚げの日は、揚げているそばからつまみ食いしていた。
できたての熱々を「中まで火が通ってるかちゃんと見て!」と言われながら、それに「うるせーなー」と口答えしながら頬張っていた。
今は、僕が妻と3歳になる娘に毎日ごはんを作っている。
まだまだ好き嫌いの多い娘は、作っても食べなかったり、平気で「これ嫌!」と言ったりする。
そんな娘が毎日残さずに食べてくれるのが、幼稚園で食べるお弁当。だから毎朝色々と考えながら娘のためにお弁当を作っている。
面倒くさいから、あまり揚げ物は作らないのだけど、この前娘のお弁当に唐揚げを作って入れてみた。
だけど、久しぶりに作る唐揚げのできはイマイチだった。
健康のためを思って、油を少なめに、揚げ焼きにしたのが失敗の元だろうか?
ちゃんと火を通さなきゃと、表面が軽く焦げるまで火を入れてしまったのが原因だろうか?
今なら、母の気持ちがよく分かる。
家族のための料理は、家族の「安全・安心・健康」をベースに美味しさをプラスする。
お腹が痛くなったりしないように気をつけるし、太り気味で高血圧の夫の身体を心配する。家で食べるごはんで、みんなに元気になってもらいたいのだ。
僕の母は、あまり料理が上手じゃない。
でもそれは、家族を想ってつくってくれたからなのかもしれない。
久々に、母の唐揚げが恋しくなった。
今度の帰省時には、唐揚げをリクエストしてみよう。きっと娘も気に入ってくれるはず。
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